女性器をモチーフにした作品で知られ、自分の女性器をスキャンした3Dプリンター用のデータを送信したなどとしてわいせつ電磁的記録頒布の罪などで起訴された漫画家、ろくでなし子さん。「チャタレイ事件」や「愛のコリーダ事件」など、過去にもたびたび問われた刑法175条の「わいせつ」の定義とは何か。初公判を前に改めて本人に聞いた。

「私、闘います」


 こんなくだらないことで国と戦わなければならないこと自体、そもそもおかしいんですよね。逮捕された時は、早く留置所から出たかったし、罰金さえ払えば済む話だと思っていました。でも、留置所で当番弁護士の先生から罰金を払えばすぐに出られるけど、あなたの活動を否定することになるし、これまで行ってきた創作活動が今後はできなくなるかもしれないと説明され、それは困ると思って「私、闘います」って言ったんです。闘いがいつまで続くか分からないけれど、頑張る意思を固めた瞬間でした。
インタビューに答えるろくでなし子さん=2015年4月1日、東京都新宿区

 私は大学卒業後、デザインの専門学校に通っていたのですが、退屈な授業ばっかりで、そのうち行かなくなりました。ちょうどその頃、お見合い相談所を通して結婚した知人の女性がいて、特にやりたいこともなかったので、私も彼女と同じ相談所に入ってみたんです。

 当時はまだ23歳だったので、引く手あまたというか、お見合いパーティー会場では、まさに入れ食い状態(笑)。そこで出会った人と結婚を前提に付き合ったのですが、あっさり振られてしまって…。でも振られる前、その人の家に遊びに行った帰り、置き手紙でイラストとかを書いてみると、「君は絵がうまいから、漫画でも書いてみたら」と言って、漫画の新人賞募集の雑誌を見せてくれたんです。

 賞金もそこそこよかったし、小遣い稼ぎができるかなくらいの気分で応募したのですが、出版社の担当の人からも「君のは面白いから頑張ってみなよ」とやる気にさせてくれて。それで、ちゃんとやってみようと思って、漫画家になる夢が膨らみました。

 それから1年くらい、出版社に自分の作品を持ち込んでいたのですが、講談社の「Kiss」という女性漫画誌で新人賞をとって、ようやく漫画家デビューしました。当初は、30ページくらいの、下ネタギャグ的な、ラブストーリー漫画を描いていました。

 コンペが通って掲載されて、読者アンケートの結果がよくないと連載が続かなくなるのですが、そのうちだんだん載らないことも多くなってきて、これじゃあ食べていけないと思って、コンペがなくても載るような、中堅どころの会社で、体験もの漫画を描き始めました。自分が体験したことがすぐにネタにできるので、描きやすいというのもありましたが、この手の漫画はふつうの体験をしても別に面白くなくて、ちょっと過激だったり、少しエロだったりとか、変わったことをしないとウケないんですよね。

 
「これってウケるんだ!」

 
 そんなある時、女性器の整形手術というのがあることを知って、特殊な手術を漫画のネタにすれば、仕事も増えるかなと思って、手術までの体験をネタにした連載を始めました。最初はきわどい話もそのまま書いていたんですけど、続きを書いてくれと言われたときにだんだんネタが尽きてしまい、手術後の自分の女性器の型をとってみようと考えたんです。

 歯医者で歯型を取る時に使う、ピンクの溶剤を自分の女性器にあてて、石膏の型にしたのですが、手術で小陰唇を取ってしまったので、つるっとしたものができたんです。でも、これだけじゃ面白くないなと思って、当時ギャルたちが携帯電話にデコレーションしていたのが流行っていたのをヒントに、石膏をキラキラさせてみようって思ったんです。

保釈後に記者会見するろくでなし子さん=2014年12月
 その経緯は漫画にもしたんですが、出来上がったものを友達とかに見せたら、ちょっとウケたんですよ。それで調子にのって、ゴルフ場のジオラマ作品をつくったんですけど、またウケたんですね。「あっ、これってウケるんだ!」と思って、ライターの友人たちと飲みに行った時とかに持っていくと、決まって「これ何?」って聞かれるんです。そしたら、「これは私の〇〇〇」って切り返すと、そこでまた盛り上がるみたいなことをやっていたんですね。

 それから、私のところにネットニュースから取材の申し込みがあり、取材というのを初めて受けたんです。そのころ、私のホームページには1日に20件くらいしかアクセスがなかったのに、いきなり1万件くらいに急増して驚いていたのですが、どうやら「2ちゃんねる」でスレッドが立ってたんです。

 書き込みをみると、「こんな気持ち悪いものを」とか「なんか臭そうだ」とか、とにかくひどいことばかり書かれていました。それまで、漫画でも女性器の名前は伏字にされていたし、そういうもんだと当たり前のように思いこんでいたのですが、この時初めて、なんで伏せなきゃいけないんだろうって疑問がわいたんです。そして、いろいろ考えていくうちに、実はメディアが勝手に自主規制しているだけで、根底にあるのは女性器が男性のモノみたいな扱いを受けているからではないかと思うようになったんです。
 

自分の価値観を押し付けるおじさんたち

 
 これまでの創作活動を振り返ると、私がつくった作品に対して、いつもすごい勢いで怒り出すのは大抵おじさんだったんですよね。根底には「俺の女性器観」みたいな考え方があって、それを無理に押しつけてくるんです。女性器は私のものなのに、何であれこれ言われなければならないのだろうと思うようになり、それからは女性器をモチーフにした創作活動を本気で始めました。

 本気でやるといっても、単に自分が怒っているだけだと面白くもないので、もっとバカバカしく、もっと脱力させてやると思って、ラジコンと女性器を合体させて走る「リモまん」とか、センサーに手をかざすと水が飛び出す「しおふきまん」とか、暗闇をビカビカ照らす「シャンデビラ」などの作品をつくりました(笑)。

 私の作品は、「笑い」が一つのメッセージでもあります。けんかしてて怒ってても、ちょっとおかしなことがあったら、思わず「ぷっ」と吹き出して、一瞬なごんだりして「まあいっか、仲直りしよっか」みたいになったりすることもあるじゃないですか。そういうものは大事にしていたいなと思うんですよね。
私の場合、つくった作品はことごとく否定されてきたのですが、「シャンデビラ」をつくったときはインパクトがないとか言われて。女性器にインパクトがない、どうすればいいんだろうと悩みました(笑)。女性器は手のひらサイズなので、小物作品しかできない。大きな作品をつくりたいと考えていて、思いついたのが「3Dデータ」でした。
自分の作品のボートに乗るろくでなし子さん
 女性器を3Dスキャンしてつくった「マンボート」はネット上で募金を募り、一緒にプロジェクトを作り上げるクラウドファンディングを利用した大型作品でした。支援者には女性も多くて、私がずっと言い続けてきた、なんで女性器の名前を言っちゃダメなのかという主張に賛同してくれたり、勇気づけられたと言ってくれる人もいました。

 そのときは同性が喜んでくれたこともあり、私自身すごく励みになりましたね。その後、「個展をやりませんか」という話が舞い込んできて、新宿眼科画廊で初めての個展を開催しました。当時は美術系雑誌など、いろんなメディアに案内資料を送ったんですけど、どこも取り上げてくれませんでした。結局、また2ちゃんねるでまとめができたおかげで広まり、会期中は大盛況でした。でも後から知ったのですが、実はその会場には刑事も来ていたそうです。
 

自分は悪いことしていない

 
 逮捕当日の2014年7月12日、朝10時30分ごろ。前日は腹痛でそのまま寝てしまい、お風呂も入っていなくて、そろそろ起きてシャワーでも浴びようかなと思った時でした。突然、玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けたら見知らぬおじさんが10人ぐらい立っていて、「警察だ」と告げられました。
自分は悪いことをした覚えはないから、何で来たのか分からないんですよ。刑事に「ガサ入れだから」って言われて、部屋に上がりこまれて、私の作品やパソコンを探し始めたんです。「じゃあ証拠品押収だ」とか言って、急に作品などを私に確認して袋に入れ始めて。刑事からは「これはアソコですか?」みたいなことを尋ねられたんですけど、この人たちは、女性器の名前を言えないんだって思って「はい、私の〇〇〇です」ってそのまんま答えました。

 たぶん、女性がそのまま口に出して言うのが聞き慣れなかったみたいで、その場がざわついてしまった。私はそれが面白かったから、「これは?」って聞かれるたびに「はい、私の〇〇〇です」って答えてました。その日は出掛ける予定もあったので、いつ帰るんだろうと思っていたら、刑事から「小岩署行くからね」と言われて。「じゃあ、逮捕状ね」っていきなり逮捕状を読み上げられて、手錠をガチャンとかけられました。そこで初めて「うわっ!逮捕かー」って実感しました。

 私の起訴内容は、クラウドファンディングの協力者に、自分の女性器をスキャンした3Dプリンタ用データをダウンロードできるURLを送った罪と、個展で同様の3Dデータが入ったCDをおまけにつけた「ミニチュアまんボート」を販売した罪。そして、北原みのりさんのショップで女性器をかたどった作品を展示した罪です。

「ろくでなし子」また逮捕 わいせつデータ頒布容疑(ZAKZAK 2014年12月3日)
 

女性器はわいせつではない

 
 通常は略式起訴で終わる事件であり、あえて公判で戦うことに疑問を持つ人も多いでしょう。でも、これまで略式ばっかりできたから、刑法175条が見直されてなかったという側面もあると思うんです。

 裁判で一番訴えたいのは、私がずっと主張してきた「女性器はわいせつではない」ということ。単純な話、人間の女性についているものなので、手とか足とか目とか鼻とか口とかと一緒ですよね。なのに、そこを切り取って「ワイセツ」というのはすごく変だなと思う。
もちろん、今すぐ意識は変わらないかもしれないですけど、歴史はそういうものの積み重なりだし、たとえば日本で裁判になった「チャタレイ夫人の恋人」は、発禁処分になったり、出版後には黒塗りされたりもしましたが、いまは普通に読めますよね。何十年後かは分からないですけど、「女性器で裁判した人がいるんだよ」みたいな話にはなるんじゃないのかなと思うんですけどね。

 私の作品のコンセプトは「女性の体は女性のもの」だということなので、海外ではフェミニズムアートだと分類されることが多い。でも、日本では「女性器=エロ」っていう意識で凝り固まっている人が多いので、いくら言っても「エロい女」とか、「エロい女が変なことやってる」としか受け止めてもらえないんですよ。

 私の作品は、人を笑わせるようなものなので、セックスとはすごくかけ離れたものなんです。私だって、プライベートだったら、笑いながらセックスなんかしませんから。密やかなものも大事だと思っています。それが理解されなくて、「お前は街中で女性器をおっぴろげて歩けるのか」みたいな極端な言い方をする人もいます。

 「女性器=エロ」という見方がある一方で、すごく神聖視されることもある。でも、結局は下品に貶めることも、神聖視することも、私にとっては差別でしかないと思っているんです。私自身の体であるものは、単に一つの器官でしかないので。でも、男の人はそれを持ってないから、そこに神秘を求めたがったり、蔑んだりとかしがちなんだと思うんです。

 男性器は息子っていう言葉もあるぐらいだから、愛でるんですよね。でも、女の場合にはそんな言葉はない。無視しても生きていけるんですよ。
ツイッターで面白いことを言っている人がいて、「性」と「聖」って同じ読み方ですけど、女性は「聖」である処女性が求められて、男性経験があったりすると、とたんに「性」の方に貶められてしまう。

 なんていうのかな、そういう二つの分け方をすごくされているなと思って、どっちかなんですよ。女性だって人間だし、性欲はもちろんある。それでも、セックスに積極的なことをちょっとでも言うと変な目でみられてしまう。崇め奉るか、蔑むかみたいに両極端になりすぎていて、すごくバランスが悪いなと思うんです。

 女性器の名前なんて言わなくても生きていけるし、気にしなくても生きてはいけますけど、それについて「なんでダメなのか?」と考えていくと、「男尊女卑」という問題にもぶちあたってしまう。

 私のペンネームは「ろくでなし子」なんですが、漫画家時代、女性器の整形とか、ろくでもないことをやってきたから「これでいいや」っていうぐらいの軽い気持ちでつけた名前なんです。

 よく名前は変えた方がいいとか言われるんですけど、新聞とかに「ろくでなし子逮捕」と載れば、その字面だけを見てもバカみたいじゃないですか。「国と戦うろくでなし子って何だ?」みたいな感じで、それがいかにくだらないかっていうことも、なんとなく伝わる感じがするので、この名前は変えたくないですね。

 私が女性器をモチーフにした作品をつくり始めた3年前は、誰に聞いても「バカな女」とか罵られるだけで、大きな湖に一人で石を投げて、ポチャンて跳ね返りがあるぐらいのものでしかなかったんですけど、今では支援者も随分増えて、反応がどんどん大きくなっている。
こうして逮捕や起訴されて、起訴自体は理不尽なんですけど、公の場で、みんなで「ワイセツとはいったい何ですか?」ということを議論し合える、いい機会にもなったと思っています。だからこそ、私は自分の主張を貫いて最後まで闘う覚悟です。(聞き手 iRONNA編集部 川畑希望)

ろくでなし子

漫画家。日本性器のアート協会会員。自らの女性器を型どりデコレーションした立体作品「デコまん」造形作家。 著書『デコまん』(ぶんか社刊)。『女子校あるある』(彩図社刊) 2012年6月米国シアトルにて開催されたエロティック・アートフェスティバルに作品出展。 2012年9月銀座ヴァニラマニアにてデコまん展開催。 2013年4月銀座ヴァニラ画廊にてヴァニラ画廊大賞展にて女性器照明器具・シャンデビラ展示。2015年4月、『ワイセツって何ですか? (「自称芸術家」と呼ばれた私)』(金曜日)が発売された。 



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