ピケティの『21世紀の資本』は、出版されるや多くの注目を集めた。とりわけ学者たちの反応は機敏であり、経済学のみならず、社会学や政治学、人類学、歴史学など、社会科学系の学者にも広く読まれたようだ。

 ここに、『The British Journal of Sociology』というイギリスの社会学雑誌に寄稿された、ピケティの論文がある。これは、いわば、社会科学系の学者たちが書評などを通じて表した批評への、ピケティからの「返答集」だ。

 ピケティは、まず『21世紀の資本』が学問の枠を超えて広く読まれたことへの謝意を述べ、さまざまな批評に応える形で、みずからの研究の今後の展望を示している。

 以下では、いくつか重要と思われる、労働環境の問題、都市と口外の地域格差問題、累進課税の問題、性の格差を抜粋して訳してみた。

低賃金など労働環境の問題について


 この著では、一貫して教育制度(特に、高等教育、高い水準の学校や大学といった教育機関へのアクセスの公平性)、財政機関(特に収入、相続、資産に対する急激な課税)の重要さについて述べた。

 さらに、私が収集した20カ国、300年にわたる歴史の中で、格差の事象に大きく関与したと見られる、他の多くの制度や政策についても言及している。

 しかし、これら多くの制度は十分に分析研究されるに至っていない。労働組合や低賃金の問題――第9章で深く触れられる――については、細部に至るまでは検証されていない。Bearは、労働環境や危険な労働の問題と、労働市場の構築、それらと財産(公的債務も含む)の関係性については何も明らかにされていない、と指摘している。

都市と郊外の地域格差について


 『21世紀の資本』は、何よりも資本と勢力権力の歴史を多面的に解説した書である。その分、ほかの多くの重要な分野が十分に取り上げられてこなかったことは認める。

講演後に自著にサインするパリ経済学院のピケティ教授=2014年6月16日、ロンドン(共同)
 Jonesは、資本の地理的分布図――北と南、都市と郊外、中核と周辺の――は正しく明示されてしかるべきだった、と指摘しており、これは実に正しい意見であると思う。Savageによれば、私の著書の中で指摘されている重要な構造変化の一つが、都市部と周辺地域におけるエリート層の変容であるとのことだ。

 たしかに、こういった地理的側面については、より丁寧に明示されてしかるべきだった。

累進課税の強化について


 格差と制度への私の歴史的アプローチは、いまだ探求の途上にあり、まだまだ未完の思索である。特に、今勃興している新たな社会運動や政治活動への参加動員が、今後、はたして制度改革にどのような影響を与え得るかなどについては、この著では十分に語ることができていない。

 また、私は累進課税に思索を集中させた一方、たとえば所有権制度の他の可能性など、多くの制度改革の様相や可能性については、十分に言及できなかった。

 累進課税がとりわけ重要であると考えたのは、この制度によって、企業の資産や口座の可視化が可能になるかもしれないからだ。そして可視化によって新たな形のガバナンスが可能になると考えている(たとえば企業での雇用機会を増やすなど)。

 Plachaudは、グローバルな課税提案に対する極端な論及は、その他、実行可能であるかもしれない社会発展から注意をそらしてしまう危険がある、と論じている。

 そういった指摘をしたのは、おそらく私が、富裕税の進歩と改善を一歩ずつ着実に推進することの重要性を、ことさら強く信じているということについて、十分に説明できていなかったからだろう(そのような税制が何百年にも渡って制度化されていたことも、過去にはあった)。

 富裕税を徐々に、純資産に対する累進課税へと変化させることは可能で、イギリスなどでは、すでにそういった動きが始まっている。さらに、この動きが仮に進歩したとして、それは資本主義を再び民主主義の手に取り戻すための、いくつもの可能性の一つに過ぎないということ。この点については、もっと明瞭に説明しておく必要があったのかもしれない。

性の格差について


 ある種のケースでは、研究者は社会階級の区別方法を改良して、より細分化する必要もありうる。たとえばSoskiceは、下部50パーセントの中でも最も貧しい層(つまりは最下部にあたる10パーセントと言っていいだろう)を厳密に区別する必要があると指摘している。これを、私は実践できていない。

 さらに言うと、すべてのグループは、セクターや年齢、性別にまで細分化する必要がある。Perronsは、格差の分析を、さらに性の領域にまで推し進めて思考する必要があると指摘している。

 この指摘には私も全面的に同意である。とはいえ、この著書では性の問題がまったく無視されているわけではない。結婚パターンの多様さが、富の格差に大きく関与している点は強調しているし、18世紀、19世紀の政策が女性の人権無視を基盤に成立していた事実を、繰り返し参照している。また各国の富の差を分析する際、各政府のジェンダー問題に対する親和性についても強調するようにしている(第2章)。

 しかしながら、性の格差については、さらに明瞭な手法で提示すべきだったと考えている。こんにち入手できるデータの中には、性格差の分析を進めるのに有効な、貴重な情報が多く見られるため、性格差の問題は、今後、格差研究における重要な、中心テーマとされるべきである。

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