小宮一慶(コンサルタント)

2015年3月、いよいよ北陸新幹線が金沢まで開業する。北陸地方にとってはまさに悲願だったわけだが、航空網も発達した現在、新幹線開業がどれほどの経済効果をもたらすのか、首をかしげる人も多いだろう。そこで、経済に精通し、年間100回以上新幹線に乗るという「新幹線好き」として知られる経営コンサルタントの小宮一慶氏に、「北陸新幹線で何が変わるのか」についてうかがった。

「北陸新幹線」で何が変わるのか?


 3月14日、いよいよ北陸新幹線長野-金沢間が開業します。北陸にはお客様も多いため、しばしば行っているのですが、地元ではすでにかなり盛り上がっているようです。新幹線開業直後のホテルや旅館はもう、ほぼ満室とのことです。

 実は私は自他ともに認める「新幹線好き」。毎年少なくとも100回は乗っており、『新幹線から経済が見える』という本まで書いているほど。そんな私ですから、もちろん開業は非常に楽しみです。ただ、だからといって全国にどんどん新幹線を走らせればいいと思っているわけではありません。2016年に函館(新函館北斗駅)まで、さらに札幌までの延伸が予定されている北海道新幹線や、九州新幹線の長崎ルートなどは、事業の採算が取れるのかなと心配しています。ただ、この北陸新幹線に関しては、人の流れや経済に確実に大きなインパクトを与えると考えられます。リニアを除いて、日本経済や文化に大きな好影響を与える最後の新幹線と言えるでしょう。
金沢を午前6時に出発し、東京駅に到着した上り1番列車「かがやき500号」=14日午前、JR東京駅(鈴木健児撮影)
 まず、東京と北陸との間の人の流れが変わるのは確実です。現在、東京から富山県や石川県に行く人の大半は、羽田から空路を利用しています。羽田から富山や小松(石川県)への路線は国内で最も短い航空路線の1つで、飛行時間はわずか1時間。空港へのアクセスの時間などを考えても、現状、越後湯沢経由で4時間はかかる鉄道に比べて圧倒的に優位です。

 それが、新幹線開通により金沢まで最速2時間半で着くようになります。ドアトゥドアの時間では飛行機と大差ないかもしれませんが、私のお客様に聞いてもほぼ全員が「新幹線を使う」と言います。なぜなら、ビジネスマンにとっては「忙しいときこそ新幹線」だからです。

日本の新幹線技術は世界に比類なきもの


 飛行機の場合、30分前には空港に到着せねばならず、その後も手荷物検査や搭乗などが慌ただしく続きます。離陸時には何もできず、やっと安定飛行に入ったと思ったらまもなく着陸。さらに空港から市街地まではバスに乗り換えと、落ち着く暇もありません。

 一方、新幹線はギリギリに駅に到着してもすぐに乗ることができ、車内では到着まで落ち着いて過ごすことができます。私を含め、新幹線の車内で仕事をする人は多いと思いますが、日本の新幹線は揺れが少ないので、仕事をするにはもってこいの環境です。フランスのTGVなどに乗ってみるとわかりますが、ここまで揺れの少ない高速鉄道は世界に類を見ません。しかも、北陸新幹線に投入される新型のE7/W7系新幹線車両には、普通車にも全席に電源コンセントがついているというのですから、パソコン作業はますます便利になりそうです。さらに、駅から市街地まで近いこと、比較的遅延や欠航がある飛行機に比べ、天候に左右されにくいのもビジネスでは重要です。

 東京-金沢間の所要時間2時間半というのは、東京-大阪間とほぼ同じです。言うまでもなく、東京-大阪間を移動する人の多くは新幹線を使っています。とくに、所要時間が2時間強の富山は、ビジネスユースの大半が新幹線に切り替わるでしょう。

 ちなみに、北海道新幹線は東京から函館まで4時間10分、札幌までは約5時間の予定。新幹線長崎ルートの時短効果はわずか20~30分。これでは、劇的なシフトが起こるとはとうてい思えないのです。

石川・富山の有効求人倍率はなぜ高いのか?


 北陸は歴史的に関西圏とのつながりが強い地域で、現在でも大阪-金沢間は特急「ザンダーバード」で約2時間半と、東京より圧倒的に近い。それが新幹線開通でほぼ同じ所要時間になるわけで、当然、北陸と首都圏との結びつきは強化されます。企業同士のつながりや人の移動の増加などが予想されるでしょう。

 実は石川県や富山県には、コマツやYKK、インテックなど多数の優良企業があります。有効求人倍率を見れば、石川県1.40倍、富山県1.39倍(平成26年11月)。これは全国平均1.11を大きく上回り、東京都や愛知県などに次ぎトップ10に入っています。それだけ業績のいい企業が多いということでしょう。また、農業や漁業も盛んです。

 それもあってか、県民の幸福度ランキングでは北陸の各県が常に上位を独占しています。実際に行ってみると、この地域の家はどこも広く、何より仏壇の大きさに驚かされます。これも裕福さの表われでしょう。

 そして、見逃せないのが観光です。とくに古い街並みが残る金沢は、今でも欧米人を中心に多くの外国人観光客を集めていますが、新幹線開通によりさらに増えるのは確実。食べ物もおいしく、今後はアジア系の観光客も見込めるでしょう。こうした観光客をうまく取り込むことができれば、飛行機も意外と利用者が減らないかもしれません。

「軽井沢」の成功を再現できるか?


 さて、こう言うとバラ色の未来ばかりが開けているようですが、もちろん、懸念材料もあります。参考になるのが長野の事例。1998年の冬季オリンピックに合わせて、その前年に開業した新幹線東京-長野間ですが、オリンピックの後、ホテルや旅館は急速な業績悪化に見舞われました。かつては宿泊が必要だった長野出張が日帰りでできるようになり、宿泊客が減少したのです。オリンピックに合わせて整備された中心部の商店街にも、シヤッターが目立つように。これと同じことが、沿線各地で起こり得るわけです。

 さらに、新幹線開業と同時に、並行する在来線がJRから切り離され、各県ごとに別々の会社が運営することになります。財務基盤の弱いこれらの会社が運営をすることで、運行本数の減少や運賃の値上げが懸念され、地元の人が不便を強いられる場面も出てくるでしょう。

 とくに長野や上越といった「途中駅」の中には、金沢のほうに観光客を持っていかれてしまうという危機意識を持っているところもあるでしょう。上越妙高駅のように、市街地と新幹線駅が離れている場合はなおさらです。
 ですが、そこは工夫次第です。たとえば今、軽井沢は数々のショッピングセンターやアウトレットモールが立ち並び、非常ににぎわっています。新幹線が開通したことにより、首都圏から日帰りで行けるスポットとして人気を集めているのです。私もときどき軽井沢のゴルフ場に日帰りで行くのですが、ちょっと遠出をしたくらいの印象しかありません。

 考えてみれば、飛行機はこれらの地域を通過すらしてくれなかったわけで、通過してくれる以上、途中下車してもらえばいいのです。金沢に行くついでに善光寺に立ち寄ってもらい、宇奈月温泉に宿泊してもらうにはどうすればいいか。どう魅力を打ち出すかが決め手となるでしょう。実際、すでに糸魚川など沿線各地は、いろいろなPR活動を始めているようです。

 今後、北陸および沿線各地がどのような工夫を凝らし、どう変わっていくのか。楽しみに見守りたいと思います。

小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント、〔株〕小宮コンサルタンツ代表。1957年、大阪府生まれ。1981年、京都大学法学部を卒業後、東京銀行に入行。1986年、米国ダートマス大学経営大学院でMBAを取得。帰国後、経営戦略情報システム、M&A業務や国際コンサルティングを手がける。1993年には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1996年、〔株〕小宮コンサルタンツを設立。『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。