南場智子(DeNA・取締役ファウンダー)

 ゲームサイトであるMobage(モバゲー)の運営会社として、あるいはプロ野球球団のオーナー会社として、はたまた東大生の就職先としても人気のある株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)。同社は多角経営を積極的に推進しているが、新たに教育分野への進出も視野に入れている。

 昨年10月から今年の2月にかけて、佐賀県武雄市ならびに東洋大学と協定を結び、同市内の小学校1年生を対象に、プログラミング教育の実証研究を行なった。市が配布しているタブレット(多機能携帯端末)で動く専用ソフトを開発、DeNAのCTO(最高技術責任者)が講師となって、児童たちにプログラミングの仕組みや方法を教え、デジタルでのものづくりを体験させたのである。なぜ小学生にプログラミング教育の必要があるのか。教育分野のプロジェクトを推し進めている同社の創業者である南場智子氏に真意を聞いた。

聞き手:オバタカズユキ(フリーライター)

発想ひとつでシェアを伸ばす海外のITベンチャー


 ――南場さんは、日本の産業は危機的な状況にあり、根本的な改革が必要だと主張されています。とくに、製造業をはじめとした日本の伝統的な産業が、海外のITベンチャーに次々と出し抜かれている現実はシビアに受け止めるべきだ、と。それは具体的にどんな事象を指しているのでしょうか。

 南場 よく例に出すのは、アメリカのGoPro(ゴープロ)という「アクションカメラ」が、日本のメーカーが圧倒的に強かったビデオカメラの市場を、あっという間に奪い取っていったことです。スノーボーダーやサーファーが、GoProを自分の体に装着して、撮った動画をワンタッチでYouTubeに流す。そのためだけの機能に特化したカメラが、ものすごい勢いで市場を席巻しています。

 カーナビも同様です。少し前までは、日本のメーカーが世界市場を分け合うような強みを見せていました。ところがいま、スマートフォンとの連動を前提とした海外製品あるいはスマートフォンそのものに、どんどんシェアを奪われている。日本製品は性能こそ良いのですが、ここでもいわゆるガラパゴス化を起こしています。

 ――家電以外の産業でも事例はありますか。

 南場 スマートフォン繋がりでは、タクシーの即時手配サービスのUBER(ウーバー)。2009年にサンフランシスコで、トラヴィス・カラニック氏が創業したスタートアップです。すでに世界42カ国以上でサービスを実施しており、昨年春からは日本でも本格運用を開始し、東京で働いている方にはお馴染みの存在です。日本でも大手タクシー会社が迎車サービスのスマホアプリを開発していますが、UBERのような業界外のベンチャー企業が手掛けることはありませんでした。

 クルマといえば、テレコミュニケーション(通信)とインフォマティクス(情報工学)を掛け合わせた名称の「テレマティクス保険」という任意保険も注目を集めています。自動車にセンサーを付け、ほぼリアルタイムでどんな運転をしているのか情報を取る。そして、安全な運転をする人の保険料を安くするという新しい自動車保険です。日本の損保会社が相次いで導入を決めましたが、この技術を生み出し、ビジネスに繋いだのはイギリスやアメリカの若い保険会社でした。

 伝統的な産業でいうと、ホテル業でも2008年創業のAirbnb(エアビーアンドビー)という新興企業が急成長しています。アパートで1泊できればいい人から、ヴィラ(別荘のような宿泊施設)で1カ月滞在したい人まで、ありとあらゆる旅人のオーダーをインターネット上でかなえるサービスです。旅行者(ゲスト)の要望と空き部屋などをもつ世界中の宿泊場所提供者(ホスト)を繋ぐハウスシェアリングのビジネスですが、これが世界の旅人たちの心を鷲づかみにしています。

 ――新味のある事例がたくさん挙がりますね。

 南場 それだけ世界が動いているわけです。従来の産業のあり方をガラリと変える製品やサービスが、IT(情報技術)の力を活用し、各ジャンルで誕生している。

 しかし、やっているビジネス自体はそこまで難しいものではありません。GoProのアクションカメラにしても、撮影機としての基礎的な技術スペックは日本のメーカーのビデオカメラのほうがはるかに勝っています。ただ、ビデオで何かを撮影するというニーズ自体、スマートフォンに内蔵された機能でだいぶ満たされるようになってきました。そこでGoProはビデオカメラの用途をぎゅっと絞り、YouTubeに動画を簡単にアップロードするためのアクションカメラを作った。すると爆発的にヒットしたのです。

 これらは、ちょっとした発想の転換から生まれたビジネスなのです。タクシー手配のUBERやテレマティクス保険も同様です。Airbnbのハウスシェアリングにしても、技術的に高度な何かをしているわけではない。発想ひとつの勝負で急速にシェアを伸ばしています。