大塚家具の経営権を巡る父・大塚勝久さんと娘・大塚久美子女史の諍いは、文字通り中小企業での事業継承の問題と同じ構造を持っています。かくいう私も、事業継承においては業績不振の会社を実父から任されはしたものの、経営方針の違いから企業分割と売却にいたった経験がありましたので、規模の大小は問わず起きていることに違和感は感じませんでした。

 また、今回は派手な親子間のトラブルがメディア的に面白すぎてあまりクローズアップされませんでしたが、根幹の部分は磯山友幸さんがお書きになられている通り日本の経営スタイル、ひいてはファミリービジネスとコンプライアンスのあり方に集約されていくべきものです。舞台裏では、態度を保留していると報じられていたファンドや機関投資家はほぼすべてが前会長である父・大塚勝久さんの手腕を強く疑問視しており、これといった番狂わせも特に無く淡々と現社長の娘・大塚久美子女史に軍配が上がるという極々常識的な決着となったことは認識して然るべきことです。

株主総会後の記者会見に臨む、大塚家具の大塚久美子社長=3月27日午後、東京都江東区
 しかしながら、株主の信認を得た形であるとはいえ、そもそも論として上場企業というパブリックな公器を経営するにあたり、創業者の娘であるから具体的なビジネス上の功績を下敷きにすることなく取締役となり、また父であり会長である勝久氏からの指名を受けて経営の上級職に就任していたという事実は本来は覆い隠すべきものでもありません。即ち、問題の本質が上場企業としてのコンプライアンスであり、創業者の元会長と現経営陣のガバナンスの問題であるとするならば、それを主張して経営を引き続き行うことになる久美子女史はしっかりと期限を設けて経営から退く前提で経営改革を発表しなければ本来は筋違いであると言えます。

 したがって、久美子女史が社長として引き続き経営するにあたり行うべきことは、当然に事業の再構築と業績の浮上であるだけでなく、株主構造の一新も含めた再発防止策の検討であり、世襲による企業経営との決別に他なりません。大事な経営権の帰趨を巡る株主総会の場において、創業者の妻であり現社長の母である人物がどういう経緯か一家の事情や娘の生い立ちを株主の前で語るのはニュースとしては面白いのでしょうが企業としては話にならないレベルで場違いであることは言うまでもありません。一見、新旧の価値観のぶつかり合いであるのはその通りではあるでしょうが、パブリックに株主を集めている会社が家族会議も同然の経営主導権争いを披露することが望ましい姿であるのか考えるべきでしょうし、久美子女史がどのような正論を並べたところで彼女が社長の地位にいる理由はひとえに創業者の娘であり、それなりの割合を持つ株主をバックにしているからです。

 それが果たして健全な経営を取り戻す契機になるかは、もちろん社長の座を守ることになった久美子女史の手腕、能力の問題となるわけですが、大塚家具の過去の決算をつぶさに読み解いていくと、久美子女史に支持が集まった理由は勝久さんの過去の経営の対応の鈍さや商いを行ううえでの感性の鈍りが必要な業態転換を滞らせ結果として業績を落としたことへの反動になっています。つまり、勝久さんが経営の能力を喪失したように市場からは見えることで、相対的に久美子女史が優れているように感じられるという状況であることは容易に理解できます。

 そして、これは各種経済メディアでも解説されていることですが、おそらくは大塚家具全体としては激化した家具業界の攻防の中で不必要に大きい販売管理費用や適切とはいえないマーケティング手法といった根本的な問題が大きく横たわっているように見えます。それを改革したくて経営者のポジションに固執したかった久美子女史の気持ちは良く理解できることですが、ではドラスティックな財務活動や事業のリストラクチャリングに挑戦できているかというと、まだまだやれることがいっぱいあり、むしろ経営改革のスピードは現在の市場環境からすると落第点に近い所見です。

 頑迷な老経営者の老害とも揶揄される手法へ反発した聡明な娘というポジションは非常に得なのは事実ですし、そうであって欲しいと願う気持ちは理解できます。ただ、家庭の中や企業の組織内部の論理がどのように推移したのかすべては分かりませんが、悲劇のヒロインとして剛直で厳格な父親に立ち向かう女性経営者と周囲が持ち上げるにはあまり経営的な高い手腕を見て取れるだけの業績改善や「これならば」と言えるような経営方針を示す発表は特になされなかったのは非常に残念なことです。

 あくまで株主ではない市場関係者の見方だと限定する言い方になってしまいますが、やはり騒ぎが大きくなった大塚家のお家騒動はできる限り市場の外でやって欲しいということであります。心情としては久美子女史に同情するところではあるのですが、上場企業である限り、能力を失った創業者を追い出すことができたいま、やるべきことははっきりしています。早々に増資などして創業者サイドの持ち株比率を減らして返り咲ける可能性を削り、業績を早急に回復させられるようリストラクチャリングを行い、一定の道筋ができたところで久美子女史が然るべき経営者を社内で育成してから禅譲して経営者から降り本来の意味での経営と所有の分離を行ってガバナンスをあるべき姿にするべきでしょう。

 経済ネタのニュースとしては劇場型で楽しかったにせよ、騒動の「店仕舞い」の方法は是非にしっかりと考えて着実に実行していただきたいと強く祈念する次第であります。

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