韓国に不穏なムードが広がっている。韓国各地で朴槿恵(パク・クネ)大統領を非難するビラがまかれ、海外の韓国系住民による抗議デモが頻発するなど、国内外で政権批判の動きが加速しているのだ。朴政権は、こうした反対勢力に対して、警察による強引な捜査などで対抗。かつての軍事独裁政権を思わせる荒っぽい手法で批判を封じ込めようとしている。青瓦台(韓国大統領府)を取り巻く混沌をノンフィクションライターの高月靖氏がリポートする。


 中国や日本などからの観光客でにぎわうソウル中心部の繁華街、明洞(ミョンドン)。先月下旬、この街で奇妙な光景が繰り広げられた。朴氏を批判する大量のビラが、ビル屋上からばらまかれたのだ。

 「サイズはA5判ほどで、朴氏を批判する『国民生活破綻』『民主主義破壊』『朴槿恵政権糾弾・汎国民大会』などのメッセージが白黒で印刷されていました。約4000枚が一斉にばらまかれ、一時ビラが空を埋めるような形になったほどです」(現地日本人フリー記者)

 朴政権を批判するビラがゲリラ的にばらまかれるのは、この日が初めてではない。昨年12月にソウルと地方都市で行われた後、今年1月から3月にかけて韓国各地へ波及。朴氏のイラストを添えて、朴氏からの「つまり辞任しろと言うんですか?」との問いに、民主主義を願う市民が「そうだ」と答えるものなど、ソウルでは今月1日まで連日のようにあちこちで大量にまかれ続けた。

 「ちょうど同じ時期に米国ニューヨークやワシントンDCでも現地の韓国系住民による反・朴政権デモが同時多発的に行われていました。デモはオーストラリアにも飛び火しています。セウォル号事故などの際も同様のデモはありましたが、今また就任2周年の節目で朴政権批判が過熱しているようです」(同)
自民党の二階俊博総務会長(左)との会談に臨む韓国の朴槿恵大統領=2015年2月13日、ソウルの青瓦台(共同)
 韓国の内外で盛り上がる反・朴政権の動き。だが、1月に30%を割り込んだ支持率は、ここに来て急上昇している。3月上旬の支持率は40%台後半に持ち直した。

 「米大使襲撃事件に驚いた保守層が、慌てて政権支持に逆戻りしたせいです。朴政権が事件の背後にいると指摘する左派勢力を一掃すべく、保守層が力を合わせようとしているのでしょう」(同)

 ビラの作成者らも、朴氏に批判的な左派勢力として政権から目の敵にされている。警察は今月12日までに、地方都市でビラ散布に関わった3人の関係先を家宅捜索した。だが、微罪や別件逮捕の摘発、家族にまで圧力を加える捜査手法が、現地メディアで非難を集めた。

 「ビラ散布はゴミを無断投棄した程度の軽犯罪に過ぎません。しかし警察は朴大統領に対する名誉毀損(きそん)、さらに所有するバイクの改造などまで口実にして、強制捜査を行っています。3人のうちの1人が出頭を拒否したところ、警察は令状なしに妻の勤務先にまで踏み込みました」(同)

 ビラに対して与党は非常に敏感だ。2月に釜山で朴氏を風刺する紙がまかれた際、与党・セヌリ党釜山支部のスポークスマンは「徹底した調査で犯人を探し出し、国家元首に対する冒涜(ぼうとく)と名誉毀損(きそん)に対する厳重な法的責任を問わなくてはならない」と息巻いた。

 韓国では過去、国家元首=大統領への冒涜(ぼうとく)を裁く法律が、民主化とともに廃止された経緯がある。そのため、スポークスマンの軍事独裁時代に逆行するような発言には批判が渦巻くが、「警察の横暴な姿勢は変わらない」(現地関係者)という。

 インターネット全盛の時代にビラをまくのは古典的な手法だが、実は、これにはわけがあるという。

 「ネットではすぐに発信元を特定され、名誉毀損(きそん)で告訴されるからだといわれています。ソウルで連日ビラを散布したグループは防犯カメラもうまくかわしており、まだ身元は特定されていません」(前出のフリー記者)

 内外で盛り上がる大統領批判の機運と、大使襲撃事件をも利用して左派勢力への圧力を強める政権。韓国社会を二分する対立は、政権崩壊につながりかねない危険な雰囲気を漂わせている。