水島宏明(法大社会学部教授)

このままだと受信料の無駄遣い


 『クローズアップ現代』やらせ事件。私は自分自身もテレビで調査報道を行なってきた経験から、今回の問題は“疑惑の取材”を行なったN記者による確信犯的なやらせ・捏造があったとみている。そのため、N記者がかかわった過去の取材もはたして問題がなかったのか、徹底的に検証すべきだと思っている。すでに私の元にもN記者の取材についての問題だと思われる事案について情報が寄せられている。

 さて、先日、NHKの調査委員会がこの問題で中間報告を発表した。

 まだ中間報告で、最終的な結論ということではないが、いわゆる「やらせ」の事実があったかどうかについては、取材をしたN記者の発言と番組に「ブローカー」として登場した人物A氏の発言が真っ向なら対立している。「ブローカー」氏はN記者から演技するよう依頼されたと発言し、N記者は否定している。また、番組の中で、「ブローカー」の活動拠点とされる事務所に相談に訪れたことになっている「多重債務者」として登場する人物B氏は、N記者とは8、9年の知り合いだというが、この人物もN記者による演技の依頼はなかったと主張している。いわば両論併記で、それぞれの人物がこう言っている、と書いてあるだけだ。

 それぞれの言い分は「食い違っている」ことだけを認定したらしい。

 「真実」をどうしても追及しようという迫力はまったく感じられない。

 この中間報告を読む限り、最終報告もこの調子で、それぞれがこう言っている、として、両論併記になるのだろう。それで「食い違っている」というだけでそれ以上は踏み込まないものと想像ができる。

 おいおい。冗談ではない!

 今回の調査費用で外部の弁護士らへの報酬も受信料から出ているのだ。真面目に調査をやってもらわないと困るのは視聴者だ。

 確かに、調べているのはNHKの調査委員会で、弁護士も入っているものの、強制的な調査権はない。仮にN記者とB氏が口裏を合わせ、シラを切り続けたら、それ以上は踏み込めない。本当の意味での真実は永遠に闇に葬られる。NHKは外部の委員にも意見を聞いて最終報告を出すと言っている。

 しかし、このままでは真実に近づくことができないままで終わる雲行きが濃厚なのだ。

 では、真実はわからないままでおしまいなのか。

 実はきわめて有効な打開策がある。

 この種の取り調べに慣れている元特捜検事たちのチームを作ることだ。

 実際、過去にそんな事例が民放にある。

 2007年に発覚した関西テレビの『発掘!あるある大辞典2』の調査報告書だ。154ページにも及んだ徹底した調査だ。これに比べると、今回のNHKの『クローズアップ現代』の調査委員会は、中間報告とはいえ、わずが数枚のペーパー。あまりに調査する意欲に欠けたものだといわざるをえない。

参照:

「当然、科学的根拠や実験の正確性確保のためのガイドラインの作成など、自主的なルール作りがあって然るべきであったといえる」


 関西テレビの『発掘!あるある大辞典2』についての外部委員会による調査では、調査委員長は熊崎勝彦氏。弁護士で、元東京地検特捜部長、元最高検公安部長。様々な事件の容疑者を追いつめて自白させてきた特捜の中でもプロ中のプロである。

 当時の委員の一人に聞くと、熊崎委員長の取り調べは迫力があるもので、ほぼ一方的に話しているのに、当初はシラを切っていたディレクターやプロデューサーたが彼に調べられると、次第に涙を浮かべて「申し訳ありませんでした」と罪状を認め、次々に「落ちていった」という。

 また実際の調査には、熊崎氏のかつての子分の元検事たちが手足として調査チームに加わって、証拠固めをしていったという。

 熊崎氏は現在、日本野球機構コミッショナーだ。

 NHKが本気で今回の『クロ現』の疑惑について調べる気があるなら、「特捜のプロ」であるヤメ検の弁護士たちを起用することだ。

 それも大掛かりな調査チームを編成させる。

 それをしないのは、NHKが民放である関西テレビがやった程度にも真剣に取り組む意思がない、ということでもある。

 だが、『クローズアップの現代』の問題は調べれば調べるほど、深い闇が次々に出てきそうだ。

 ちなみに『発掘!あるある大辞典2』の事件では関西テレビの社長は引責辞任した。高い取材能力で知られるNHKなのに、民放の程度にも調査しないし、潔く責任を取る最高幹部もいないのか。