河合雅司(産経新聞論説委員)

50代男性の半数が関心


 政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が高齢者の地方移住の促進に向け、受け皿づくりを検討するため「日本版CCRC構想有識者会議」を立ち上げた。年内に最終報告書をまとめ、来年度から各地でモデル事業を開始する考えだ。

 対象は東京など大都市圏に住むアクティブシニア(活動的な高齢者)だ。体が弱ってから入所する特別養護老人ホームなどとは異なり、元気なうちに移住して学問や趣味、ボランティアなどに打ち込めるようにする。CCRCはその受け皿となる生活共同体で、これを日本流にアレンジし普及させるというのだ。

 人口減少に悩む地方が存続の危機を脱するには、若者をひきつけ出生数を増やすしかない。しかし、成果が表れるには時間がかかり、人口が増える前に“消滅”しかねない。大都市圏から大量の高齢者が移り住めば時間を稼げるというわけだ。

 内閣官房の「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によれば、移住を考えている人は40・7%。関東1都6県以外の出身者では49・7%を占める。50代男性は50・8%が関心を示している。

利用料に幅を持たせる


 移住に向けた機運は高まっているとはいえ、大都市圏に住み続ける以上に地方移住にメリットを見いだせなければ踏み切る人は増えない。どうすべきなのか、ここでは3点挙げたい。

 第1は移住後の生活費だ。高級リゾートのようなところばかりでは、利用者は裕福な高齢者のみとなり、老後生活を年金収入に頼る大多数の手が届かなくなる。CCRC普及の秘訣(ひけつ)は利用料に幅を持たせることにある。

 一般的な退職者が利用できる料金とは、どれくらいなのか。2014年の家計調査などを基に計算すると単身世帯の生活費は全国平均で月額8万8540円かかっている。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は13万579円だ。このうち家賃地代は単身世帯が約4万円、サ高住は5万5千円弱である。

 東京圏は少し高い。2013年の住宅・土地統計調査が東京23区や東京隣接3県の政令指定都市を中心に調べているが、専用住宅の1畳当たりの家賃は全国平均の約1・4倍である。これを機械的にあてはめれば、東京圏に住む単身高齢世帯の生活費は月額約10万4800円、サ高住は15万2500円となる。

 CCRCの利用料をこれよりずっと低く抑え、割安感を出せば大きな動機付けになるだろう。安価なCCRCを提供するには一から造成、建設するのではなく、公的住宅や空き家など既存施設を徹底的に活用することである。

 一方、CCRCで大学の授業を受けたり趣味を満喫したりするにもコストがかかる。年金収入の大半をCCRCの利用料に回さざるを得ないのでは楽しむことはできない。こうした利用料を抑える工夫が2つ目のポイントだ。

 コストダウンのため、移住者自身が大学で教え、趣味のインストラクターを務める。働くのも選択肢だ。CCRCを楽しむ時間を確保するためには、若者のようにフルに働く必要はない。月に数回のアルバイト感覚で、年金の足しにするイメージである。働けば生活に張り合いもでる。

 人口減少が続く地元自治体にしてみれば、移住者が働いてくれれば労働力の確保ともなる。受け入れ先となる自治体には移住者の仕事探しのサポートが期待される。

介護と連携メリットに


 第3のポイントは、医療や介護との連携の充実だ。高齢者の激増が予測される大都市圏では医療機関や介護施設の不足が指摘されている。「CCRCに移り住めば、医療や介護に心配がない」となれば極めて大きな魅力となる。

 CCRCは永住の地でもある。入居時は元気であっても、要介護状態となる場合もあろう。移住地域での貢献度に応じてポイントを付与し、優先的に医療・介護を受けられるようにするのである。

 一方、CCRC入居者の大半が要介護状態になったのでは介護施設と大差がなくなり、アクティブシニアにとっての魅力が損なわれよう。こうした状況を避けるには、CCRC内で元気な人と要介護者の住み分けが重要だ。

 ここでもコスト抑制のため、既存の医療・介護施設を活用することだ。それは受け入れ自治体の雇用創出にもつながる。地元医師会や介護事業者との連携がCCRC構想の成否を握っている。