藤岡利充(映画監督)

羽柴誠三秀吉の死去


 2015年4月11日。日本全国の選挙に何度も立候補し続けた羽柴誠三秀吉(本名:三上誠三)氏が65歳で亡くなった。羽柴氏は青森県五所川市金木町出身。青函トンネルの土をダンプで運ぶことをきっかけに財を築いた。自宅は日本の城を模したもの。甲冑を身につけ、ヘリコプターを飛ばすなどの派手な選挙パフォーマンスは、目立ちたがり屋で金持ちの道楽立候補、選挙の時だけ現れては消える水の泡、泡沫(ほうまつ)候補として揶揄する人もいた。一方で、人から何を言われようとも我が道を行き、自由奔放に生きていると賞賛する人もいた。本人はどう考えていたのか?

2000年の大阪府知事選に鎧兜姿で出陣する羽柴誠三秀吉氏
 2012年6月。まだ闘病中だった羽柴氏に、私はインタビューした。

「今後、羽柴氏を手本にして立候補する人たちも現れてくるのではないか?」

 すると、意外な答えが本人から返ってきた。

「まず、私を手本にして欲しくないナ。戦って、戦って、最後の結末で勝てたなら、いくら負けても、何度でも戦っていけ!と言うけどもヨ。まだ私は最後の戦いに勝利して、(政治の世界に)歯車を噛ませていませんから。だから、私を手本にはして欲しくないナ。」

 泡沫候補と呼ばれた彼は、負ける前提の戦いではなく、勝利を信じ選挙戦を戦い、社会の歯車となることを目指していた。羽柴氏のカメラを見つめる目は優しく、言葉は力強かった。羽柴氏が亡くなったことを大変残念に思う。
 

供託金


 日本の選挙には、供託金制度というものがある。例えば、大きな首長や国政の選挙では立候補するのに300万円が必要となる。もしも、一定の得票率に達しない場合は300万円が没収される。海外の民主国家では供託金制度自体がないところも多く、立候補をお金によって制限することにも議論がある。しかしそれ以前に、この供託金制度自体を知らないという人も多い。日本人の多くは、立候補という政治参加の手段を存在しないものとしている。

政治参加の手段


1「家の中でグチる」

2「家の外でガナる」

3「投票する」

4「立候補する」

5「革命を起こす」


 今の政治に対して満足している人は3の「投票」で良いだろう。しかし、現在の政治に対して不満があり、支持する政党や政治家がいない場合、どうしたら良いだろうか? 棄権や無記名投票は、政治に対して何ら法的効力を持たない(憲法改正では有効かもしれないが)。1も2も法的な力はほとんどない。5番目の「革命」は違法だ。

 泡沫候補と呼ばれる人たちは、政治に対して不満があり、投票先が見当たらなくて、4番目の「立候補」という合法的な政治参加の手段に気づいてしまった人たちなのだ。
 

あなたはまだ、負けてすらいない。


 とはいえ、いきなり選挙に立候補しても、落選必至である。出るからには勝ちたい。地盤(組織力)、看板(知名度)、鞄(資金力)。もしも既成政党にも各種団体にも頼らず、自力で当選したいと考えたなら…。

 鞄は借りることが出来る。でも看板は借りることができない。看板は、芸能人やスポーツ選手など限られた人だけしか持てない。しかし、選挙での勝利を目指し、その手段として知名度(看板)を上げようとすると、こう言われる。

 「目立ちたいだけでしょ。」

 彼らは目立つことが目的ではない。あくまで、それは手段。インターネット、学校、職場。認められたい、勝利したい思う場所は人それぞれ違う。この言葉を投げかけた人は、自分自身が何か新しい大きなことに立候補しようとするとき、自分に返ってくる。

 「目立ちたいだけでしょ。」
 

負ケルトワカッテ、ナゼ戦ウ?


 私は泡沫と呼ばれる立候補者たちを取材した映画「立候補」で、上記のコピーをつけた。この言葉は立候補しない人たちから、泡沫候補たちへの問いかけを意味している。

大阪出直し市長選の告示日、戎橋上で遊説するマック赤坂氏

 私は負ける戦いを仕掛けることがおかしいとは思わない。なぜなら、私自身が、生まれてから死ぬまで負ける戦いをしているからだ。お金を貯める。体を鍛える。映画を作る。そんなことしなくても三途の川は必ず渡れる。患者を治療して、その患者の最期を看取る医者のことを誰もおかしいとは言わない。

 老病死。いつかは負ける人生という戦いの中で、かりそめの泡のような勝利を目指してもがくことは美しい。例え、その戦いで敗北しても、今度は子供たちが勝利を目指して戦いを続けてくれるだろう。

 映画の中では最終的にカットしたが、私は上記コピーの問いかけに答えを3つ用意していた。
  

1.死に場所を求めている。

2.いつかは勝てると思っている。

3.思いは誰かに伝わるから。


 2013年1月、泡沫候補として有名なスマイル党総裁マック赤坂氏はこの問いかけにこう答えた。

 「うん。それは基本的に2だよ。勝つための立候補であって、その上で結果的に3も達成します。当選に向けて逆算すれば良いんでしょ?俺の選挙戦は今まで投票へ行かない若者にアピールしていた。次は投票へ行く人たちにアピールすれば良いんだろ?もうレオタードは封印だよ!」

 レオタード封印と宣言したインタビューから約半年後の2013年7月。参院選に立候補したマック氏は、衣装をレオタードから、ガンジーの衣装に変えた。勝利を目指す手段は人によってさまざまだ。

 私は映画で勝利を目指し戦い続ける。あなたは、どんな泡沫候補ですか?

ふじおか・としみち 映画監督、ディレクター。1976年生まれ、山口県出身・在住。立命大卒。ワードアンドセンテンス合同会社所属。映画作品に「フジヤマにミサイル」(2005年)、「映画「立候補」」(2013年)。著書に「泡沫候補」(ポプラ社)。現在、新作映画に向けて準備中。