櫻田淳(東洋学園大学教授)


 内閣改造後1カ月、安倍晋三内閣の政策課題の柱として位置付けられているのは、「地方創生」である。筆者は、本来、対外関係に掛かる政策にもっぱらの関心を抱いているので、内治に掛かる政策には特段の知見を持たない。ただし、筆者は、青森県八戸市から「八戸特派大使」を委嘱されている立場上、どのような対外戦略の相の下に地方振興に掛かる政策が展開されるかには、相応の関心がある。

日本の「ブルゴーニュ化」


 石破茂地方創生担当相は、農業を「地方創生」の中核として位置付ける旨、語っている。「和食」が世界文化遺産に登録された流れの中では、石破大臣の認識は、正しいのであろう。それならば「地方創生」を対外戦略に位置付ける論理は一層、明確にされてよい。

 筆者は、農業を軸とした「地方創生」の理念は、「日本全国、ブルゴーニュ化」とでも呼ぶべきものなのであろうと考えている。フランス・ブルゴーニュ地方が、その豊かな食文化によって世界の美食家にとっての「憧憬(しょうけい)の場所」になっているように、日本という国というよりは日本の各地方が、海外から憧憬のまなざしを向けられるようにしなければならない。

 ちなみに、たとえばフランス産ワインには、ブルゴーニュに限らず、ボルドー、シャンパーニュ、ロワールといった産地があり、中でもボルドー・メドック地区産のものは、5つの階級に格付けされている。その格付け筆頭に位置付けられるワインには、高名な「シャトー ラトゥール」や「シャトー マルゴー」といった銘品が含まれる。

 こうした「平等」の建前に反するような仕方もまた、実は海外からの憧憬の感情を刺激する仕掛けになっている。日本酒や牛肉に代表される農産品を海外に展開するに際しては、たとえ日本国内での「摩擦」を覚悟してでも、こうしたフランスの仕方に倣うことは、大事であろう。

称号を付けて銘品を紹介


 加えて、この文脈で参照すべきは、英国における「ロイヤル・ワラント」(英国王室御用達)制度である。

 19世紀、ビクトリア女王統治期の英国では、安価な外国産品から国内産業を保護するために、12世紀に始まっていた「ロイヤル・ワラント」制度の拡充が図られた。「ロイヤル・ワラント」一覧には、紳士服、靴、革製品、陶磁器から紅茶、文房具に至るまで、「英国の魅力や声望」の代名詞として諸国の名士たちの垂涎(すいぜん)の的になった銘品の名前が並ぶ。吉田茂が「ターンブル・アンド・アッサー」でシャツを仕立て、「ヘンリー・プール」で紳士服をあつらえていたという挿話は、そうした銘品に反映された「英国の魅力や声望」の意味を物語る。

 ちなみに、NHK-BSプレミアムが放映する『イッピン』という番組では、日本各地の銘品が紹介され、たとえば「愛媛・今治のタオル」「岩手の南部鉄器」「新潟・燕のカトラリー」「岐阜・関の包丁」「広島・熊野の筆」といったものが取り上げられている。筆者の提案は、こうした各地の銘品に「日本のロイヤル・ワラント」の称号を付した上で、海外に広く紹介していくことである。

 実は、明治以降、昭和20年代までは、宮内省御用達という「日本のロイヤル・ワラント」制度は厳然として存在し、それは近代日本の「殖産興業」の一翼を担っていた。現在、東京・銀座に軒を連ねる老舗の名店には、過去に宮内省御用達の栄誉を拝していた事例が多い。

 無論、昔日の宮内省御用達制度と同じものを平成の御代に復活させることが適切であるかは、意見が割れるかもしれないけれども、こうした日本各地の銘品が銘品である所以(ゆえん)を世界中に認知させていく仕組みは、適宜、用意されていくべきなのではないか。

 「メード・イン・ジャパン」の質の高さは、既に広く知られているかもしれないけれども、今後は、「どのような『メード・イン・ジャパン』か」が問われることになるであろう。そうしたことを海外に緻密に伝える努力は、決して十分であるとはいえないではないか。

地方の魅力を海外に伝える


 「地方創生」という政策課題ですらも、「グローバリゼーション」が進展した現状では、対外戦略における位置付けを考慮しないままならば、実の伴った対応は難しいであろう。目下、「クール・ジャパン」の言葉で「日本の魅力や声望」を伝える努力は、さまざまに行われているかもしれないけれども、「地方創生」の文脈で主眼が置かれるべきは、たとえば「青森の魅力」や「島根の魅力」といったように、それぞれの地方の魅力を直接に海外に伝える努力である。

 前に触れた日本各地の銘品は、そうした努力に「説得性」を与える材料として扱われるべきものである。「地方創生」の文脈で考慮されるべきことは、多面的である。