米国との国交正常化交渉に乗り出したキューバ政府は、米政府の要求に応じて1月までに政治犯53人を釈放した。女性専用刑務所に収容されていた政治犯2人が産経新聞の取材に応じ獄中体験を証言した。フィデル・カストロ前国家評議会議長を尊敬するよう強要されたり、反抗的な態度を見せると暴力を振るわれたりしたという。(キューバ北西部グアダオ 黒沢潤、写真も)

「兄は独裁者、弟は虐待者だ」


ヤシの木に囲まれたハバナ郊外の女性刑務所。女性政治犯への暴力も横行していた
 首都ハバナから車で西に約40分。熱帯植物が多く、湿気でじめじめした土地に女性専用刑務所があった。背の高いヤシの木や有刺鉄線、白壁などに囲まれた刑務所の入り口では、刑務所職員が眼光鋭く往来者を見つめていた。

 「フィデルは独裁者、弟のラウル(国家評議会議長)は女性虐待者だ」。国交正常化交渉開始を前にした昨年12月に釈放され、現在ハバナ市内に住むソニア・ガロさん(39)はカストロ兄弟をこう非難した後、刑務所内での日々を苦渋の表情で語り始めた。

 「刑務所職員から『カストロ政権に従え、フィデル氏を愛せ』と何度も言われた」

 反抗的な態度を見せると、長さ50センチほどの棒で頭や肩、膝を激しく殴打されたという。時折、狭く、真っ暗闇の独房にも閉じ込められた。「真夏でも寒く、毛布もろくに与えられなかった」

 ガロさんは2012年春、ハバナ市内の路上で無許可で人権擁護デモをしたとして逮捕された。その際に右足を、4~5メートルの至近距離から銃で撃たれた。味わった恐怖は、今もよみがえるという。

涙と怒り「獄中の同胞は焼身自殺」


「キューバに自由を」と書かれた自宅の壁の前に立つアイデ・ガヤルドさん(右)と夫
 1月8日に釈放されたアイデ・ガヤルドさん(51)も、刑務所でのつらい日々を忘れることはない。

 政治犯は一般の凶悪犯らと共同生活を強いられた。職員が凶悪犯に、政治犯へのけんかを吹きかけることもあったという。

 「職員はその後、無視を決め込んだ。カストロ政権は、政治犯であっても通常の犯罪者と同様、キューバ社会を攻撃するやからとしてしか見ていない」

 職員に盾突くと、洗顔や体ふき用の日常水を3日間も与えられなかった。「女性の職員も、全く同情してくれなかった」と振り返る。

 意図的かどうかは不明だが、与えられた飲み水にカエルの死骸が2つ入っていたこともあった。「(のどが渇いたため)やむなく飲んだ。その後、腹をこわした」と顔をしかめた。

 ガヤルドさんは昨年5月、反政府デモをしたとして投獄された。長い獄中生活で鬱病にならないようにさせるためとみられる薬の服用を拒み、両手を背後で縛られたこともあったという。

 「精神に異常をきたした獄中の同胞が今月初め、焼身自殺を図ったという話を聞いた」

 そう話すと目にうっすら涙を浮かべ、こぶしを握り締めた。