赤木智弘(フリーライター)

 首相官邸の屋上に正体不明のドローン(無人航空機)が落ちていたとかいうことで、なんか大騒ぎである。

 政府は早急にドローンの法規制を進めることを決め、野党は問題が発生したことの説明と責任の追求を求めている。

 ネットでも「とんでもないテロだ!」という声が上がり、「もしこれが、サリンや炭疽菌を運んでいたとしたら、大変な事になった」として、規制に賛同する人が多い。

 相変わらずである。日本は新規性が強いものに対して、どうしてここまで警戒心を露わにするのだろうか。

 思い出すのはインターネット黎明期だ。僕は1994年頃からインターネットを利用しているが、当時はまだインターネットというものに対する世間の認知はほとんどなかった。

 だから、ちょっと犯罪が起きただけで「インターネットは危険だから規制しろ」という声が挙がったものである。たとえそれが電話や郵便でも行えるような犯罪であっても、電話や郵便には規制の声が上がらず、インターネットだけには規制の声が挙がった。今では企業もインターネットを利用しているし、インターネットが富を産むようになったからインターネット廃止なんて誰も言わなくなったけどね。

 それと今回の件も同じことで、ドローンでできるようなテロ行為は、他の手段を用いてもできるのであり、ドローンを規制しても無意味である。

 しかし、インターネットの時には「インターネットはあくまでも道具である。包丁がそうであるように、犯罪に使うこともできるし、有用なツールとして使うこともできる」という反論があるのが常だったが、今回はあまりそうした声は強くないようだ。

 それには、やはり個人所有のドローンが、まだおもちゃに毛が生えたようなものだと理解され、仮に規制されたとしても一部のマニアが困るだけで、一般市民である我々には関係ないから困らないという感覚が強いのだろう。

 しかし、僕は今回の事件において、ドローンに対する法規制があまりに早く検討されたことに危惧を念を抱く。なぜなら、こうしたテロ行為に対する過剰反応こそが、別のテロを呼び込みかねないからだ。

 テロリストがテロを行う理由は、自分の主張を世間に広めることである。そのためには事件が騒がれば騒がれるほどいい。今回の事件でも、マスメディアが被告に成り代わって、その意図を一生懸命宣伝してくれている。(*1) 

首相官邸屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件で、送検のため警視庁麴町署を出る山本泰雄容疑者=26日午前8時45分
 被告のものと思わしきブログにも、ドローンを墜落させた当初は全く反応がなくて、がっかりしていた被告も、官邸でドローンが発見されたことがニュースに流れると「犯罪者は自分の報道をこんな感じでみるのか...平常心を保つのが難しい」と、高揚感があったようなことが書かれている。それはまるで、ようやく自分の行動が発見されて「認められた」かのような受け入れ方である。

 24日には、官邸近くにドローンを持った男女が現れて、機動隊員が駆けつけたという事態があった。2人は「おとといの事件を見て官邸の近くでドローンを飛ばしたくなった」ということだ。(*2)

 これはまさに、無闇に騒いだ事により、目立ちたがり屋が呼び寄せられた問題と言っていい。

 テロの怖さというのは、決してその犯行単体だけではない。その犯行が誰かの共感を呼び、大小関わらず他の事件を呼びこむことが怖いのである。

 テロリストに最も効く対抗法は、徹底的に無視することである。
 彼らの主張を報じず、事件そのものも概要のみを伝え、犯人の個人像に一切触れない。そうすれば、テロリストにテロを起こすような誘因を与えずに済む。

 被害者が出たような事件ならまだしも、今回のような全く被害のないような事件であれば、一切事件を報じずに無視したほうがいいのではないかと僕は思う。

 今回の事件を受けて、早速の法整備が進んでいるようだが、ドローンを規制したところで、テロリズムは規制できない。テロリストは使えるものを使って、自分の主張を世の中に広めようとしてくる。

 規制で安全が守れるなどと少しでも考えているようならば、それこそが「平和ボケ」と批判されて然るべきだろう。

*1:「官邸ドローン」の狙いは「福井県知事選の混乱」 容疑者はブログで犯行を克明に明かしていた(J-CASTニュース)
*2:官邸近くにドローン持った男女 一時騒然(日テレNEWS24)
http://www.news24.jp/articles/2015/04/24/07273698.html

あかぎ・ともひろ 1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

BLOGOS「赤木智弘の眼光紙背」より転載)