[世界潮流を読む 岡崎研究所論評集]

岡崎研究所

 中国外交の独壇場だった中南米に対して、オバマが種々の外交攻勢を始めたことを、1月17-23日号の英エコノミスト誌が報じています。

 すなわち、この10年余り、中南米諸国は商品価格の上昇によって国庫が潤うと同時に、中国の支援も当てにできたが、そうした僥倖に恵まれた時代は終わった。商品価格は不景気のどん底だった2008年の水準に戻り、中国ももはや無条件で資金を出そうとはしなくなった。

 今月初め、ベネズエラのマドュロ大統領は緊急支援を頼もうと中国に飛んだが、中国は以前約束した融資を焼き直ししただけだった。

 同じ頃、北京で開かれた中南米諸国外相会議で、習国家主席は2019年までに対中南米貿易(2013年では2570億ドル)や投資を現在の倍にしたいと表明した。しかし、中国は、怠け者を助けるつもりはないことも明らかにしている。実際、中国当局はベネズエラへの融資がどう使われるか、目を光らせ始めたと言われる。

 そうした中南米に対し、オバマは、(1)キューバとの国交正常化、(2)移民制度改革、(3)麻薬取締りのトーンダウンを打ち出し、米国に対する中南米の不満の緩和に努め始めた。今月26日には、ワシントンでカリブ海諸国エネルギー・サミットも開催され、ベネズエラからの援助に代わる、多国間融資、技術支援、民間投資を推進しようとしている。

 米国は中南米で失地を回復できるだろうか。4月にパナマで開かれる米州首脳会議が試金石になるだろう。オバマは民主主義と人権問題を議題にしたい意向だが、今の中南米はそれに反対するつもりはないようだ。

 米中両国は、中南米で影響力を競っている。左寄りの政権にとって中国が提供する融資、投資、奨学金、そして内政不干渉の姿勢は魅力的だ。他方、米国の魅力は、共通の価値、そして世界最大の市場と最先端技術を提供してくれることにある。

 中国が、中南米で向かうところ敵なしだった10年が過ぎ、今、米国は競争を始めた、と報じています。

出典:Economist‘Bello : The dragon and the gringo – Latin America’s shifting geopolitics’(January 17-23, 2015, p.42)

 一方で、中国と中南米諸国の関係に問題が出てきており、他方で、米国と中南米との関係に改善の兆しがみられることを適切に指摘しています。

ベネズエラ・パラグアナ半島の石油施設
 中国は、農産物や石油を含む資源確保、そのための巨額の借款供与や投資をして、経済面を中心に中南米との関係強化を目指してきました。今年1月8‐9日には、中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム(CELAC・反米のベネズエラが主導し、中南米33か国が加盟する地域機構)の閣僚級会合が北京で開催されました。習近平は、その会議で、インフラ整備や資源開発などに2019年までに350億ドルの借款を約束し、2020年から10年間に2500億ドルを投資する意向もあると述べました。貿易についても、上記記事にあるように、今の2570億ドルを2019年までに倍増したいと述べました。中国は、従来の路線を引き続きとっています。

 しかし、石油価格が半減したなかで、ベネズエラは経済が大きな困難に直面し、対外債務についてデフォルトを起こしそうになっています。中国のベネズエラに対する債権の額については、約500億ドルと言われていますが、これがデフォルトになると大変です。ベネズエラのマドュロ大統領の1月訪中で、どういう話が行われたか、詳細は不明ですが、中国は緊急融資にすんなり応じなかったようです。

 他方、米国は、キューバとの国交正常化に踏み切りました。オバマのレガシー作りなどと言われていますが、外交は相手がいる話で、キューバ側にも国交正常化に踏み出す事情が必要です。キューバは、ベネズエラからの石油の支援で経済が維持されていましたが、これが思うように行われなくなったことが対米関係の調整にキューバを向かわせた一因ではないかと思われます。

 石油価格の下落は、中南米における地政学的状況に大きなインパクトを与えてきています。

 石油価格の下落で、ベネズエラは厳しい状況にあり、中国にとってはエネルギー利権を安価に入手する機会になり得ます。中国の対ベネズエラ政策は今後、その方向で展開されるでしょう。すなわち、利権の獲得と支援をセットにしたものになってくる可能性があります。

 日本企業も原油価格が低い今、中南米に限らず、より一般的に、エネルギー利権、LNG価格の長期契約での有利な取引を探求できればよいと考えます。