文谷数重(軍事専門誌ライター)

(「Japan In-depth」より転載)

 テロを法律で禁止してもテロは根絶できない。同じようにテロ対策としてドローンを法的規制しても、ドローンによるテロは根絶できない。

 ドローンは従来警備の穴を明確にした。4月22日、首相官邸の屋上への着地発見により、重要施設でも空からは容易に進入できることが判明したのである。

 この問題を受け、政府はテロ対策として早急なドローン対策を図ることとなった。発見翌日の23日には、重要地区での飛行禁止や、所持に手続きを持たせるといった話が出ている。だが法的規制を掛ければ、警備上の問題は解決するのだろうか?

飛行禁止を守るだろうか?


4首相官邸の屋上ヘリポートで発見された小型無人機を調べる捜査員ら=4月22日、東京・永田町(酒巻俊介撮影)
 テロ対策として飛行禁止を設定しても意味はない。テロ組織は法を守らない。殺人や傷害は刑法で禁じられているが、テロ組織はそれを守るだろうか?

 また、飛行禁止を強制する方法もない。現状では飛行中のドローンを阻止する手段はない。上空を監視し、侵入ドローンを発見し、撃ち落とすシステムといったものだ。将来的にドローンを落とすドローンや、飼いならした猛禽類等といったものがなければ、法律で禁止しても強制はできず、実効性は期待できない。

 操縦者への強制も難しい。禁止地域の1km先から操縦されれば、操縦者を発見できず飛行中止の強制もできない。そしてドローンは本質的に遠距離からでも操縦できる。高いところに登れば1-2km先での操縦は問題とならない。高速回線の携帯電話を利用すれば、ドローンが見えない地下室や、海外からでも操縦できる。禁止ドローンを強制阻止できない以上、飛行禁止は実効性を持たない。

操縦資格も販売・購入制限も効果なし


 操縦資格を作っても、やはりテロ対策としての効果は少ない。もともと操縦容易である。姿勢安定が自動化されておりラジコンのように苦労する必要はない。飛ぶ方向を事前設定し、最終段階ではカメラ画像を見ながら方向だけ誘導すれば済む。技量が要求されない以上、資格や資格者登録はあまり意味はない。テロで使うなら、人目にどこかの山中で2-3回も訓練で飛ばせば充分である。

 実際に制度を作っても、どうでもいい教育に終わる。「飛行禁止地区で飛ばすな」とか「高度は1000フィートまで」といったものだ。もちろん、テロを決意した人間には何の効果ももたらさない。

 販売や購入、登録制度もテロ防止にはつながらない。ドローンは自作容易であるためだ。中核部分は一般品である。キモは安定機構だが、ほぼジャイロとプログラムである。汎用品のジャイロは販売制限できないし、ハードもPICと制御系で済み、そのプログラムの流通も制限できない。

 通信系も入手容易である。見通し距離なら5GHzの無線LANで充分であり、いざとなれば電話回線とスマホそのものでもよい。動力部分もモーターとリチウム電池とプロペラに過ぎない。これも汎用品であり、販売制限も意味を持たない。

 そもそもドローンだけを禁止しても仕方がない。ラジコンを改造しても作れるし、鳥を訓練しても代用できる。条件付けしたカラスに、電極とカメラ付きスマホをつければ、今回のセシウム程度は運べる。これはネズミでの先行例がある。本格テロをやるつもりならば、風船による人間の直接侵入もできない話ではない。

必要なのは法的規制より施設防護の強化


 むしろ、必要なのは施設側の警備強化である。まずは、防護強化である。ドローンそのものが危険なわけではない。ドローンに積まれた危険物が怖いのである。それならば、危険物が通用しない建物にしたほうが確実である。

 ドローンに積める危険物は、たかが知れている。少量の毒ガスや放射性物質ならば、空調系の空気取入口の位置と吸気方向の変更で対処できる。少量の爆薬や体当たり防止ならば、窓ガラスの飛散防止や重要区画の無窓化で対抗できる。ドローン侵入防止はさらに簡単であり、開口部に網を張るだけよい。

 その上で、ドローンの接近も阻止したいのならば、阻止手段を準備すべきである。妨害電波のジャミングによる操縦側との通信妨害や、カメラの目潰しや灼ききりを狙ったレーザ照射といったものだ。あるいは鷹匠と鷹でドローンを落とす準備でもよい。

 法的規制は効果は少なく、むしろドローンの有効利用の妨げとなる。今のところは撮影や調査、監視で限定使用されたものだが、いずれは軽輸送や通信中継、空中配線といった用途に使われる。各種の法規制は、穏当な利用に無駄なハードルを課すものであり、害の多い規制となるのである。