大関暁夫(企業コンサルタント、実業家)

 筑波大学のシステム情報工学科の視覚メディア研究室、NHKが写らないアンテナを考案したというニュースは実に興味深いです。なぜこのような研究が国立大学の教授指導の下で行われたのか、どうやら現状を見るにNHKの公共放送らしからぬそのおこないの数々に、「NHKを受診しない自由があってもいい」ということから研究開発されたもののようです。

 そもそも今このアンテナが話題になる背景は、以前から時折問題になりつつも一向に止まないNHKの不祥事体質にその体質を問う風潮があると思われます。特に現時点で大きな話題になっているのは、「クローズアップ現代」のやらせ問題。私は以前にもこのページで書いていますが、サラリーマン時代に勤めていた会社でプレス担当してNHKのやらせ取材の被害にあったことがあり、今回の事件もさもありなんという心鏡で受け止めております。

 私が被害を受けた事件はもう20年ほど前の古い話ではありますが、「おはようニッポン」という番組でとある都市銀行の女子行員が病死し過労死問題として遺族が勤務先の銀行を訴えたと言う事件があり、その関連で私がいた銀行の女子渉外の取材にNHKが来たと言うものです。

 正直に取材趣旨を語って申し込まれれば恐らく断ったであろうテーマなのですが、NHKは私に「女子戦力の活用をテーマに番組を作っているので、積極的に取り組む御行を取材したい」と趣旨をごまかして申し込みをしてきました。女子渉外の一日を取材クルーが追いかけ私は立ち会ったのですが、「がんばっている姿をたくさん撮りたいので、こうしてくれ、ああしてくれ」とのリクエストを受けましたが(後から思えば完全やらせです)、その段階では取材趣旨を信じて疑いませんでした。ところが番組を見てびっくり、番組のテーマは「銀行女子行員の過労死問題を考える」。私が受けた取材は、銀行における女子渉外職の実態紹介として「午後3時には閉店する銀行女子行員のイメージとは程遠い、朝から晩まで過酷な労働環境で働かされる姿」としての取り上げだったのです。

 当然NHKに強い抗議をしました。プロデューサーは自分たちの非を認め、翌週の番組内で「お詫びコメントを出す」と約束しましたが、実際に流されたコメントは「先週の放送内で一部取材上の不手際があり、取材先にご迷惑をおかけいたしました。この場を借りてお詫び申し上げます」という、全く何のことを詫びているのか分からないいい加減なものでした。私は引き続き強い抗議を続けましたが先方は「済んだこと」として聞く耳を持たず、これを受け当時の担当役員からは「もう終わりにして、NHKの取材を受けなければいい」という指示が出され、憤懣やるかたない終わり方をしたのです。

 私はそれ以降、NHKの報道系特集番組取材の体質は平気でうそをつく取材体質であると信じて疑いません。管理職であるプロデューサーが、虚偽取材の件を「そう受け取られるなら」と非を認めながらも「我々の判断基準では通常許される範囲です」とハッキリ言っていたのですから。「この組織は腐っているな」と私は思いました。今回のやらせ問題にしても、過去に何回となく起きた似たような事件も、すべては組織の体質の問題です。会長の公私混同問題も含め、NHKの全ての不祥事は結局のところ公共放送という組織がはらむ甘え体質がその根底にあると思っています。

 となれば今更ではありますが、NHKはなぜ民営化しないのか。そこを今一度この機会にこそ議論すべき問題なのではないかと思うのです。電波メディアがすべてスポンサーの意向で動く民間企業になってしまったら、災害時等の優先放送の確保ができなくなるというリスクをヘッジすることが目的であるのなら、3.11災害発生時の民放の対応を見ればコマーシャル自粛を含めてなんら問題はなかったと言えるのではないでしょうか。

 また民間企業のみになることで報道がスポンサーの意向を踏まえ偏向されるリスクがあると言うのなら、放送方針が「日本政府と懸け離れたものであってはならない」と公言してはばからない会長の下でNHKを運営させることの方が、よほど大きなリスクがあるのではないでしょうか。また政府が民間放送局に圧力を掛けるかのような発言を繰り返す今の政府の方が、NHKの民営化リスクなど比べ物にならないほど危ない状況であるとも思うわけです。

 筑波大学の研究室には申し訳ないですが、NHKが民営化すればNHKが写らないアンテナなど不要です。他のメディアはアンテナ開発の報道をする前に、なぜそういうものが開発されたのか、そこに焦点を当てNHKの民営化の要否についてしっかりと問題提起をするべきなのではないかと思うのです。

 組織の体質は管理体制を根底から変えない限り、絶対に変わりません。民間組織で言えば資本の入れ替えであり、公共機関であれば民営化以外にないのです。このまま公共放送を続けるのなら、私が体験した事件から20年ほどが経とうとしても何も体質が変わっていないことからも、やらせやウソツキ取材は繰り返されることになるでしょう。この機会にこそ、NHK民営化議論を再燃させるべく世論を盛り上げていくべきではないかと私は思います。