政策破綻のスペインから学ぶことは何か


山本隆三(常葉大学経営学部教授)

 11月28日(金)、報道ステーションは、スペインでの再エネ導入が成功しているニュースを伝えていた。スペインでは風量を予想し、風量が変動した際には直ちにコンバインドサイクルと呼ばれる高能率の天然ガス火力の出力を調整することにより対応していると伝え、この背景には送電線の一体管理があるので、日本でも発送電を分離すれば再エネに対応することが可能になるように伝えた。スペインと日本では、送電網の形状も発電設備の余剰量も全く異なる。スペインで可能なことが日本で可能というのは、あまりに単純化した話だ。

 さらに、番組が伝えていないことは、スペインでは負担増を招いた高コストの再エネ導入政策が破綻し、日本でも導入された固定価格買い取り制度(FIT)が13年に廃止になったことだ。14年1月から5月のスペインの再エネ設備の導入実績は、太陽光と太陽熱の発電設備はゼロ、風力にいたっては、6000kW減だ。今後も続く電気料金の上昇という再エネ導入の後遺症にスペインは未だ悩んでいる。

 欧州では、スペインのみならずドイツでもイタリアでも再エネ政策の見直しが続いている(「再生可能エネルギーの接続保留問題 高収益保証が招いた投資バブル」)。欧州委員会も電気料金の上昇を招くFITの廃止を14年の4月に各国に勧告した。ドイツでは8月1日に再エネ法が改正され、再エネ導入のスピードを大きく減速することになった。スペインから学ぶことは、送電線管理ではなく、再エネ政策を見直す方法だ。

迷走したスペインの再エネ政策


 風量と日照量に極めて恵まれているスペインでは、1980年には再エネによる発電を促進する政策が導入された。その後も技術開発を支援する政策、さらに金融支援策など様々な方策が導入され、97年には固定価格買い取り制度の原型が導入された。2004年には、10年の1次エネルギーと電力供給に占める再エネ比率を、それぞれ12%と29%にすることを目標とし、事業者に有利な買い取り制度(固定価格あるいは市場価格に上乗せ)が導入された。07年に買い取り価格が引き上げられたことから、急激に風力と太陽光の導入が進むことになった。

 2000年に太陽光は1万kW、風力は221万kWであったが、図-1の通り、08年にはそれぞれ345万kWと1656万kWに急速に拡大する。再エネ導入量増大と送電線整備費などによる電気料金の急激な上昇を懸念したスペイン政府は、本来消費者が負担すべき再エネ導入費用などを電力会社が負担するように求めていた。
 このために再エネ支援策導入以降電力会社の負担額は徐々に積み上がっていたが、08年に1年間の負担額が50億ユーロ(7500億円)を超え、電力会社が大きな負債を抱える事態になった。電力会社の負担額軽減のために、スペイン政府は08年から再エネ支援制度の見直し策を相次いで導入する。

 08年には、太陽光発電設備を屋根設置型と事業用に分け料率を変え、さらに買い取り価格を3割減額した。09年には、太陽光発電設備の事業者に設備の50%以上について供給契約が締結されていること、投資額の50%以上について資金手当てがなされていることなど様々な条件を付けた。

 10年には、太陽光、風力、太陽熱発電設備について、買い取り価格が引き下げられ、買い取り対象時間に上限値が設けられた。さらに、送電網の接続費用の引き上げが行われた。12年1月には新設設備へのFIT制度の適用中止が発表され、全ての販売電力量に対し7%の新税が導入された。

 13年2月にはFITよりも事業者に有利とされた市場価格への上乗せ制度が廃止され、消費者物価指数での調整制度が見直された。7月にはFITが遡及し廃止されることが発表された。事業者はFITに代わり、その資産に対しスペイン国債の利率に3%をプラスした税前収益を保証されることになった。収益率は税前7.5%、税引き後5.5%とされたが、遡及での廃止に対し事業者からは訴訟が相次ぐことになった。

あまりに大きな再エネ政策の負担額


 消費者の負担額を軽減していたにも拘わらず、スペインの家庭用と産業用の電気料金は値上がりを続け、14年前半の時点でそれぞれ1kW時当たり22.5ユーロセント(34円)と15ユーロセント(23円)に達している。図-2の通りだ。消費者が負担すべき額が上乗せされていれば、電気料金はさらに上昇していたはずだ。
 スペインの2013年の電源別発電量は図-3の通りであり、風力20.2%、太陽光3.0%、太陽熱1.7%になった。この発電量のために使われた補助金額は年間80億ユーロ(1兆2000億円)を超えており、国内総生産額の約1%に相当する。12年の段階で、再エネ導入のために使われたが、消費者から回収されていない金額は260億ユーロ(3兆9000億円)に達していた。何も対策が取られない場合には、13年だけで、さらに105億ユーロ(1兆5800億円)が積み上がるとみられていた。
 スペイン政府は、この金額を縮小するために税の導入、接続費用の増額などの措置をとったが、今後発生する未回収費用と今まで累積している赤字額を解消するために、今後電気料金あるいは税金の形で、消費者の負担が増えていくことになる。

再エネ導入が可能だったスペインの特殊事情


 スペインの国土の形状は円に近い。送電線網も当然円状になっており、日本列島の送電網とは異なり不安定な再エネの電源を吸収しやすい形だ。それでも、再エネの導入量増加に伴い送配電のコストは上昇しており、05年から13年にかけ1kW時当たり60%増えた。この増えた額の一部も未回収費用になっている。送電線はフランス、ポルトガルに加え、北アフリカにも連携しており、再エネの電気が余った時には輸出も可能だ。

 14年上期のスペインの最大電力需要は2月27日に記録された4028万kWだった。一方、スペインの13年末の発電設備量は、その2.5倍の1億228万kWある。予備率は150%だ。日本の今年の冬の予備率は電力会社によっては3%しかない。スペインの発電設備には大きな余剰があり、凪あるいは突然の雨などにより再エネからの発電が止まってもどこからでも直ちに送電することが可能だ。

 スペインが大きな余剰設備を持つことになった理由の一つは、電力需要がリーマンショック以降の不況により低迷していることだが、効率の良いコンバインドサイクルの建設に対し政府により出された補助金も設備が大きく増えることを助けた。政府は余剰設備の縮小のために補填を行うことを決め、また余剰設備活用のためにフランスとの連携線を強化し電力輸出量を増やすことでフランス政府と合意した。

 送電線の形状と発電設備の余剰の状況から、スペインは再エネの導入が容易な国だ。報道ステーションが伝えるように、送電線の形状も余剰設備量も異なる日本で、発送電を分離すれば再エネ導入量を増やせるという単純な話ではない。送電線の増強には多額の費用が必要だ。

地産地消で雇用と産業創出は本当か


 再生可能エネルギーを導入することにより地域の電力需要を賄い、地域で雇用を創るともよく主張されている。その実例も報道ステーションでは取り上げていた。スペインのカナリア諸島で、風力と蓄電機能のある揚水発電を組み合わせ再エネだけで島の電力を賄うことができるようになる話だ。

 風量が多い時に、余った電気で下池の水を上池に揚げておき、風が吹かないときには上池の水を落とすことにより発電を行うシステムだ。地産地消だが、このシステムの発電コストについては、全く触れられていなかった。高いからだ。

 送電線が他と繋がっていない離島では、ディーゼル発電などを行うのが普通だ。燃料消費量が多くないことから、大量輸送が前提になる天然ガスあるいは石炭を利用する発電設備の設置は難しく燃料の選択肢は石油系しかない。石油系の燃料を使い小型の発電機で発電を行えば、そのコストは高くなる。1kW時当たり30円から40円はするだろう。風力と揚水の組み合わせの発電コストも高いが、同レベルだろう。

 選択肢のない離島であれば、発電コストが高くても受け入れられる風力と揚水の組み合わせだが、発電の選択肢がある場所ではコスト面から導入は不可能だ。電気料金が周辺地区の2倍となれば、消費者は黙っていない。離島という特殊事情で可能な発電方法を、普遍的な発電方法のように紹介すれば視聴者は誤解する。報道番組であればもっと説明が必要だろう。ちなみに、再エネの組み合わせによる発電方式を導入しても、もともとあった発電機は維持しておく必要がある。暴風雨、保守点検などにより風力発電設備が停止した場合のバックアップ用だ。

 地産地消により、雇用は生まれるのだろうか。風力、太陽光発電設備は僅かの雇用を生むだけだ。木片などのバイオマス、生物資源であれば林業、運搬などで雇用が生まれるが、比較的成功しているオーストリアですら、その規模は全雇用の0.5%に過ぎない。また、世界の太陽光パネルの大半を中国が製造している現状をみれば、再エネを導入しても関連産業が育つとは言えない。

 固定価格買い取り、補助金などの支援制度がなければ、再エネによる電気料金は高くなる。地産地消の再エネの電気を利用すると、その地域では競争力のある電力を必要とする製造業は育たず、地域は疲弊する。補助金を利用し、電気料金を下げればスペインと同様の問題を抱えることになる。

再エネの現状を正しく把握し、政策立案を


 欧州諸国がFITを止めているのは、電気料金上昇を懸念しているからだ。電気料金は産業の競争力に大きな影響を与える。最近も、ドイツで地球温暖化対策のために石炭火力を閉鎖しようとする動きが生じたが、これに対し社民党の党首でもあるガブリエル・エネルギー経済大臣が、「産業の競争力に影響が生じるので発電コストが安い石炭火力の閉鎖は行わない。脱原発と脱石炭を同時に行うことは不可能だ」と断言した。

 そんな状況下で、日本は相変わらず電気料金の大きな上昇を招くFITを続けている不思議な国だ。デフレから脱却し製造業が復活しないと、今の日本の産業構造では経済成長は難しい。ドイツ、スペインの政策から学び、産業の競争力を考えつつ再エネ導入策を考える時期に来ている。

 確かに、温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しない再エネによる電力供給は望ましいに違いない。しかし、経済学でいうところのトレードオフ(何かを達成すれば、別のものが犠牲になる)の関係が、再エネほど明白なものもない。

 再エネが温暖化対策あるいはエネルギー自給率向上のために犠牲にするものは、電力の安定供給と競争力のある発電コストだ。この犠牲なくしては現時点で再エネの導入を進めることは不可能だ。ありもしない再エネによる成長路線を伝え、視聴者を欺くような報道番組を真に受けないほうがよい。

やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京都大学卒業後、住友商事入社。地球環境部長などを経て2008年から10年までプール学院大学国際文化学部教授。近著に「いま「復興」「原発」とどう向き合えばよいのか」(共著PHP研究所)がある。