地域活性化の現実を見よ

木下斉×飯田泰之

柳瀬 徹 (フリーランス編集者、ライター)

 人口減少の進行と地方経済の衰退を受けて、第二次安倍改造内閣が重要課題として掲げている「地方創生」。「官僚や有識者を地方に派遣し、地域の声を聞く」「補助金バラマキにはしない」などと政権内部からは勇ましい声が聞こえてくるが、具体像はまだ見えていない。

 一方で、「創生」される側である地方に目を移すと、B級グルメやゆるキャラのブームが全国津々浦々まで浸透した感もあるものの、それによって本当に地域の活性化は果たされたのか、疑問も多い。

 まちをひとつの「会社」に見立てて経営を立て直す事業に携わる木下斉氏と、経済学の立場から都市と地方のあり方を模索する飯田泰之氏の対話は、戦後日本と地方の関係を象徴する「新幹線」を問い直すことから始まった。

交通網の発達で 人もお金も地方から大都市へ


 木下:北陸新幹線が来年の春に開通します。地方には相変わらず新幹線待望論が根強いのですが、それが果たして地域活性化につながるのかというと、そうとは限らないと思うんです。つまりそれで地元に流入するお金が増加するのかという問題ですね。

 飯田:新幹線の駅があるということには、とてつもないメリットがありますが、それは移動する人、つまりは頻繁に地域間を、もっといえば東京とその地区を行き来する人にとっての利便性でしかないですよね。

 木下:その移動に関するメリットは絶大ですよね。地方から仕事の依頼を受けるときも、近くに空港か新幹線駅があるかどうかはすごく気になります。どちらもない場所に行くためには半日、場合によっては丸一日かかってしまう。地域外から行く人にとってのハードルは、きわめて高いですよね。
飯田泰之さん(左)と木下斉さん(右)
 飯田:そうですね。空港から大きな街が近いとか新幹線の駅前が中心街という地区だと下手すると関東近県のちょっと不便なところよりも「東京に近い」とさえ感じられますからね。

 木下:地元の方にとっても利便性がまったく違います。アクセス圏内に駅か空港があれば、地域内から地域外への人の移動は確実に増大します。

 飯田:入ってくる人が多くなるということは、出ていく人が多くなるということでもありますよね。

 木下:まず個人的なレベルで言えば、お金も時間があるから当然ですけど、やはり富裕層ほど移動が多くなります。知り合いの地方在住者でも、空港の圏内に住んでいる人の中には、年間の交通費が300万円を超えるという方もいます。彼らはちょっとした集まりがあれば、すぐに東京に出てくる。東京にセカンドハウスをもって行き来している場合もあります。国内なら飛行機だったらまぁ1時間半くらいですし、新幹線でも5時間あれば東京などに出てこれる。お金に余裕があって、消費意欲がある人の財布ほど、多様な消費する場が集積している消費地に吸い寄せられてしまう。

木下斉さん
 企業などの場合にも、新幹線が開通すれば、それまで分散して支社・支店を設けていたものを統廃合してしまいます。出張で行き来できるような範囲にわざわざ事務所を固定的に置くことはしません。ましてや地方は市場縮小のプロセスにあるので、より効率的な配置をしていく。東京資本の企業の支店勤務者は地方では高所得者層になり、地元消費でもそれなりのポジションを占めていたのが、一気に薄くなってしまう。事務所機能なども新幹線などの高速移動網で接続された大都市に、一気に吸い上げられていく。

 飯田:交通網の発達により、人とお金が地方から大都市に吸い寄せられてしまう「ストロー現象」は以前から指摘されています。近年の典型例は東北新幹線でしょう。割を食うかたちになったのが盛岡と仙台です。

 僕自身は、4時間以内の移動時間だったらなるべく電車で動きたいんですよ。飛行機は本数も限られているし搭乗前に余分な時間を40~50分は取られてしまうこともある。それに比べると新幹線はギリギリに飛び乗ることができますから。『Wedge』も新幹線で毎号読んでいます(笑)。

 木下:「買っています」じゃないんですね(笑)。地方の方でもグリーン車に乗っているから読んでいるという方は多いですね。

 飯田:まさに地方の富裕層が、東京に出てきて消費してしまう。これは地元経済にとっては非常に深刻な問題です。日本におけるお金持ちはいわゆる名家や地元財界人、医者。そういう人たちが、地元のデパートの外商部を家に呼ぶ、そんな文化は交通網の発達により、おそらくほとんど消滅してしまいました。お客が少なければ品揃えも薄くならざるを得ません。その結果ますます地元百貨店よりも東京や大阪に行って消費ということになるわけです。

 木下:そうなんですよね。今の地方の富裕層は本当に良いモノを知っているので、地元百貨店の品揃えではもう満足しなくなっている。消費地に出て行って消費をするというライフスタイルが確立してしまった。北陸新幹線の開通に関しても「これで活性化する」といまだに言われていますが、そんな単純ではない。全国各地の新幹線駅周辺を見れば分かります。普通に東京からの日帰り可能エリアに完全になってしまうわけですから、個人の面でも、企業の面でも、流入よりも吸い上げられる危機感を優先して持ったほうがよいだろうと思うわけです。

 飯田:利用する側にとって交通網の整備は本当にありがたい。さらに大消費地にとっては新規顧客のチャンスというわけですが。その一方で、「地元のためになる」を額面通りに受け取ってはいけない部分もあるでしょう。


 木下:そうなんですよ、何といっても便利ですからね。「国」という単位で見れば、お金を持っている人の移動が活発になって消費なども喚起され、企業活動が効率化されていくことはメリットですが、「地方」にとっても同じ構造とは限らない。

 飯田:交通手段の発達によって、都市への集中はますます進みやすくなっていますからね。

 木下:しかも今後はさらにより大きな都市への集中がどんどん進むでしょう。危機感を持たなければいけない人たちが、今は持っていないんです。

地域活性化とは「貧困の解消」である


 飯田:インターネットが普及し始めたときに、「これで地方でも東京にいるのと同じように仕事ができる」などとさかんに言われました。

 木下:はい、リモートワークでどこでも仕事できるという考え方ですね。

 飯田:実際は、ほぼすべての実証研究が正反対の結論を出しています。リチャード・フロリダ※などが指摘するところですが、知的生産やクリエイティブと呼ばれるような職種ほど、同じような職種の人たちが集積している場所でないとできないことがわかってきています。

 ※リチャード・フロリダ:都市経済学者。「クリエイティブ・クラス」に着目した地域発展論を提唱。邦訳書に『クリエイティブ都市論』(ダイヤモンド社)など。

 木下:「分散するだろう」と言われていたのとは、逆の現実なんですね。

 飯田:なぜシリコンバレーがいまだに存在しているか、を考えれば明白です。事前の予想では世界で一番リモート・ワークに向いていそうだと思われた人たちが、一番地理的な集積を選んでいるわけです。

 木下:物理的に集まっているほうが営業効率も高いし、人材集めも行い易く、何もかもが進めやすいですよね。わざわざ全てを分散させるメリットを探すほうが難しい。しかも多くは付加価値の高い生産をしている人なので、大都市で暮らすコストは吸収できてしまいます。余暇に海や山に行けるのは地方に暮らしたり、サテライト・オフィスなどを設けるメリットではあるけれど、そこを中心拠点にする理由はなかなか見いだせないですよね。小さいうちはできても、規模が大きくなったらやはり大都市に出てこざるを得ない。

 飯田:集中することのメリットは確実にある。その上で、あられもなく根本的な話なのですが、いったい何をすれば「地域活性化」なのでしょうか(笑)。

飯田泰之さん
 木下:僕らがやっているのは「域内をひとつの会社として見立てる」ということなんです。その上で、その「会社」の収支を改善する。論理はシンプルで、地域に入ってくるお金をいかに増加させ、出て行くお金をセーブするか。域内になるべく留保させて、地域内での消費を活性化させる。それが可能になる環境を整備することが「活性化」、というのが我々の定義です。

 飯田:ジェイン・ジェイコブス※の「輸入代替」の視点ですね。入ってくるものを自給できるようにし、内部循環を作るという。

 ※ジェイン・ジェイコブス:ノンフィクション作家・ジャーナリスト。主著に『都市の経済学-発展と衰退のダイナミクス』(ちくま学芸文庫)など。

 木下:ところが、今は稼ぐ手段もなければ、投資する先も地域内になくて地元外になってしまって、どんどん資金も人材も出て行く一方というのが多くの地方の現実です。「地方の衰退」という言葉で語られることが多いですが、我々はあえて「地方の貧困」として捉えています。

 それは如実に「貧困」なんです。教育機会も低下していますし、人口も20万人から15万人、さらに10万人と規模が小さくなっていくと、高校ごとの学力レベルの違いもなくなってきて、みんな同じレベルになってしまう。学力の高い子ほど高校入学時点から地域外に出なければいけない状況になってしまうのは、その地域の人口規模の大きさによって、当然のことですが皆が出せる教育負担の総額は縮小するわけで、結果として教育機会の多様性も失われてしまうからです。高い能力のある人ほど、早い段階で地域を離れるのがその個人にとってプラスになる。そして逆の構造もまたそこにある。これは貧困の連鎖であり、そういう地域を活性化するということは、「貧困の解消」を意味します。結局は産業であり、所得であり、それに紐づく税収の問題です。だからすべての問題が経済に立脚しているともいえますね。

 飯田:学歴そのものというよりもその都市が稼げる都市か否かの方が収入には有意に影響するというエンリコ・モレッティ※の指摘がありますが、そのキーになる移住の可能性を高めるのはやはり学歴ではないかと私は考えています。大卒者が少ない地域では、そもそも「大学に行く」という概念が希薄です。これは文化資本の問題ともいえると思いますが、大学に行くカルチャーがなければ、高校受験段階で進学校に行く、行きたいという考え方にも至りにくい。つまりは勉強しなければいけないという空気がないんです。

 ※エンリコ・モレッティ:労働経済学者。労働人口や投資、雇用の増減に着目し、都市間の格差拡大を分析した『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』(プレジデント社)が大きな話題に。

 飯田:先進国に共通の現象として、大卒者の年収はその国の経済成長率とおおむね同じペースで伸びていきます。ところが高卒者の就く仕事の年収はほとんど上がっていない。ただし起業家の年収になると学歴は関係なくなりますが、これも起業というカルチャーがなければ起こらない。

 マーケティング理論では「消費者の選択肢に入る」ということが重視されます。人生においても選択肢に入らない、言い換えれば思い浮かばないものを選ぶことはできないんです。起業することを思い浮かべない人は起業家にはならないし、進学という選択肢が頭から排除されている人は大学には行かない。カルチャーの有無は世代を重ねていくことによって、地域間の格差を拡大させます。いわば国がしだいに分解していくことを意味しています。

Uターン組が役所に就職してしまう


 木下:分離していく方向性はすごく強いですね。地域のプロジェクトを我々がやっていても、不幸だなと思うのは、せっかく東京で勉強したり、仕事して地元に戻ってきた大卒者の方が付加価値を生まない側に回ってしまうことがとても多いんです。つまり、役所などの公共セクターで働いてしまう。

 飯田:そうですね。大卒で、地方で、雇われるとなると公的セクター以外に選択肢がないに等しいという地域もあります。

 木下:そうです。教育を受けている世代は非生産的な地域のコストセンターに回ってしまい、逆に地元に残った選択肢が少ない側の人達のみが、自分でできる範囲の商売をしているという現実もあります。こちらもまた公務員になる層とは大きく乖離しています。結局は高卒でバリバリ店やっているとか、中小企業継いでいる人とかのほうが地方経済を支えていて、高度教育だけは受けた人材が行政で地域経済の重荷になってしまうという地方の構造があるのです。

 木下:例えば、地域で新たな事業をやろうとして、役所の人たちと話していても、埒が明かないことが多いわけです。東京とかでバリバリ事業をやりたいとか、リスクを取って起業しようとかいう志向がないからこそ、地元に戻ってきて役所に就職して落ち着いてしまっている、基本的にはそういう場合が多いわけです。

 そういう方に新規事業の話をしても理解してもらえない。目の前に与えられた仕事をちゃんとやろうというモチベーションは正しいものですが、それだけではもうどうにも地方が立ち行かないことが明らかになっているのに、これまでの仕事の枠組み、進め方以外を自分で開拓していこうとは思わないことが多い。しかし彼らは行政組織として許認可を含めた権力を有しているわけです。ただし、若手の一部にはまだ環境に毒されずに、どうにか新しいことに取り組みたいという人もいます。だけど、自分からは行動できない。このあたりを狙い撃ちにします。

 一方で、やる気はあってリスクもバリバリとって事業やるけど、権力もなければオーソライズもされていない人たちこそが、地域で様々な事業を起こし始めています。これらの人たちを街で飲み歩いて発掘することも大切です。

 権力を持っているけれど自分達が率先して挑戦できない人と、やる気があってバリバリ挑戦するけど地元では公的立場のない人を組み合わせて事業化を図っていく、これは我々の仕事では極めて重要な役割です。外部の人間であり、かつ市役所にも一定認知されている、そういう存在が間をつなぎながら、地元にいても相容れない2つの層が、互いのメリットを認めて事業をやる枠組みにしないと、しっかりとした実績を上げることは難しいです。

 飯田:東洋大学の川崎一泰さん(財政学・公共経済学)※の研究では、地方公務員と民間の官民給与格差が大きい地域ほど、労働生産性が低いことが指摘されています。

 ※川崎一泰(2013) 「官民給与格差が地域経済に与える影響」,『官民連携の地域再生――民間投資が地域を再生させる』(勁草書房)、第四章。

 合理的に判断する人ほど、給料が高ければ公務員になってしまう。地元に愛着を持っていて、地元を何とかしたいと思っている人は多いでしょう。でも、さあ何をやるか、となるとビジネスに向かわずに、地方公務員になってしまう。

 木下:もっとビジネスマインドのある人は東京に来てしまうし、海外にだって行ってしまいますよね。おっしゃるように地域内での給与体系は公務員が一番高いケースが多いし、様々な社会保障も恵まれています。ビジネスを起こそうと思った時に、よりチャンスのあるところでと思うのが自然です。

 だからある意味で相対的に行政のポジションが低い「大都市集中」が進んでいくのは自然な流れだと思います。せっかく頑張って地元で事業を興しても、役所で淡々と仕事をしている人のほうが給料高かったら、やはりバカバカしくなるし、生産性なんてあがらないですよね。だから、地域で事業を興しても、規模が一定以上になると大都市に拠点をシフトしてしまう人も少なくありません。地域経済の規模は小さい割にしがらみは多くて、さまざまな「調整」もかかったりします。ビジネスの自由さや公正さでいえば、大都市のほうがフェアなんですよね。

 飯田:「都市は人を自由にする」は現代にも生きているのかもしれません。よほど強い動機がないと、地方で事業を興して継続していくのは難しい現実があるわけですね。

 きのした・ひとし 1982年生まれ。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、内閣官房地域活性化伝道師、熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、一般社団法人公民連携事業機構理事。高校時代に全国商店街の共同出資会社である商店街ネットワークを設立、社長に就任し、地域活性化に繋がる各種事業開発、関連省庁・企業と連携した各種研究事業を立ち上げる。以降、地方都市中心部における地区経営プログラムを全国展開させる。2009年に一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。著書に『まちづくりの経営力養成講座』(学陽書房)、『まちづくりデッドライン』(共著、日経BP社)など。

 いいだ・やすゆき 1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

やなせ・とおる フリーランス編集者、ライター。1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』、五野井郁夫『「デモ」とは何か―変貌する直接民主主義』、若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』、五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』など。

※この記事は全4回のうちの第1回です。第2回以降はこちら。