河合雅司(産経新聞論説委員)
 民主党の分裂騒動にまで発展した社会保障・税の一体改革関連法案が、衆院を通過した。参院で可決・成立すれば、現行5%の消費税率が段階的に10%に引き上げられる。

抑制策は置き去り


 しかし、これで社会保障財源が安泰とはならない。高齢化で社会保障費は膨らみ続けるのに、今回の改革では自己負担増や給付抑制策は置き去りにされたためだ。将来の消費税再増税は避けられないだろう。

 ただ、今回でさえ国民の反発が強いのに再増税となれば簡単ではない。ならば、「社会保障費に切り込まず、消費税の再増税もせずに、給付水準は現行水準を維持する」-などという“都合のいい話”はないのだろうか。

 方法がなくはない。例えば、生涯に利用する社会保障サービスのうち、税や国債による「国庫負担」で賄われてきた額を、死亡時に国に返還する制度を導入したらどうか。

 日本の社会保障制度の多くは、保険料で賄う「社会保険方式」だが、保険料や自己負担額を低く押さえ込むために多額の税金が投入されている。しかも、低所得者や社会的弱者だけでなく高所得者までが対象だ。

税負担60・5兆円


 政府の推計では、2012年は保険料収入60・6兆円に対し、国庫負担は40・6兆円。団塊世代が75歳以上となる25年には、これが85・7兆円と60・5兆円になる。この国庫負担分の財源を賄い続けるために、消費税増税をするようなものである。
 そこで、この国庫負担分を「本来ならば国民が支払うべき保険料の一部を、国が一時的に肩代わりしたもの」と見なすのだ。国から国民への“貸与”との考え方である。サービス受給者が亡くなったときに国に返還してもらうことで、新たな社会保障財源として“循環”させようというわけだ。

 富裕な高齢者の大半は財産を残すが、この国庫負担分は自ら汗を流して得たものではない。国庫負担がなければ財産はもっと少なかったはずなのである。だが、現状ではこの国庫負担分も含めて、遺産相続によって妻や子供に移ってしまっているのだ。

 具体的には、相続時に生涯に受け取った国庫負担の相当額を国が優先的に徴収する。妻や子供など相続人はそれを国に支払った後に残った額、つまり死んだ人が自ら稼ぎ出した財産のみを相続対象とするのである。

 これならば、生きている間の社会保障水準は下がらないし、お墓に財産を持っていけないので本人に損はない。減るのは遺族の取り分だが、遺族に新たな負担が生じるわけでもない。

10兆~13兆円捻出

 国民1人が生涯に受け取る国庫負担額を、基礎年金、後期高齢者医療、介護保険の高齢者向けサービスに限って計算すると950万円。地方自治体の負担分を含めれば1300万円だ。高齢者の年間死亡数は100万人超なので、理論的には約10兆円から13兆円もの新規財源捻出が可能だ。消費税率4~5%分の再増税を回避できる。

 もちろん、このアイデアを実現するには、どれぐらいの相続財産を持っている人を対象とするのか、現金でなく土地を所有している人をどうするかなど、乗り越えるべき課題は多い。

 だが、日本の少子高齢化は「国家の非常事態」だ。過去の常識にとらわれていては乗り切れない。選択肢の一つとして検討してよい時である。