後藤百合子(「こるどん」代表取締役)


 家具小売り大手、大塚家具の大塚久美子前社長(46)が、半年前に解任されたにもかかわらず再び代表取締役社長に返り咲き、話題になっています。
 
 以下、騒動の顛末を要約してみます。
 
 大塚久美子前社長は2009年代表取締役社長に就任。2014年まで社長をつとめましたが7月の取締役会で突然解任されました。ところが今年1月の取締役会で再び代表取締役社長に復帰。いっぽう、実父である大塚勝久氏(71)も依然として代表取締役会長として取締役会に残っており、解任、再任劇は勝久会長の拡大路線をめぐる父娘の確執の結果ではないかと各誌が報道しています。
 
 大塚家具は上場会社とはいえ、勝久会長が発行済み株式の約18%、大塚一族の資産管理会社が約10%をもつ同族色の近い会社。『日経ビジネスオンライン』の記事によると、勝久会長、母、長男 VS 久美子社長と長男を除く弟妹が昨年7月の解任劇以降激しく対立し、さらに他の株主や取締役まで巻き込んでの経営権争いに発展していたようです。久美子氏の社長復帰も勝久会長の当面の妥協策であり、今後も親子の争いは続くのではないかという指摘もあります。
 

中小企業の後継者には女性が急増

 最新の労働量調査によると企業の役員に女性の占める割合は26%となっています。この数字を多いとみるか少ないとみるかは判断の分かれるところでしょうが、少なくとも経営者の4人に1人以上は女性ということですから、大企業の女性管理職の割合に比べれば非常に多いのは確かです。彼女たちの大部分は中小企業の経営者であり、今後は後継者に女性がなるケースが増えて中小企業の社長は20年後には女性が半数以上になるだろうという推計もあります。
 
 そこでこれから増えていくと思われるのが、今回の大塚家具で起きたようなケースです。
 
 今後社長の座を降りていく60代から70代にかけての世代の社長は、ほとんどが高度経済成長期とバブル期の成功体験をもっています。特に創業社長であればその時期に積極的に銀行借入をして投資をし、自分がここまでの会社にしたのだという自負は非常に強いでしょう。逆に銀行員や会計士のように、細かく会社の財務内容をチェックして損益分岐点を計算し、ちまちまと管理するような経営は嫌います。また、「これは儲かるはずだ」という自分の直感のみを頼り、どんぶり勘定で事業を進める社長も多いのです。さらにこの世代の経営者の多くは自分の会社は自分の所有物だという意識をもっており、公私混同も珍しくありません。
 
 反対に、バトンタッチされるほうの30代から40代の世代は高度経済成長は記憶にないか生まれておらず、社会に出る前にバブルも終わってしまっていた、という方々がほとんどです。将来に対しては漠然とした不安を抱き、父が昔話をした後に語るように「いつかまた景気がいい時代がくる」などという言葉は信じられません。いきおい父の時代に広げてしまった大風呂敷を何とかうまくたたみ、社内体制をしっかり整えて困難な時代を生き抜いていけるように守りの態勢に入るケースも増えるでしょう。特に後継者が女性の場合は堅実タイプの経営者が多いため、一代で急成長した会社を継承する場合には今回の大塚家具のような問題が発生する確率が高くなるのではないかと思います。
 

Daddy’s Girlの故に深くなった確執

 英語で父と非常に絆が深い娘のことをDaddy’s Girlと呼びます。娘は父を尊敬し父のような男性と結婚したいと思い、父にとっては目の中に入れても痛くないほど可愛いだけでなく、息子と比べても優秀でいつまでも自分の手元に置いておきたい自慢の娘。事業を継承して女性社長になっていくのはこのようなタイプの女性が多いと思います。

  大塚家具の久美子社長も一橋大学を卒業後、富士銀行(現みずほ)に就職。キャリア女性の道を歩んでいましたが、父の事業の急拡大に伴い銀行を退職して大塚家具に入社します。経営企画や経理などの責任者を歴任し会社の業績も順調に推移していましたが、なぜか入社10年後の2004年に退社。自分でコンサルティング会社を設立して経営されていましたが、5年後の2009年に今度は社長として復帰します。

 久美子社長がいったん大塚家具を離れた2004年といえば10年前、久美子社長はまだ30代半ば、勝久会長も60代になったばかりです。おそらくこのときすでに今回の父娘の確執は始まっていたのでしょう。大企業でのキャリアを捨てて実際に父と一緒に働き始めたら、父の思い描く会社の将来像があまりにも自分とかけ離れていた。大学や大企業で勉強してきた知識と経験を駆使してさまざまな経営改革を行ってきたのに、父はそれを評価してくれないばかりか、自分とは正反対の無謀な拡大路線を走り続けている。そこにあったのは自分が描いていた会社経営の理想と現実との大きなギャップだったのでしょう。そこで娘は自ら会社を去り、自分自身の新天地を求めてDaddy’s Girlの座を捨てて自立する決断をしたのではないでしょうか。
 
 しかしそれから5年後の2009年、勝久会長は60代半ばになり後継者選びを迫られます。長男を取締役にしたものの、やはり客観的にみたら娘の久美子社長のほうが経営手腕が高いことを認めざるをえず、呼び戻して社長に据えたのではないでしょうか。しかし残念なことに父娘の経営方針は食い違ったままで平行線をたどり、最終的に解任劇にまで至ってしまった。ところが今回は娘のほうも黙って去ることはせず、逆に父を追い詰める形で社長に返り咲いたというところが真相に一番近いのではないかと思います。
 

後継者を引き受ける前にとことん話し合いを

 大塚家具の場合は上場企業なので大きな話題になっていますが、私の周囲の中小企業でも似たような話はときどき耳にします。後継者が男性の場合は妻の理解や応援でまだじっとこらえて時期がくるのを待ち、やりすごしていく場合も多いのですが、女性の場合は仕事に打込んできたため独身で相談する相手もなく一人ですべて抱え込んでしまったり、結婚している人は逆に仕事のストレスが元で夫婦仲が悪くなり離婚してしまうというケースもあります。また、夫が妻の実家に入って仕事をしている場合で父娘の関係が悪くなるとさらに問題は深刻で、夫婦そろって仕事を失ったり、最悪のケースには離婚して仕事も家庭も失ってしまうことさえも起こりうるのです。
 
 中小企業の社長が自分の子供に会社に入って後継者になってほしいというとき、親子という遠慮もあってかあまり経営について詳しいことを語らず、実際に一緒に仕事をするようになってから経営観の違いがはっきりするというケースが多いと思います。しかし、就活や転職をするとき、入社しようという会社の業務内容を調べたり、経営者の経営方針や経営内容を調べてから入社試験を受けるのが当たり前なのに、一般の社員とは違い、一度なったら簡単には辞めることができない経営者になるのにそんなことさえわからないまま入社してしまう、というのはよく考えたらおかしな話です。
 
 男性の場合は子供の頃から「お前が跡継ぎ」と言い含められて後継者になる場合が多く、時間的にも精神的にもじっくりと構えられますが、私の知る限り、女性の場合は最初はそのつもりがなかったのに、ある日突然「お前がやれ」と後継者になってしまう、というケースが頻繁にあり、経営者としての心構えもできないうちに社長になってしまうことも珍しくありません。そして実際にやってみたら先代からの横やりが激しく、自分が思い描いていた経営ができず、悶々と悩むという女性経営者も多いのが実情です。
 
 このような状況を防ぐためには、まず、バトンタッチをされる前にじっくりと親と膝を突き合わせて経営の話をすること。そして親からの後継者の指名に対して「NO」と言える余裕をもっておくことが大切だと思います。

 後継者問題は親子にとって非常に大切な問題であるのと同時に、雇用している社員の将来をも左右します。親子の関係がこじれればこじれるほど経営に支障が出ますし、社員の不安も増大していくのです。事業の継続を堅持し雇用を守るために、事業継承の前段階から、経営者も後継者も両者ともに納得できる経営方針のすり合わせを行っていくことが望ましいと思います。