大塚家具の経営権を巡る実の父娘の騒動は、実は「ニッポンの今」を象徴する事例かもしれない。

 代表取締役会長である創業者の大塚勝久氏と同じく代表権を持つ社長の大塚久美子氏の対立は、3月27日の株主総会で賛成票を奪い合う委任状争奪戦(プロキシ―・ファイト)へと発展した。

 取締役会を4対3で握った久美子氏は、取締役候補者から、会長と自らの弟である勝久氏長男の大塚勝之専務を外す議案を「会社提案」とすることを決定。これに対して筆頭株主である勝久氏は「株主提案」として、久美子社長を外して自らが社長に復帰する議案を総会にかける。

 両者の会見からはまったく歩み寄る姿勢は伺えず、このままだと、父娘が株主総会で激突するという前代未聞の事態になる見通しだ。

 騒動が表面化したのは昨年7月。それまで5年間社長を務めていた久美子氏が勝久会長の主導によって取締役会で社長を解任されたのである。その後、久美子氏が巻き返しを行い、今年1月の取締役会に自らが社長に返り咲く動議を提出。賛成4対反対3で可決、社長に復帰した。その段階で、父娘間の経営権争いは決定的になったのだ。

新旧価値観のぶつかり合い


 冒頭、「ニッポンの今」を象徴していると書いたのはどういう意味か。

大塚家具の有明本社ショールームにある、スイスの高級ソファブランド「デセデ」の専門ギャラリー
 安倍晋三政権は成長戦略として、社外取締役の導入などコーポレートガバナンス(企業統治)の強化や女性活躍の促進を柱に掲げている。

 実は、久美子氏は大塚家具のガバナンス体制を、創業者を中心とするワンマン体制から、株式公開企業にふさわしい社外取締役が機能する体制へと移行しようとしていた。創業者がすべてを決めるようなオーナー企業でありがちな古い体制を一新しようとした。これが勝久氏の逆鱗に触れたのである。

 取締役会は形ばかりで、最高権力者の言うことを追認する。ひと昔前の日本企業では、当たり前に行われていたスタイルだ。そうした古い体制から専門性を持った社外取締役を加えて実質的に議論する場に変えようという変革の動きは、日本にとって大きな課題になっている。

 もう1つの女性活躍という時代の流れと大塚家具問題はどう絡むのか。

 父娘は口には出さないが、今回の騒動に「相続」が関係していることは想像に難くない。つまり、「家業」である大塚家具は誰が継ぐのか、という問題だ。

 勝久氏と相談役である妻の千代子氏との間には、5人の子どもがいる。一番上が久美子氏だが、弟に長男の勝之氏がいる。日本的の伝統的な考えでは、弟といえども長男が跡を継ぐのは当然だった。だが、最近は考え方が大きく変わりつつある。兄弟姉妹は平等で、尊重するのは女性でも長子ということになってきた。

 大塚家具の騒動では家族も真っ二つに分かれており、両親と長男は会長派、それ以外の兄弟姉妹は長女派となっている。長男に跡を継がせたい両親に、兄弟姉妹は長子の長女こそが継ぐべきだ、と考えているという構図なのである。

 つまり、古い価値観と新しい価値観がぶつかり合っているのだ。

 対立している経営戦略の違いも、この新旧の価値観のぶつかり合いだ。

 買うものを決めてやってくる「目的買い」の顧客を積極的な広告宣伝で集める「会員制」にこだわる勝久氏に対し、気軽にふらりと入店できるようにオープン化することで新規顧客を獲得しようとする久美子氏。過去の成功モデルへのこだわりと、新しい時代の変化に対応しようとする改革が真正面から対立しているわけだ。

経営戦略についての記者会見に臨む大塚家具の大塚勝久会長(中央)ら=2月25日午後(蔵賢斗撮影)
 記者会見の開き方にもスタイルの違いが出た。勝久氏を中心に勝之氏らが並んだ雛壇の後ろには、部長職の社員がズラリと並び、勝久氏は「社員は私を支持してくれている」と力説した。一方で、久美子氏はひとりパワーポイントを前にに冷静な口調で経営戦略を説明。父親のやり方について「演出に社員を巻き込んだ」として批判した。

 経営者も社員も一体で会社は家族だという考え方と、経営の責任を持つのは経営者であって社員にはそれぞれ個人の考えがあるという考え方。ここでも新旧の価値観が真っ向からぶつかり合っているのである。

父娘激突、株主総会のゆくえ


 3月の株主総会ではどんな決着になるのか。大塚家具の株式は、勝久氏が発行済み株式の18.04%を保有する筆頭株主。妻の持ち分を合せると20%に達する。一方で、一族の資産管理会社である「ききょう企画」が9.75%を保有。こちらは久美子氏が主導権を握っている。さらに10.77%を持つ投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズも久美子氏側を支持しているとみられている。ここまでだとほぼ拮抗しているのである。

 カギを握ることになりそうなのが、国内の銀行や生命保険会社など機関投資家と、一般の個人投資家だ。特に大株主である金融機関がどちらに投票するのかが焦点になりそうだ。

 安倍内閣の改革路線でいけば、社外取締役に積極的で、理路整然と経営戦略を語る久美子氏に、時代の風は吹いていると言えるだろう。日本の金融機関が新しい経営スタイルを支持するのか、創業者という過去の信用を大事にするのか。創業者によるワンマン経営を許容する決断をするようだと、日本全体の改革はなかなか進まないということを示すことになるのかもしれない。

 テレビのワイドショーでは父娘の発言を対比し、対立の構図に焦点を当てている。だが、この問題の行方は、日本の企業の経営スタイルが変わっていけるのかどうかという、ひとつの試金石とみることもできそうだ。