「百年の計」で地方消滅に立ち向かう

増田寛也×飯田泰之

柳瀬徹(フリーランス編集者、ライター)

 昨年末の衆院解散総選挙により、「第2期」を迎えることになった安倍政権によるアベノミクス。その目玉として掲げられるローカルアベノミクス=地方創生の理論的支柱となっているのが、元岩手県知事で日本創成会議座長を務める増田寛也氏だ。その著書『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)は「このままでは896の自治体が消滅しかねない」と訴えかけ、大きな衝撃とさまざまな議論を呼んでいる。

 「消滅」の真意や東京一極集中の是非、にわかにクローズアップされてきたコンパクトシティ構想の実現可能性について、エコノミストの飯田泰之氏が聞く。

異なる「地方」観と異なる政策が必要だ


飯田:ご著書の『地方消滅』については類書や批判本が書店店頭に溢れていて、もはやひとつのジャンルになってしまった感さえあります。これだけ多くの方にインパクトを与えた背景には、現内閣の掲げる「地方創生」以前から、地方が危機に瀕しているという問題意識が広く共有されていたことがあったのだと思います。その分、このタイトルは衝撃的でしたし、やはりそうか、と多くの人に再認識させるものでした。

 お話をうかがっていく前に確認させていただきたいのは、この本が前提としている「地方」のスケール感です。というのは、人によってこの言葉でイメージする人口規模や広さは、大きく異なる印象があります。

増田寛也氏
増田:厳密な定義ではなくあくまでも指標ですが、まずは人口40万人以上の都市が地方経済の牽引力にならないと厳しいという実感を持っています。それらが活躍すれば、その近隣の5万~10万人都市や中山間地域でも、波及効果や機能連携で住みやすくなりますし、20万~30万人都市であれば40万人都市との共生で、独自の産業や雇用を生み出すこともできるでしょう。サービス産業が成立するかどうかがひとつの試金石になります。

飯田:牽引役が必要だということですね。

増田:そうです。それによって日本の人口の大きな部分を抱えている5万~10万人都市も、住みやすい地方であり続けることが可能になるでしょう。

 中山間地域、5万~10万人、20万人以上、40万人以上、それぞれに機能分担をして別の施策を考えていくべきだと思いますが、この議論をすると「20万人以下は捨てろということか」という批判を受けやすい。それはまったくの誤解で、実際にこの本では全国の市町村区の将来人口推計を掲載して、モデルやスケールを分けて考察しています。

増田:さらに「地方」は東京以外の話ではなく、たとえば豊島区など、東京23区にも消滅可能性があることを指摘しています。この本での「地方」とはすべての自治体のことなんです。

飯田:基礎自治体の維持可能性を検証している、と。

増田:そうです。ですからいわゆる「田園が消滅する」「里山が放棄される」といった議論ではありません。

飯田泰之氏
飯田:「限界集落をどう維持するか」という議論でもないということですね。

増田:それはまた別の社会政策的アプローチが必要になるのだと思います。

飯田:この本への批判にも、議論が混在している印象がありましたが、いまのお話で論点がクリアになったように思います。

 増田さんは1995年から2007年までの3期12年間にわたって、岩手県の知事としてご活躍されてきました。私も縁があって岩手県にはよく行くのですが、県全体で見ると都市機能の多くは盛岡市に集約されていて、三陸沿岸部は漁港とそれに付随する施設や産業などで街が構成されている印象です。逆にいえば大きな漁港のない地域は厳しい状況にあるように思います。

 これは全国共通の問題で、4月に施行される改正地方自治法では人口20万人以上が「中核市」となりますが、実際はほとんどの場合は「まず県庁所在地をどうするか」ということになるだろうと思います。それらが活性化して地方経済の牽引力になるために、必要な産業とは何でしょうか?

増田:人口減少が続く岩手県内でもトヨタ関連やセブン-イレブン・ジャパンなどの大型の企業誘致を続けている北上市の場合、2014年11月時点での有効求人倍率は1.87倍で、地元だけでは労働力が不足している状況です※。

 海外との競争力のある製造業のある都市とその周辺地域では、まだ可能性があります。ただ、製造業誘致はどこでやってもうまくいくわけではありません。

 やはり柱は広義のサービス産業になっていくでしょう。百貨店や商店などの物販はある程度までeコマースに代替されてしまうでしょうが、交通事業者や医療介護など、人的資本が必要とされる業種そのものは高齢化で今後しばらくは需要が増していくはずです。こういった業界が、若者にもっと給料を払えるようにならないと厳しい。

※参照記事:「岩手日報」2015年1月5日付
労働力不足に外国人採用の動き 北上、数百人規模か

飯田:製造業は大きな工場が来た時の、雇用へのインパクトが非常に大きかったですし、しかも被雇用者の熟練が進むという大きなメリットがあります。だからこそ、これまでの雇用政策では企業誘致の花形だった。その一方でサービス産業は、「食べさせられる人数が少ない」という点からこれまでの地域雇用政策ではともすると軽視されていたように感じます。

増田:サービス産業ひとつひとつはそれほど多くの雇用を抱えることはできませんが、現実に製造業をはじめとして他産業がどんどん衰退しています。製造業頼みはシャープの亀山工場のように、ほんの数年で状況が一変することもあり、かなり厳しいでしょう。

飯田:これから増やすという目標を発生するためには輸送条件に優位性がないと厳しいですよね。その意味で製造業立地に向く都市は幸運だということにはなる。

増田:おっしゃる通りです。新たに公共事業を行って立地環境を整えるような時代ではなくなっています。現状のなかでのベスト、新しい産業の芽が残っているのがサービス産業であるならば、そこで新しいビジネスやサービスの可能性を探っていく必要があるでしょう。農業や漁業など第一次産業に優位性があり他の産業が難しい地域では、中核となる都市との連携を考えなければいけない。そのためにも中核となりうる集積地でいろいろな施策を打って、周辺地域の牽引力となってもらう必要があります。政策的に集住を進めることは日本ではとても難しい面があるので、今ある集積地への政策がカギになると思います。

「それでも東京にいる意味」を問いなおす


飯田:この「WEDGE Infinity」でも対談をしたまちづくりコンサルタントの木下斉さん(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4257)は、若者が安心して小さなお店を起業しやすい街が若者にとっての「住みたい街」になることを重視しています。中央からの目線では...。

増田:そう思います。地方には空き家も空き店舗もたくさんあります。本来はこれらを無料で貸し出して、維持管理はテナント側にやってもらうくらいでもいい。でもそうなっていないのは、そんな視線をもったプロモーターがいないからです。商工会議所も商工会も身内で固まっていて、なかなか新しい風が入らない。
増田:大都市の大学を出た人の雇用がないのは大きな問題で、とくに若い大卒女性にとって魅力のある職種が不足しています。おっしゃるように小さな商売を起こしやすいことはその魅力になりえますが、それは従来型の商売とは違うので商工会にも自治体にもノウハウがありません。金融機関がノウハウを提供してくれるのがもっとも相応しいのですが、そうなってもいません。

飯田:自治体や商工会、商店街が音頭を取ると行政にお願いして立派な複合施設を建てるとか、そういったことになりがちですね。

増田:ハコモノに目が行きがちですね。

飯田:立派なハコの建築費から家賃を逆算すれば、その家賃を払えるような新規事業者はいなくなってしまうので、東京からチェーン店を誘致することになる。

増田:チェーン店は撤退する逃げ足も速いですし、地元のお祭りにもなかなか参加してくれません。ハコを作るにしても小さな起業者を集められるような設計が必要ですね。

飯田:私はJC(公益社団法人日本青年会議所)のイベントや講演のお仕事をさせていただくことが多いので、地方の商店主の二代目、三代目の人たちと接する機会は少なくありません。しかし、彼らのなかでも東京の大学を卒業していて、今でも月に2回くらいは東京に来ている、そんなライフスタイルの人が少なくない。継ぐ商売があるから故郷に帰っているわけですが、継ぐものがない人はやはり東京周辺に住み続けることになるでしょう。高校までは地方で教育を受けた人的資本が東京に集中しているわけです。裏返せばよそが育てた人的資本が集中しているからこそ、東京は生産性が高いということでもあります。

 この状況を転換させることは容易ではないですが、東京一極集中を避けながら、クリエイティブなビジネスを地方に集積させ維持するためには何が必要なのでしょうか?

増田:その答えは、おそらくまだ誰も持っていないのでしょう。東京への集積をいたずらに崩すことは、日本全体にとってかえってマイナスです。

 しかし東京という都市の持続可能性を見れば、集積により地価も高くなっていて現役世代が土地を取得することも家賃を払うことも厳しい。高齢者の介護施設入所待ち、いわゆる「待機老人」も43000人に上ります。これは団塊世代が後期高齢者になる時点で一気に増えることになります。

増田:高度経済成長は人口移動で見ると、東京に集めるだけの一方通行で、集まった人間が適度に散らばることはありませんでした。もちろん、それを今度は東京の都合だけで高齢者を地方に分散させるというわけにもいきませんが、何らかの方法で人口は対流させないと、若者にとっても住みにくい国になってしまいます。高齢者だけではなく待機児童問題の深刻化もご存知の通りです。

 暮らしやすさという意味の利便性は、東京よりも地方都市にあります。とはいえ二地域居住は富裕層にしかできませんし、東京の郊外から都心部に通うのでは通勤時間ばかり長くなります。若年層では往復3時間を超えるような人も増えていて、生活しやすい状況とはとてもいえません。

 集積のメリットは享受しつつ、生活の利便性を保つには、東京に集めざるをえない機能とそうではないものを切り分ける必要があります。たとえば小松製作所は教育研修部門を、創業の地である石川県小松市にすべて移転させました。主要工場である粟津工場もあり研修効果も高く、宿泊施設は作らずにすべて市内の旅館などを利用するので、宿泊や飲食といった経済効果も地元に還元できます。工場の跡地に大きな体験型広報施設(こまつの杜 http://www.komatsunomori.jp/)を作るといった取り組みもされています。

 高い地価を払ってでも東京での集積が必要な部門と、そうではない部門はどの大企業にもあるはずです。ICTも大いに活用できるでしょう。高い地価や生活環境の悪さに見合う対価を得ているか、考えるべきでしょう。

ますだ・ひろや 1951年東京都生まれ。77年に東京大学法学部卒業し、建設省入省。95年から2007年まで岩手県知事、07年から08年まで総務大臣を務める。2009年より、野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授。2011年より日本創成会議座長。

いいだ・やすゆき 1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授、シノドスマネージング・ディレクター、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

やなせ・とおる フリーランス編集者、ライター。1972年伊豆大島生まれ。企画・編集をした本に飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』、五野井郁夫『「デモ」とは何か―変貌する直接民主主義』、若田部昌澄『もうダマされないための経済学講義』、五十嵐泰正・他『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』、片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』など。

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