衆院本会議は19日、衆院憲法調査特別委員会(中山太郎委員長)で審議してきた憲法改正手続きを定める国民投票法案の与党案、民主党案を来年1月召集の通常国会へ継続審議とすることを決めた。国民投票法は、現憲法施行60年に当たる来年の通常国会で成立の見通しだが、見落としてはならない点がある。それは自民、公明、民主の3党は国民投票法の公布から施行まであえて3年間置き、その間は国会での憲法改正案の原案提出、審議、議決を凍結すること(憲法改正案審査権限の3年凍結)で修正合意している点だ。
 これが、安倍晋三首相(自民党総裁)の憲法改正の試みを、政治日程上極めてきついものにしたのに気づいている向きは、永田町でも少ないようだ。自公民3党の修正合意の「制約」によって、憲法改正案の国民投票実施の時期は、最も早くて、今からほぼ4年後の2011年(平成23年)にならざるを得ない。この年は、安倍首相が(2期目を続投できたとして)自民党の党則で2期6年の任期を満了し退陣する前年でもある。修正合意の制約は「安倍改憲」に大きく影響する。

最短で2011年

 国民投票法成立のカギを握る民主党の枝野幸男憲法調査会長は14日の衆院憲法調査特別委で「来年5月の憲法記念日までの成立に期待する」と語った。
 次期通常国会で、来年5月以降に、国民投票法が成立したと想定しよう。
 最短の国民投票の年である11年まで、安倍首相は立ちふさがるいくつものハードルを乗り越えねばならない。来年4月の統一地方選、7月の参院選がある。09年9月は衆院議員の任期満了で、それまでに解散総選挙が行われるだろう。同月は首相の2期目への関門の自民党総裁選だ。
 10年の5月以降に国民投票法は施行されるが、すぐさま国民投票が可能になるかといえば、そうは問屋が卸さない。憲法改正原案の作成、国会での審議、議決、さらに2カ月から6カ月の改正案の周知期間が必要だ。この年には7月に参院選もある。
 どんなに急いでも、国民投票の実施は11年になるだろう。しかしこの年は前述の通り、4月に統一地方選がある。安倍首相の最後の年の翌12年にずれ込むかもしれない。
 安倍政権下で憲法改正の国民投票が行われれば、小泉純一郎前首相が任期満了前年の05年に郵政解散を断行した以上の激動となる。首相は2期目の改憲を目指しているわけだが、政治日程を左右するさまざまな条件をさばきつつ、大胆な決断をする必要がある。

腹心も認めたが

 自民党の国民投票法特命委員会(委員長・中川昭一政調会長)は6日の総会で、衆院憲法特別委の理事が提案した、与党案と民主党案を一本化するための修正9項目を了承した。
 この中に、(1)国民投票法の施行時期は、公布から3年後(2)国会法改正によって先行して設置される衆参の常設機関「憲法審査会」の憲法改正案の提案、審議、議決の権限(憲法改正案の審査権限)を3年間凍結-することが盛り込まれていた。
 本来、憲法改正案の審査権限の凍結は「3年間」である必然性はない。もともと与党案は「2年間」だった。これでも長いくらいで「1年間」でも構わないはずだ。
 この期間が短いほど、安倍首相は憲法改正を“仕掛ける”時期を選べ、国民的論議は高まり、安倍政権下での憲法改正の実現度が増すのではないか。にもかかわらず、安倍自民党は自らの手を縛るような「3年間」を容認しようとしている。
 民主党や公明党が、まずは現憲法のどこに問題があるか、どんな改正が望ましいか、改正案を離れて、じっくり議論する必要がある-と主張し、「2年間」を「3年間」にするよう求め、自民党が妥協したのだ。
 妥協を決めたこの自民党特命委員会の総会には、安倍首相の腹心、中川政調会長も出席し、この修正内容に沿って3党協議を行うことを一任されている。

もっと関心を

 自民党の妥協は、次期通常国会で国民投票法を成立させたいあまりの行為で、同情すべき点もある。ただ、護憲勢力を抱え具体的な憲法改正案作りに至っていない民主党、加憲案作りを急いでいない公明党を「甘やかす対応」(自民党若手議員)であるのは否めない。そもそも民主、公明両党とも安倍首相による憲法改正を歓迎していないのだ。
 自民党が妥協を決めた6日の国民投票法特命委員会に出席した国会議員は20人程度だった。一方、同じ日の自民党道路特定財源見直しプロジェクトチームの会合には国会議員約100人が詰めかけた。
 国体(国のかたち)を規定する憲法改正の時期を左右する国民投票法案への関心が、道路財源以下でいいわけがない。自民党は、改憲派を自認する議員が多数を占めるのにこのありさまだ。
 激動する東アジア情勢は、悠長な日本の憲法改正を待ってくれるのか。安倍政権だけが改憲を目指すとは限らないものの、国民投票法案を採決してから(3年間凍結について)「こんなつもりではなかった」と言っても遅いのだが。
(政治部 榊原智)