防衛省が今月9日、発足した。政策官庁への脱皮、自衛隊海外派遣のための一般法(恒久法)制定、武器使用基準の緩和、集団的自衛権の見直し、ミサイル防衛(MD)、米軍再編などが省昇格後の課題とされる。いずれも重要だが、最も大切なことが意識されていないようだ。憲法改正を含む安全保障改革のゴールが国軍の再建という点だ。安倍晋三首相(自民党総裁)や自民党は、憲法改正によって自衛隊を「自衛軍」にすることを目指しているはずだ。そうであるなら、現憲法下の今から、自衛隊を「民主主義国の軍隊」へ近づけていく努力を重ねるのが望ましい。現憲法の制約内でも、意外に多くの改革が可能と思われる。

軍“昇格”は政治目標

 自民党は2005年10月の総務会で憲法改正案の「新憲法草案」を党議決定し「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する」と明記した。国防や国際協力のため自衛隊を軍に“昇格”させようというものだ。
党議決定された新憲法草案は立派な政治目標だ。憲法改正はもちろんだが、改正に至らない段階でも、少しでもその内容へ現実を近づけるべきだろう。
 安倍首相は9日の東京・市ケ谷での記念式典で、防衛省昇格について「戦後レジーム(体制)から脱却し、新たな国づくりを行うための基礎、大きな第一歩となる」と訓示した。安全保障面で脱却すべき戦後の欠陥が「軍」アレルギーであるのはいうまでもない。
 現憲法下でも取り組める「軍」へ向けた改革をいくつか挙げてみたい。本来、軍隊には軍刑法と軍事裁判所が必要だ。新憲法草案は76条改正で「軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する」ことも打ち出した。
 生死をかけた戦闘に従事する軍隊(や自衛隊)には一般社会以上の厳正な規律が不可欠だ。命令違反や軍紀の崩壊があれば任務が失敗し、死傷者が増したり、最悪敗戦にいたりかねない。軍刑法は軍の秩序・機能維持の最後の砦(とりで)だが、自衛隊指揮官には他国軍なら当たり前の軍刑法による統率の担保がない。海外派遣も精鋭の投入で従来カバーしてきたが不利な条件に置かれているのに変わりはない。
 軍隊(や自衛隊)から民主主義や国家秩序を守る面でも軍刑法、軍事裁判所は必要だ。部隊を正当な命令なしに動かせば死刑も含む厳罰があるのが普通の国だ。しかしわが国は、防衛出動時に自衛隊指揮官が命令なしに、または命令に反して勝手に部隊を動かしても懲役7年と免職止まり。文民統制が叫ばれる国のお粗末な実態だ。

防衛裁判所の創設を

 実は、新憲法草案における軍事裁判所は、最高裁傘下の存在とされ、現憲法が禁ずる特別裁判所とされていない。「本来法律で定めればよく、新憲法の条文に明記しなくてもいい」(自民党幹部)が、わかりやすさと重要性から書き込まれた。
 軍事裁判所は一般司法と区別した特別裁判所の方が望ましいが、新憲法草案のように特別裁判所としないなら、現憲法下でも「防衛裁判所」「防衛刑法」として創設、運用は可能だ。改憲で実現したいなら、先行して創設する努力を払っても、どのみち無駄にはならない。
 自衛隊、自衛官には名誉も必要だ。制服組トップの統合幕僚長、陸海空3幕僚長が、天皇陛下が任命される認証官ではないのはおかしなことだ。勲章も含む礼遇の向上は、国民の支持とならび自衛隊の士気を高めることになる。

用語の是正も

 自民党には新憲法草案とならんで重要な政策文書がある。国防部会(今津寛部会長=当時)が2004年4月に小泉純一郎首相(当時)に提出した「提言・新しい日本の防衛政策」だ。省昇格、自衛隊の統合運用、ミサイル防衛(MD)での迎撃権限の指揮官委任、武器輸出三原則や宇宙政策の見直しなど実現した項目も多い。
 この中には、国民が親しみやすく国際的に通用する「階級呼称などの変更」と、防衛省内で文官(背広組)だけが就任することで制服自衛官(制服組)をコントロールし、制服組の豊富な軍事知識を活用しきれない原因とされる「防衛参事官制度の見直し」が挙げられている。
 しかし防衛省は、米軍に倣(なら)って、日本人にはなじみの薄い准将(じゆんしよう)の創設は検討中だが、大将、中将、少将や大佐、少尉といった呼称は使わないようだ。戦闘爆撃機を「支援戦闘機」、砲兵を「特科」、作戦を「運用」、“本土決戦”を「専守防衛」、国連平和維持軍を「国連平和維持隊」などとする「ごまかし」もそのままだ。参事官への制服組起用も見通しは立っておらず、背広組と制服組のぎくしゃくした関係は続きそうだ。
 また、財務、外務、経産、警察の4省庁が首相秘書官を派遣しているのに防衛省・自衛隊から首相秘書官も首相付き副官も派遣されていない。
 これらは現憲法下でも可能な改革の部分に過ぎない。安倍政権には日本版NSC(国家安全保障会議)創設だけでなく防衛省・自衛隊改革への期待もかかっている。
(政治部 榊原智)