森口朗(教育評論家、東京都職員)

 安倍総理のヤジによって、久しぶりに世間から注目されている日教組=日本教職員組合とは何者なのか。

 本稿では、その概略を読者にお伝えしたいと思います。

 日教組の現状を一言で説明するならば、

 「日本共産党の党員やそのシンパではないが、『9条を遵守すれば未来永劫日本は平和である』『戦前の日本の歴史は侵略の歴史である』『国旗掲揚や国歌斉唱の強制は良くない』『教育に競争原理を持ち込むべきではない』といった左翼思想に対して共感している教職員を中心とした職員組合」

 という事になるでしょう。

 ここで注意すべき点は4つです。

 1点目は、日教組は日本共産党とは仲がよろしくないという点です。この辺りはご年配の方とお話をしていると誤解されている人が多い気がします。確かに戦争直後日教組を立ち上げる際には、日本共産党が密接に関わり、一時期は日教組を思想的に先導していたのですが、1989年に日本労働組合総連合会(いわゆる「連合」)が発足する際に、多くの官公労がそれを支持する非共産党系組合と、それを「良し」としない共産党系組合に分裂しました。日教組もこの流れで、共産党系が日教組とは別の全日本教職員組合(いわゆる「全教」)を設立して出て行く形になったのです。

 2点目は、日教組の中枢を占めている人たちが極めて左翼思想の色濃い人たちであるということです、先ほど述べたように日教組は共産党と袂を分かったのですが、それでは共産党が出て行って日教組の左翼体質は多少改善したかというと実態はその逆です。教師という職業の捉え方にしても全教が「教師も労働者であり、同時に教育の専門家でもある」と捉えますが、日教組はそのような捉え方は教師の労働強化に繋がる恐れがあるとする考え方が主流です。また、同和教育についても全教は同和差別が過去の問題であると考えるのに対して、日教組は同和教育推進派です。

 そして3点目、これが最も重要なところですが、教育政策の決定に極めて大きな影響力を有しています。但し、その表れ方は政治状況によって異なります。民主党政権の時には、日教組が民主党の支持団体というよりは、民主党が日教組の政治部門かという程に権勢をふるいました。

 その典型が、あれほど議論した末に導入した悉皆調査である全国学力・学習状況調査(いわゆる「全国学力テスト」)を、抽出試験にして完全に骨抜きにしたことです(これは、自民党政権復活によって直ちに悉皆調査に再是正されました)。全国一律の試験によって小中学生の学力を調査し教育政策に役立てるという視線は、1960年に日教組が中心となった運動によって廃止に追い込まれました。合理的な政策は事実を把握するところからしか生まれません。この調査が復活するまで、秋田県や福井県の子ども達が高学力であることなど、その県の教育関係者さえ知りませんでした。しかし、客観的事実の把握は、思想洗脳教育にとっては邪魔なのでしょう。全教も日教組も一貫して調査に反対しています。その根拠が「教育に競争原理はそぐわない」という左翼思想です。

 もちろん、自民党政権下で日教組が表立って政策に影響を当てることは不可能です。このような場合、彼らは現場レベルに降りてきた政策を骨抜きにすることに腐心します。例えば、卒業式や入学式に国旗を掲げ、国歌を斉唱することは学習指導要領で定められています。学習指導要領には法的拘束力があるので、さすがにこれを無視する学校現場は今ではほとんど無くなりました。しかし、「事前に国歌斉唱の練習をしない」などは当然で、「ピアノ伴奏ではなくCDにしてボリュームを押さえる」「事前に生徒に『国歌斉唱時は無理に立たなくても良い』と指導する」「国旗は正面ではなく緞帳の陰に隠れるくらいの場所に置く」等々、様々な妨害工作を行います。それを行う際に最も肝心なのが、卒業式・入学式の実務責任者を誰にするかです。

 文部科学省の調査により、一部の学校で教職員の選挙により校内人事が行われていた事実が発覚し、過半数を占めていた大阪府で教育委員長(「百マス計算」を普及した陰山英男氏)の責任が問われていますが、その背景には卒業式・入学式を始め様々な学校行事で自分達の主張を通したい教職員組合の意向が働いているのです。

 また日教組は教育委員会とも密接な関係を持ち、地域によっては校長や教頭といった管理職の選考にも口を出します。そこまで酷くなくても、慣例的に友好関係を持つ自治体は少なくありません。例えば、表向き日教組と関係のない団体が教職員研修を行い、それを教育委員会が後援する。しかし、会場は日教組が事実上所有する会館で、会場使用料を通じて日教組が潤う、というのは現在も頻繁に見られます。

 冒頭の安倍総理のヤジやそれに対する弁明は舌足らずの点がありますが、これらの事実を念頭になされたものと理解すれば、本質を捉えたものであることが判ります。

 最後に4点目として、これは希望的観測ではありますが、日教組はこれからの数年で益々影響力が低下していくと予測できます。それは教職員集団の左翼洗脳が、若い人ほど解けてきているからです。その昔、組合活動をしていた教育委員会の指導主事よりも、現場の若手教員の方が、国旗や国歌に批判的な老教師を軽蔑しているなどという例はざらにあります。日教組は現在、左翼思想をひたすら隠して若手勧誘を行うか、思想に準じて滅びるかの岐路に立たされているのかも知れません。


森口朗
日本の教育評論家、東京都職員。95年~05年まで都内公立学校に勤務。偏差値で学力を測ることの妥当性と限界を明らかにした。紙媒体で初めてスクールカースト概念を紹介し、いじめとの関係を解明。著作に『日教組』(新潮新書)、『いじめの構造』(新潮新書)、『偏差値は子どもを救う』(草思社)などがある。