福島「3年半」の現実(その3)

Wedge編集部

 福島県いわき市にある「とまとランドいわき」の巨大温室を訪れた。

 様々の大きさのトマトがずらりと並んでいる。下を見ると土はなく、かといって水耕栽培でもない。膝ほどの高さにぶら下げられた長台に、等間隔に白い袋におおわれた「スラブ」という箱が並ぶ。スラブの中には、スリランカ産というヤシの実や繊維が入っており、養液を供給する「ドリッパー」という黒いチューブが差し込まれている。箱から上に伸びるトマトのつるは水分をまとい、見るからに元気だ。

風評被害に打ち克った養液栽培のトマト


 「温室内の温度や湿度、日射量から二酸化炭素濃度まであらゆる環境の制御をコンピュータで一元管理している。トマトの生育状態にベストな気温や養分量にコントロールするため、計画的に生産することが可能」

 こう説明してくれたのは元木寛専務だ。義父が1990年にオランダから導入し改良してきた栽培システムを、10年前の結婚を機にとまとランドに入社した元木さんがブラッシュアップしている。いわき市の空間線量や土壌のセシウム濃度は決して高くない上に、地場の土を使わないこの栽培方式なら消費者の不安はないように感じるが、事故直後は大変だったと言う。
1990年に始めたオランダ式の養液栽培温室でつくるトマトは、原発事故直後の風評被害を乗り越えた(とまとランドいわきの元木寛専務)
 「風評被害で売上が1億円落ちた。事業継続は無理かなとも思ったが、修理に巨額の資金を投じた。従業員の雇用を守り切るのが大変だった」

 元木さんは持ち前の行動力で販促に努め翌年には売上を回復。「闇雲だったが動いた甲斐があった」と元木さんは笑う。昨年秋には2013年度農林水産祭にて天皇杯を受賞したほか、来春には常磐道いわき四倉インターそばにトマトの加工・販売・レストラン事業を行う施設「ワンダーファーム」をオープンする。県の地域産業6次化復興ファンドの第一号出資案件となっているほか、隣接地にはJR東日本と共同で農産物の生産・販売や観光農園を行う太陽光利用の植物工場も立ち上げる予定で、注目度は高い。

 元木専務の両親は大熊町在住で、事故後は避難で落ち込んでいた。そんな両親をとまとランドで雇用したら元気を回復したというから、雇用や仕事は復興にやはり不可欠だ。

中間貯蔵施設にまつわる不合理


 中間貯蔵施設の受け入れを双葉町・大熊町が決めた。それと引き換えに3000億円の交付金、最後は県から150億円の追加補助金も入った。中間貯蔵施設の建設・運営コストは1兆円。土地の買い上げ費用としてまず1000億円が計上されたが、これもどこまで膨らむかわからない。県内各地の仮置き場からの運搬費用も膨大な金額に上るだろう。その上「中間」だから、30年後をめどに、膨大な除染土はもう一度「県外」のどこかに運び出すこととなる。数兆円をかけて30年後の更地をつくっているようなものなのだ。

 たしかに雇用を創出するのは大変だから、このような公共工事でもあったほうがいいという考え方はあるのかもしれない。しかし、仮置き場が当初恐怖を持って受け入れられたほど危険ではなかったように、セシウムの管理は他の産業廃棄物に比べれば決して難しくない。合理性だけを考えれば、各市町村単位で新たに産業廃棄物場をつくったほうが、中間貯蔵施設よりはるかに費用対効果が高い。

 中間貯蔵施設にはもうひとつ大きな問題がある。前章で見たように、大熊町・双葉町は全壊扱いで事故前評価額全額を賠償されている。本来の損害賠償のルールから言えば、所有権は東京電力に移管されるのだが、東電はさすがに所有権を引き取るとは言えず、結果、中間貯蔵施設対象地では、賠償金に買い上げ金額が上積みされることになるのだ。

 賠償金総額は6兆円のオーダーが見えてきている。中間貯蔵施設は数兆円規模。本来このいくらかを適正化し、難題である町づくりや雇用創出に金を回すべきだったのではないだろうか。
391
国道6号線よりさらに海沿いを走る県道391号線。津波襲来の跡がそのまま残る。事故前は原発従事者の通勤路だった

双葉郡8町村 重複する復興計画


 「30年後の故郷と子どもたちのために、大人たちがいまできる行動を起こさなければ」そんな思いから、福島県浜通りの道路沿いに2万本の桜を植える「ふくしま浜街道・桜プロジェクト」を進めている西本由美子さん(NPO・ハッピーロードネット理事長)はこう訴える。

 「双葉郡の8町村は、それぞれバラバラに、重複する復興計画を立ててインフラ整備などを始めているが、8町村まとめて『双葉市』として全体最適のグランドデザインを描くべき」

 どの町のアンケートでも帰還希望者は全体の2~3割程度であり、避難解除後に実際に帰還する人はもっと少ないとみられている。人口密度は大幅に下がるのだ。双葉町や大熊町は確かに空間線量率の高いところが多いが、8町村全体でみれば、低いところは数多く点在している。これから、廃炉関係の研究施設や、イノベーション拠点の設置も検討されているところだ。双葉郡単位で「まち・ひと・しごと」の全体最適を達成するような復興計画を練り直すべきではないだろうか。

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