河合雅司(産経新聞論説委員)

介護職のみ増やせず


 団塊世代が75歳以上となる2025年以降、高齢患者や要介護者が激増する。医療機関や介護施設の整備が追いつかない「2025年問題」が懸念されている。

 これを乗り切るため政府が出した答えは、医療・介護を「病院完結型」から「地域完結型」へシフトさせることであった。老後も住み慣れた地域で暮らし続けられるようにしようというのだ。

 政府は24時間対応の訪問サービスを中心に医療や介護、生活支援などを一体提供する「地域包括ケアシステム」構想を描いており、今後、在宅サービスを増やす考えだ。

 とはいえ、1人暮らしや夫婦とも高齢者という世帯が増え、不安は募っている。「地域包括ケア」は政府の思惑通りに機能するのだろうか。

 勤労世代が減れば医療・介護人材だけ増やすわけにはいかない。いくら診療報酬や介護報酬を上げても、在宅向けサービスの量的拡大にはおのずと限界がある。公的サービスを補完する「家族の支え」が不可欠となる。

 「家族の支え」はどこまで当てにできるのだろう。まずは実態を知る必要がある。

80代へのケアは50代


 国民生活基礎調査(2013年)によれば、要介護となるのは男性が34・3%、女性は65・7%である。寿命が長い女性が多数を占める。

 一方、介護する側は女性が68・7%で、男性は31・3%にすぎない。続柄別では、65~69歳の夫を介護する妻は84・5%に上り、妻をケアする夫は77・0%である。「老老介護」の傾向は、要介護者が70代になるまで続く。

 ところが、要介護者が80代になると、50代による介護が29・9%(女性19・9%、男性10・0%)と急増する。70代を介護する50代(10・0%)の3倍だ。次いで多いのは60代の26・1%(女性17・6%、男性8・5%)だ。

 配偶者が亡くなった後、自身が要介護になると、50代の娘か息子の嫁の世話になる人が多いということだろう。平均寿命が延びて80代以上の高齢者が増え続けることを勘案すれば、「地域包括ケア」の成功のカギは50~60代の女性が握るといえそうだ。

 問題は50代、60代の女性が引き続き介護の担い手となり得るのかだ。60代のほうが50代に比べて配偶者の介護にあたる可能性が大きいとすれば、とりわけ期待されるのは50代の女性となる。

晩婚・未婚で深刻化


 家族の介護に割く時間をみると、要介護5では「ほとんど終日」と「半日程度」を合わせて69・0%だ。要介護4は67・5%、要介護3も48・9%に及ぶ。

 総務省の「2012年就業構造基本調査」では、50代女性の有業率は50~54歳が73・2%、55~59歳は65・0%である。半数はパートやアルバイトだが、「地域包括ケア」が普及したとしても、家族の拘束時間が極端に短くなるとは考えづらく、中重度の要介護者を抱えての仕事との両立は厳しそうである。

 そうでなくとも、安倍政権は「女性の活躍推進」を掲げ、女性の社会参加を強力に推し進めている。経済成長にとっては重要だが、在宅介護の視点に立てば、担い手不足に直結する問題である。

 将来的には、さらに深刻だ。晩婚・晩産の影響の懸念である。2013年の第1子出生時の母の平均年齢は30・4歳だ。第2子以降の誕生も考えれば、「50代で子育て中」という人は増える傾向にある。これでは介護まで手が回らない。しかも、一人っ子同士の結婚が珍しくなくなった。夫と妻の親が同時に要介護となったのでは、ますます対応は難しい。

 未婚化も懸念材料である。女性の生涯未婚率の推計は2010年の10・6%から上昇カーブを描く。それは、働かなければ自分の生活を維持できない人の増加を意味する。介護離職や休職をしようにもできない女性の増大ともなる。50代女性が介護の中心となり得ない時代が来よう。

 「地域包括ケア」は社会状況の変化の影響を受けやすいということだ。高齢社会に立ち向かうための有力な選択肢ではあるが、すべてを解決する切り札とはなり得ない。

 限られた人数の医療・介護人材において、増大するサービス利用者に対応するには高齢者が集まり住むことだ。

 政府はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の普及を進めるが、利用料が高いとの声も少なくない。空き家や公営住宅を活用した、もっと安価な住宅整備が急がれる。