オウム真理教による一連の事件を首謀した教祖、麻原彰晃(60)=本名・松本智津夫。その四女(25)が地下鉄サリン事件の発生から20年を控え、産経新聞の取材に応じた。

麻原彰晃死刑囚が逮捕された山梨県旧上九一色村の教団施設
「第6サティアン」(中央の写真は逮捕時、平成7年5月16日撮影)。
現在の跡地は草が生い茂り、世界を震撼(しんかん)させた現場を
想起させるものは残されていない=3月14日、山梨県
富士河口湖町(奈須稔撮影)
 平成7年3月20日、教団最大の拠点があった山梨県旧上九一色村。その建物群の一つ、麻原ファミリーが暮らす重要施設「第6サティアン」の麻原の部屋の前で、四女は父と立ち話をしていた。

 「今日はいいことが起きているんだよ」

 麻原はこう言い、冷たく笑った。その直後、教団幹部らが緊張した面持ちで現れた。「向こうに行っていろ」。四女は父に追い払われ、父と幹部らは部屋の中に消えていった。

 この日朝、東京都心で地下鉄サリン事件が起きた。このとき、四女は5歳。父との立ち話は、幼少期の鮮烈な記憶となっている。

“最後の別れ”はせず


 その2日後、警視庁などによる強制捜査が始まる。「麻原、どこだ!」。連日のように捜査員の声がこだました。約2カ月後の5月16日、第6サティアンにあった隠し部屋で、現金を抱えた麻原が発見された。「尊師(麻原)が捕まる」。近くにいた信者に“最後の別れ”をしに行くよう促されたが、なぜか足が動かなかった。

 「逮捕される父の姿を見たくなかったのか、立ち話のときの父に嫌悪感を抱いていたのか」。今も四女は父に会いに行かなかった理由を整理できていない。

 事件については「父にとって自己保身。自分に迫る強制捜査を攪乱(かくらん)したかった。一般人や信者がどうなっても構わなかった。自分と自分を神聖化する教団を守りたかったに違いない」と理解している。

「子供は親選べない」


 四女は元年に静岡県富士宮市の教団施設で生まれた。2歳ごろに旧上九一色村に移り、3歳で立位礼拝(りついらいはい)=立ち上がったり体を床にはわせたりする修行=を2時間こなすなど、幼少期は修行三昧の日々だった。

 「子供は親を選べない。私がオウムを選んだこともない。ただ、昨日生きていた人が今日死んでいる状況はつらかった。洗脳される以外に生き残る道はなかった。『ここはおかしい。いつか脱出しよう』と思っていた」

 麻原逮捕後、家族は関東の教団施設などを転々とする。行く先々で就学拒否など住民の反対にあった。

 「宗教弾圧だ」。信者らからそう聞かされてきた四女は、15歳になるまで地下鉄サリン事件をはじめ教団の犯罪をまったく知らなかった。テレビや新聞、雑誌を見ていなかったからだ。

麻原彰晃死刑囚
 1審で麻原に死刑判決が出た後のことだ。中学校で法律について学んだ際に「宗教弾圧で死刑になるのだろうか」と疑問に思い、インターネットなどで調べて初めて事実を知った。

 教団関係者から生活費が出ていた一家。「父の娘であることで生きていくのが、いやになった。被害者の賠償に充てられるべきお金で生活したくない」。固く決意し、16歳で家出した。その後、職を転々としながら自活している。

 麻原の四女は家出した際、幹部信者から父の「獄中メッセージ」と呼ばれる文書を手渡された。弁護士が接見で聞き取り、教団へ伝言したもので、必要に応じて信者に伝えられた。一定のステージ(位)以上の者はその全文を見ることができる。

 「父は逮捕後も教団に指示を出していた」。麻原が平成7年5月から約2年の間に発したメッセージに、教団は従ったという。

 産経新聞が四女から入手した文書によると、7年11月には、教団が任意団体に移行するとした上で「尊師は新しい任意団体の名称を下記の通り指示」とし、続いて「『アレフ』とする」という文字が記されている。教団がアレフに名称を変える4年以上前のことだ。

 8年2月には「取調官の言葉の意味そのものを全く理解しない(中略)、音としてすら認識しなかったとしたら(中略)、一切の苦しみから解放されることになる。これが解脱です」とのメッセージを発し、逮捕された幹部を黙秘に転じさせた。

 8年6月には「教祖-長男、次男」の記載がある。教団は同月、当時3歳の長男(22)と同2歳の次男(21)を「教祖」とする新体制を発表した。ただ、アレフに名称を変更したと同時に「教祖を置かない」と規定しており、表向きには「教祖」と位置づけていない。

 アレフは昨年3月、麻原の生誕祭を過去最大規模となる700人以上で行った。麻原への帰依心が強まる一方、教祖の世代交代を模索する動きも出ている。

 公安調査庁によると、アレフ内では昨年、成人した次男を正式に教祖に迎えようとする動きがあったが、三女(31)が反対した。これを機に、三女に同調した幹部が除名されるなど、教団運営が混乱しているという。

 後継者待望論には、理由がある。麻原が拘置所にいるため高位の信者をステージアップできず、出家信者の教団離れにつながっている。元アレフ幹部は「代わりを務められるのは後継指名を受けた長男か次男しかいない」と言い切る。