紀藤正樹(弁護士)

 本年2015年3月20日は、地下鉄サリン事件から20年目の節目です。

 最後のオウムの刑事裁判である高橋哲也の刑事裁判も、東京地方裁判所で審理が進み、4月中にも判決が出る見通しとなっています。

 世界を見渡せば、20年前のオウム真理教の失敗に学んだのか、まず先に、兵站を伸ばさずに、領土を確保し、領土内に住む人間を人質としていく中で、国家組織を作り上げた、IS(イスラム国)なるテロカルトも出てきました。

 仮にですが、20年前、オウム真理教が、地下鉄サリン事件を引き起こさず、サリンを保有して、上九一色村(当時)の住民を人質として立てこもるという判断をしたたら、まさに20年前の日本で、既に1994年6月には、省庁制をとっていたオウム真理教という”国家内国家”と、日本国との全面戦争となり、我が国の当時の体制では、簡単に、強制捜査はできなかったと思いますし、さらに警察官、住民、さらには投入された自衛官も含めて、さらに多くの犠牲者を生んだ可能性があります。

ヘッドギアと呼ばれる器具を着けたオウム真理教の出家信者。山梨県の旧上九一色村にあった教団施設が、1995年3月の強制捜査を受けた際の写真とみられる(信者の顔をモザイク加工しています)
 20年前、IS(イスラム国)と同様、省庁制まで引いていたオウム真理教が、兵站を伸ばして首都東京に対して、地下鉄サリン事件というテロ行為を引き起こしたことは、まさに松本智津夫被告らの思い付きに基づく、歴史的偶然にすぎない感を強くします。

 このインターネット時代、このオウム真理教の失敗を、ISは学んだのか、まずISは、先に住民たちを人質として、国家組織を作り上げました。住民が人質ですから、米欧が、簡単に、ISを空爆で攻撃できないのは、それが理由です。

 そのため、ISを解体するには、陸戦しか方法がない状態です。しかも子どもたちも含む人質の命を守りながら陸戦を展開するのは非常に難しいのが、戦争という現実です。

 テロの論理を許してはいけないのは当然の前提ですが、今の日本は、政府を含めて、オウム真理教事件から20年をたっても、カルトの存在理由やカルトの信者の論理や思考方法を学ぼうとしていません。

 この歴史的偶然について、僕以外に指摘する見解がないのも、カルトの思考方法についての理解が、一般のテロの評論家と呼ばれる人たちにないのが、その理由です。テロの評論家にないのだから、政府や国会議員にないのもやむを得ないのかもしれません。

「イスラム国」が公開したビデオ声明。前列右がアヤト・ブメディアン容疑者と指摘されている人物(動画投稿サイトより)
 オバマ大統領は、ついにこの2月、IS=ISIS=ISILに対し、はっきりと「カルト」と評するようになっています⇒.. http://fb.me/77V6X5nYA

 紀藤も、ISは、メンバーの勧誘形態(現実のISの実態を教えずに、イスラム教の理想だけを教え込んでいく手法)、そのメンバーに対する支配方法、及び、命令一下の組織の構造、こうした実態を命を賭して従うメンバーの思考形態が、いわゆる破壊的カルトと同じと評価できると考えています。

 今や、我が国のみならず、世界において、カルト問題はさらに深刻化し、その現状は深刻であり、あまりに憂うべきものがあります。

 対し、日本政府(国会議員も含めて)は、このオウム真理教事件の反省や教訓を検証できないままにあります。

 いまだに世界が驚いた化学兵器テロである。20年前のオウム真理教事件について、政府報告書や議会報告書がないのが、日本の不幸な現実です。

 ひるがえって2011年に起きた原発事故については、政府も議会も民間も、事故調査報告書を出しているのに、です。

 したがって我が国において、当然に、ISのようなテロリストカルトの論理や思考方法への理解は遅れ、対策が遅れるのも当然です。

 今からでもとにかく、できるだけ早く、オウム真理教事件の全容について、なぜ事件が引き起こされてしまったのか、今後このような事件を引き起こさないためにはどうすればよいのか、一般人をカルト信者にしてしまう勧誘方法、カルト信者の思考方法等について、そのメカニズムの解明に関し、政府や議会による調査報告書を作成し、世に問い、政府も議会も国民を、再発防止策を真剣に検討する時期に来ていると思います。

 そしてこの時期、マスコミの検証番組が相次ぐ中、市民もマスコミも、もっと政府に意見をいうべき時期に来ているのだろうと思います。

 僕のような提言がほとんどないこと自体、我が国=日本国の平和ボケのような現状を反映し、とても寂しいことです。
弁護士紀藤正樹のLINC TOP NEWS-BLOG版 『地下鉄サリン事件20年の節目にテロとの戦いに思う!=「オウム真理教事件(1995年)」の失敗を学んだ「IS(イスラム国)」と、失敗に学ばない「日本国」』より転載)

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