安倍晋三首相は、在任中の憲法改正の実現を目指している。これは鳩山一郎首相以来、半世紀ぶりの現職首相による挑戦だ。憲法改正が政治日程にのるに当たって注目されるのは、首相が「政界再編」路線をとるのか、「自公民3党の協調」路線をとるのか-の選択だ。これは、新憲法の中身を左右する決断となるだろう。

再編ぶちあげた幹事長

 世界の民主国家の憲法の中で、いちばん改正が難しいと思われる日本国憲法だが、第96条は改正規定となっている。衆参両院のそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成で、国会が憲法改正案を国民に発議し、国民投票で過半数の賛成が集まれば、天皇陛下が国民の名で新憲法を公布されることになる。
 衆院憲法調査特別委員会(委員長・中山太郎元外相)で現在、憲法改正手続きのための国民投票法案の審議が進んでいる。与党は遅くとも来年の通常国会での成立を目指しており、手続きが整えば憲法改正に挑戦できるようになる。
 ただし、国民投票の実現はどんなに早くても、安倍首相が自民党総裁任期(1期は3年)の2期目に入る年である、2009年以降となる。国民投票法案は、公布から2年後の施行を定め、さらに、憲法改正の国会の発議から60日-180日間の周知期間もあるからだ。
 自民党の中川秀直幹事長は11月15日、都内で講演し、「(来年7月の)参院選後の政局の3本柱は憲法改正、道州制、中央省庁の再々編だ」と宣言した。
 中川氏は「(参院選後は)安倍首相のカラーが相当色濃く出てくる。郵政民営化以上のことをしなければならないかもしれない。首相は(自民党総裁の)2期目に、政界再編をしてでも憲法改正を実現する決意だろう」とも語った。
 反対派を自民党から追い出したのが小泉純一郎前首相の郵政民営化だったが、それ以上の激動を憲法改正の政界再編で起こすかもしれないと予言したのだ。保守系議員がいる民主党に手をつっこむ宣言といってもいい。「政界再編」路線による改憲論だ。

根強い自公民協調派

 民主党はさっそく反発した。翌16日、枝野幸男民主党憲法調査会長は、衆院憲法調査特別委・審査小委員会で、中川氏の発言に触れ「憲法(改正問題)は政局の道具にすべきではない。国会の広範な合意で3分の2を超える勢力の合意で憲法(改正)は発議される。これを(委員会の)現場で合意して、信頼関係に基づいてやってきたはずだ。中川秀直君への非難決議を委員会でやるか、(釈明のために)参考人招致すべきだ」と批判した。
 衆参両院のそれぞれ3分の2以上の賛成がなければ憲法改正を国会が発議できない以上、自民党が憲法改正を実現したいのであれば、自民、公明、民主の3党の合意で行うしかないではないか-というのが枝野氏の持論だ。「自公民3党の協調」路線の典型といえる。
 「改憲賛成議員の2票が反対議員の1票に等しい『少数横暴』を認めたような憲法96条の規定」(自民党閣僚経験者)が、憲法改正に賛成か反対か一向にはっきりしない民主党に政治的力を与えている。
 実のところ、この「自公民3党の協調」路線への同調者は、自民党の改憲派にも多い。
 衆院憲法調査特別委やその前身の衆院憲法調査会で、民主、公明、共産、社民各党の議員と顔をつきあわせ、浮世離れした憲法論があっても我慢強く付き合い、やっと国民投票法案の審議にまでもってきた功労者である中山委員長、船田元・元経済企画庁長官、保岡興治元法相ら「自民党憲法族」にしても、枝野氏の議論に同調している。
 また、前文原案から日本の歴史、伝統、文化の要素を削り、「保守らしさを欠く」と批判される昨年秋の自民党新憲法草案こそが、自公民協調路線による改憲を想定した改正案だ。

保守らしい改正案を

 このため、自民党総裁として安倍首相が党の新憲法草案をどう扱うかで、憲法改正の方向性が見えてくる。首相が憲法改正を自公民の協調路線で進めたいなら、新憲法草案の大幅な見直しはそれほど必要ではないだろう。
 しかし、政界再編まで覚悟して憲法改正を目指すなら、新憲法草案に手を入れ直し、首相が信じる保守思想に基づく改正案をつくった方が、改憲議論の出発点として、国民には分かりやすいものとなる。首相が総裁選の公約通り、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を目指すなら、なおさらそうだ。
 昨年の自民党の新憲法草案作りの議論は、多くの国会議員、地方議員を参加させた国民政党らしい試みだった。しかし、昨秋の立党50年に間に合わせようと生煮えの議論になったことは否めない。新憲法草案は、前文、天皇、安全保障、統治機構、国民の権利義務などで見直した方がいい点が多々ある。
 自民党は新設の憲法審議会のトップを誰にするかで混乱し、本格論議の開始は来年にずれ込みそうだ。占領軍のスタッフが1週間で書き上げた現憲法とは異なり、明治憲法は当時の日本の俊秀が精魂を込めて書き上げた。新憲法もこれに匹敵する努力が必要で、安倍首相と自民党に足踏みしている余裕はないはずだ。
(政治部 榊原智)