山田吉彦(東海大学教授)



 「江戸の日本橋より唐、阿蘭陀(オランダ)迄境なしの水路也」

 江戸時代中期の経世家・林子平は、ロシア南下政策を知り「海国兵談」を著し海防の必要性を説いた。その書の中で、日本は四方を海に囲まれ、常に海からの侵略に備える必要があること、海の道を通じ世界とつながる無限の可能性を持つことを示唆したのである。

 それは国際化、情報化が進んだ現代においても変わらない。海洋資源開発が進み、海の重要性はさらに高まっているのだ。

利害が輻輳する海洋利用


 特に1994年に発効した国連海洋法条約は、それまでの国際関係を一変させた。海洋は地球の表面積のおよそ70%を占めているが、この条約は、不明確だった海洋権益の帰属を定めた。具体的には沿岸から12カイリの領海と、その先200カイリまでの排他的経済水域を認め、その中で発生する経済的権益を沿岸国に対し、優先的に認めたのである。この条約は1958年に国連第1次海洋法会議が始まって以降、発効に至るまで36年もの歳月を要した。それだけ海洋利用は、各国の利害が輻輳(ふくそう)し、慎重さを要するものなのだ。

 国連海洋法条約成立の結果、海を広く持つ国と持たない国が現れた。そして、狭い海しか持たない国は、管轄海域の拡大に躍起となった。その代表は中国である。

 中国は300万平方キロメートルの管轄海域を持つと主張するが、実際に同国が管理下に置いている海域は100万平方キロメートルにも満たない。中国は海洋権益に着目し、野心を前面に出して、その獲得に動き出した。

 管轄海域を拡大するには、その基点となる島、もしくは海岸線を獲得しなければならない。そのため、中国は東シナ海、南シナ海においても強引に島の領有権を主張し、海域の管轄権を行使しようとしている。その島のほとんどは無人島である。このような島は防衛機能も持たず、中国の侵攻に耐えることができない。

 しかし、中国といえども他国民が既に居住し、コミュニティーを持つ島への侵攻は難しいようだ。島嶼(とうしょ)における安全保障の第一は、島で人々が安定して暮らす社会を構築することである。

無人島を他国に奪われる危険


島根県竹島資料室「竹島の日」10年記念特別展。竹島の写真などが紹介されている=松江市
 日本は国家が守る力を失うと、島は簡単に奪われてしまうことを北方四島で経験した。北方四島では、人々の生活が奪われ、家族を失った人も多い。かつて国後島で郷土史を教えていたロシア人教員に、ロシアが北方四島を実効支配している根拠を質問したところ「第二次世界大戦の結果獲得した土地である」との返答があった。旧ソ連軍は無防備となった島民から島を奪ったが、ロシア政府は北方四島は第二次世界大戦の戦利品であると学校で教えているのだ。

 連合国軍はカイロ宣言により領土的な野心を持たないはずであるが、そのような考えについてロシアは聞く耳を持たない。日本人の性善説は、国際社会において通用しないことが間々ある。

 無人島が不法に他国に占領される危険があることは、竹島を韓国に奪われたことが一例だ。既に韓国は、竹島を「独島」と称し、自国の領土であることを教育の中に取り込み、その意識を国民に徹底して植え付けている。

 また中国も、尖閣諸島の奪取をもくろみ、連日、中国海警局の警備船を周辺海域に派遣し、領海にもしばしば侵入している。国連海洋法条約では他国の公船に対する法執行は禁止されているため、海上保安庁は強制的に排除することもできない。

問題の顕在化が重要だ


 1月から2月にかけては、海洋問題、領土・領海問題に関して地元の意向を反映する行事が続く。

 1月14日は石垣市が定めた「尖閣諸島開拓の日」である。しかし、残念なことに今年の記念式典には、与党の国会議員の姿はなかった。

 2月7日は、政府が定めた「北方領土の日」であり、安倍晋三首相出席のもと、式典が執り行われたが、産経新聞以外、記事の扱いは小さかった。

 2月22日は「竹島の日」である。この日を条例で定めた島根県は同日式典を行う予定だ。山谷えり子領土問題担当相は、内閣府政務官を派遣する方針を発表した。式典の盛会を強く期待したい。

 中国、ロシア、韓国との友好を過度に慮(おもんぱか)るため、これらの式典開催に反対する人もいるようだが、記念行事などを通じて問題を顕在化することが重要だ。政府はこれらの式典を活用し、国民の理解を促すとともに、領土・領海に関する教育を徹底し、海を越えて押し寄せる脅威から自らを守る意識の醸成を図らなければならない。

 国民が海域紛争や領土侵略について考えることが本質的な問題解決の前提となり、近隣国との関係構築に向けた第一歩となる。わが国は国際法のもとに海域の安全を守り、固有の領土を取り戻すとともに、国際社会の安定に寄与しなければならない。