“ガラパゴス”防ぐ「解」 電気か水素か


 今年1月の北米国際自動車ショーは、さながら“次世代エコカー”の覇権をめぐる決戦場の様相を呈した。

 「信じられないほど、ばからしい」

 米国の電気自動車(EV)ベンチャー、テスラ・モーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、刺激的な言葉でトヨタ自動車を挑発した。

 トヨタが昨年12月に一般販売した燃料電池車(FCV)に使われる水素は貯蔵や製造が難しい。マスク氏はそれを念頭に、意味がないと批判したのだ。

 これに対し、トヨタのジム・レンツ専務役員(北米トヨタ社長)は「テスラは素晴らしい商品を作っている」と持ち上げつつ、「FCVはEVより航続距離が長い」と応戦した。

 現状、一般的なEVが1回の充電で走行可能な距離は200キロ程度。だが、トヨタのFCV「ミライ」は650キロを走行できる。ホンダもFCVのコンセプトカーをお披露目して来年3月の発売を表明し、トヨタの援護射撃に回った。
左上から時計回りにトヨタ「ミライ」、テスラ「P85DモデルS」、日産「リーフ」とホンダ「FCVコンセプト」

航続距離300キロ以上


 地元の米ゼネラル・モーターズ(GM)は、航続距離300キロ以上というEVのコンセプトモデルを発表した。2017年にも発売予定で、メアリー・バーラCEOは「これまでのEVの流れを変える商品だ」と強くアピールした。

 未来のエコカーの覇権をめぐる前哨戦は、自動車ショーの前から始まっていた。

 1月5日、トヨタは燃料電池関連の5000以上の特許を無償提供すると発表。他社のFCV開発や水素供給インフラの普及を後押しするためだ。

 テスラも昨年、EV関連特許の開放を打ち出したが、ミライの発売からわずか1カ月足らずでの特許公開は異例。同社幹部は「歴史の転換点になる」と胸を張る。

 FCVは二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出せず、水しか出さないため“究極のエコカー”と呼ばれる。日本で先行発売されたミライの受注はすでに1500台を超えた。

 政府も補助金などでFCVの普及を支援。エネルギーの大半を化石燃料に頼る日本にとって、水素は新たな選択肢となる。トヨタの豊田章男社長は「自動車会社1社で水素社会は実現できない。オールジャパンで足並みをそろえていただいている」と謝意を示す。

軽自動車感覚で所有


 ただ、それだけでFCVに軍配が上がったとみるのは早計だ。

 「技術的にもコスト的にもEVが(CO2削減の)『解』になりつつあるときに、他の技術に向かって時間を浪費すべきではない」

 1月下旬にスイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、米エネルギー省前長官のスティーブン・チュー氏はこう指摘した。会議では参加者から「各国が強制的にEVに切り替えるアクションが必要だ」などの意見も出たが、FCVは話題にならなかったという。

 温暖化防止へ政府がさまざまなEV優遇策を打つ北欧のノルウェーでは昨年1月、日産自動車のEV「リーフ」が新車販売のトップに立った。1位になるのは2度目だ。日産は「維持費が安く、日本でいえば軽自動車のような感覚で買われている」と説明する。

 「FCVはポテンシャルがある。だが(量産)準備の整った技術だとは思わない」

 日産のカルロス・ゴーン社長は強調する。

 現在、トヨタのミライの生産台数は年700台。生産能力を増強しても、今購入した場合の納期は18年以降だ。水素ステーションの建設は数億円とされ、新興国ではインフラの整備も容易ではない。大気汚染が深刻化する中国は中央・地方政府がEVの購入を支援する。

 「FCVに力を入れすぎると日本は“ガラパゴス”になるのではないか」

 国内メーカーの開発担当幹部は不安を隠せずにいる。