憲法改正手続きを定める国民投票法案は、25日召集予定の通常国会での成立が期待されるが、日本人が成年(成人)になる年齢や選挙権年齢などを今の20歳から18歳へ引き下げるという思わぬ副産物を生もうとしている。自民、公明、民主の3党が昨年12月、国民投票の投票権者の年齢や成年年齢などを将来的に18歳(以上)とすることで大筋合意したためだ。これは、若い世代と国づくりの「責任」を分かち合うとともに、国民一人ひとりの人生の節目を変える出来事になる。

人生の節目を変える

 民法は「年齢20歳をもって、成年とする」(3条)と定め、売買契約や賃貸借の契約、遺言などの「法律行為」を自分の意志だけで行う国民を成年者に限定している(4条、未成年者は法定代理人の同意が必要)。多くの経済活動も成年者でないと自由に行うことは難しい。
 国会議員や地方自治体の首長・議員を選ぶ選挙権は「日本国民で年齢満20歳以上の者」(公職選挙法第9条)に与えられる。法律(未成年者飲酒禁止法、同喫煙禁止法各1条)で飲酒、喫煙の解禁は20歳だ。法律上、未成年者は医師や公認会計士の資格を取れない。
 実態はさておき、競馬法では未成年者の投票券(馬券)購入はご法度(はっと)だ。競艇、競輪、オートレースも法律で、未成年者と学生生徒は投票券購入は禁止だ。
 成年年齢は国民の安全(治安)とも深くかかわる。少年法で20歳未満の者が犯罪に手を染めても刑事責任を問われなかったり、問われても軽い処分になったりすることがあるからだ。
 このように20歳は大きな節目といっていい。戦後はないが、戦前の男子の徴兵年齢も20歳(1943年末から19歳)だった。

大人の自覚促せ

 国民投票法案は与党案と民主党案の2つがあり、一本化が必要だ。与党と民主党が当初対立していたのが、国民投票の投票権者の年齢だった。与党案は選挙権と同じ20歳以上、民主党案は原則18歳以上(国会の議決で16歳以上も可)だった。
 昨年12月に自公民3党が大筋合意した修正では(1)国民投票法の本則で投票権者は18歳以上と規定(2)付則で、国民投票法の公布から3年をめどに、必要な法制上の措置を講ずることとし、それまでは投票権者は20歳以上とする-ことになった。
 この「必要な法制上の措置」が、成年年齢や選挙権年齢などの引き下げだ。自民党が年齢の整合性にこだわったのだ。
 この修正では政府与党が成年年齢などの引き下げをサボタージュすれば、国民投票の年齢は20歳以上のまま据え置けると思われるかもしれない。しかしそれは政治的に難しい。
 国会が憲法改正案を国民に発議するには、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要だ。それには民主党議員の賛成が欠かせない。政府与党が民法改正などの動きをそれなりに見せていなければ、民主党は反発し、世論の風当たりも厳しくなる。憲法改正を目指すなら、政府与党は取り組まざるを得なくなるのだ。
 今年の通常国会で国民投票法が成立した場合、国民投票の実施が最短で可能になる2011年の19歳人口は120万9248人、18歳人口は118万7516人(2005年10月国勢調査)。この年に年齢引き下げが実現するか保証はないが、仮にこの年に引き下げられれば計239万6764人が大人の仲間入りをする。
 “幼児化”が進んでいるような現代日本人の成年年齢や選挙権・国民投票権年齢を引き下げるのはいかがなものか-という意見はあろう。
 しかし、これは、若い世代を一人前の仲間として国家社会の中に迎えることだ。政治、経済、礼節など大人としてわきまえるべき事柄を、若い世代に教育し、また彼らに自主的に考えてもらう絶好の機会になる。同時に、大人の世代も自らを省みればいい。
 少年法の適用年齢の引き下げは、治安の悪化に怯(おび)える多くの国民から歓迎されるだろう。

待たれる首相の決意

 国立国会図書館が調査した世界186カ国・地域のうち実に9割弱の1622カ国・地域が、選挙権年齢を18歳以上にしている。米英仏独伊露各国やインド、オーストラリア、イラクなどだ。成年年齢もほぼ同様だ。日本人だけが20歳で大人になる必要はなさそうだ。
 「成年年齢にかかわる法令は24~25ある」(法相経験者)といわれる。どれを引き下げるか、若い世代にどんな教育を施していくか、国民的議論が必要だ。現役の高校3年生が投票する場面も出てくるからだ。
 ちなみに、飲酒・喫煙年齢は「20歳からに据え置く」(民主党筋)ことになると思われる。
 制度改正には内閣の積極姿勢が欠かせない。安倍晋三首相の決意次第だが、こんなおもしろいことをやらない手はない。とかく「国民に声が届いていない」と評される首相だ。もし、昨年12月の臨時国会閉会時の記者会見で、内閣挙げて成年年齢などの引き下げに取り組む意向を表明し、若い世代に憲法改正という新しい国づくりへの協力を呼びかけていれば、どうだったろう。世論やメディアの反応は大きく違っていたはずだ。
(政治部 榊原智)