分かちがたく結びついている「女性」「こども」の貧困


 厚労省の「国民生活基礎調査」によれば、日本の「子供の貧困率」は16.3%(2012年)と、過去最悪を更新した。平均的な所得の半分を下回る所得の世帯(年間122 万円以下)で暮らす子供たちが、6人に1人もいるということだ。1クラス30人としたら、5人。しかも、この数値はじりじりと上昇を続けている(図)。
(図)子どもの貧困率の年次推移[赤いラインで加工]、厚労省「国民生活基礎調査」より抜粋
 子供の貧困と、女性の貧困は、分かちがたく結びついている。国立社会保障・人口問題研究所のレポート(注1)では、シングルマザーの3人に2人が「貧困層」だ。ここ2年ほど、「シングルマザーの貧困」にスポットライトが当たる機会が増えているため、その実態を間接的に知っている人も多いだろう。ルポライターの鈴木大介氏による、『出会い系のシングルマザーたち』(2010、朝日新聞出版(注2))や、社会学者の水無田気流氏による『シングルマザーの貧困』(2014、光文社新書)などは、母子家庭の貧困に迫る秀作だ。

 これらを読むと、戦後長らく「標準家族」とされてきた「サラリーマンの夫と専業主婦、子供2人」というモデルのほころびが、よく理解できる。国の社会保障制度が「男性中心の長時間労働者と、家事を担うパート妻、そして子供」を基準としているため、そこからはじき出された女性(と子供)は、貧困に陥る可能性が著しく高いのだ。子のいる夫婦が離婚した場合、親権は8割が母親に移る。さらに、女性の「再婚率」は男性よりも低い。子を抱えて離婚し、そのまま再婚しない女性は、男性よりも圧倒的に多いのである。その3分の2が貧困層という事実は、我々の想像を軽く越えてしまう。

 母子世帯のうち、生活保護を受給しているのは14.4%(注3)。この14.4%の背景に、生活保護を受けまいと、もしくは何らかの理由で受けられずに、必死で働いているシングルマザーがどれだけいるだろうか。日本では、女性の平均賃金が男性の7割程度に抑えられている上、子供がいるからと、正規雇用の職を得られないシングルマザーも多い。「賃金、雇用の構造的な女性差別」により、シングルマザーの8割が働いているにもかかわらず、半数は非正規雇用で、平均収入は年間291万円。これは、児童のいる全世帯(658万円)の44%にすぎず、父子世帯(455万円)よりも少ない(注4)。母子世帯の母の「預貯金額」は、実に「50万円未満」が47.7%と最多を占め、将来のことを考える余裕があるとは、とてもいえない状態だ。

「母子家庭だから子供に問題が起きる」のか


 先日、川崎市で起きた「中1男子殺害事件」では、被害者の家庭が「母子世帯」であることがクローズアップされた。著名な作家が、「シングルマザーが彼氏を作るなんて、母親としてどうなの?」という内容のエッセイを発表したのは記憶に新しい。「被害にあった男児がかわいそう」という感情が、いつのまにか「シングルマザー批判」へとすり替わっていく様子は、見ていて気分が悪かった。

 今から15年前、筆者が中学生だった頃にも同じようなことがあった。筆者の中学は「手がつけられない」と言われるほど荒れており、中でも、I君という男子を中心とした不良グループに、学校側は頭を悩ませていた。そんなI君のことが、当時、PTAの会議で話題になったという。そこでは、彼が「母子家庭であり、母親は化粧品のセールスをしており、あまり家にいない」ことが、彼の「素行の悪さ」の原因であるかのような話になったそうだ。

 「あの子は『ボシカテイ』だから問題行動を起こすのだ、心が荒むのだ」。そんな考えが、世間に蔓延していないだろうか。確かに、貧困は世代を越えて連鎖するし、母子家庭には貧困層が多い。だからといって、「母子家庭には貧困層が多いから、その子供は問題行動に巻き込まれやすい(もしくは問題行動を起こす)」というのは「偏見」ではないだろうか。偏見に満ちた眼でみていると、本質は霞んでいく。

 確かに、貧困は連鎖する。内閣府の「親と子の生活意識に関する調査」(平成23年度)を分析した藤原千沙氏(注5)によると、中学3年生のときの暮らし向きが「苦しかった」人ほど、成人後に貧困層となっている割合は高く、最終学歴も低い傾向にある。保護者に聞いた調査では、自身の両親が「仲良くなかった」場合、「口論や争いが耐えなかった」場合、「別居していた」場合、現在の貧困率が高くなるという。両親が幸福な関係にない家庭で育った子供は、将来、貧困層に陥るリスクが高いのだ。当たり前のことだが、ひとり親世帯でもふたり親世帯でも、家庭の状態によって、貧困の連鎖は起きうる。

「家庭の温かさ」に違いはない


 重要なのは、中学3年生の子供に「家庭の雰囲気」を聞いた結果だ。母子家庭、父子家庭かどうかや、貧困層であるかに関係なく、約9割の子供が「家庭はあたたかい雰囲気だ」と回答している。保護者に対して「子供との関係」を尋ねた結果でも、7割強の親が「良い」と回答しており、家族構成や貧困の有無によって、家庭の「温かさ」に違いはないことが示されている。

一方、親子の健康状態を「ひとり親/ふたり親」×「貧困層/非貧困層」の組み合わせで分析した結果では、親の健康状態が「悪い」との回答は貧困層で多く、非貧困層では「良い」とする回答が多かった。ちなみに、子供の健康状態について「悪い」とした割合は、ひとり親かどうか、貧困かどうかによって、それほど大きな差はない。

 ここでも重要なのは、健康状態の悪さは、母子家庭(父子家庭)であるかどうかというより、「貧困状態か否か」に影響を受けるということだ。藤原氏はこれらの分析結果から、学歴の違いや健康状態の良し悪しは、母子世帯(父子世帯)かどうかよりも、結局は「貧困かどうか」との要因で説明できると述べる。


「子供の貧困」解消のための数値目標が必要だ


 「母子家庭の3分の2が貧困層」という事実は確かであり、支援が必要なのは言うまでもない。だが、母子家庭だからといって、「親子の関係まで貧しい」とは言い切れない。貧困層かどうかにかかわらず、約9割の子供は「家庭があたたかい雰囲気」と回答していることからも、「あそこは母子家庭だから云々」というレッテル貼りが、いかに無効であるかが分かるだろう。重要なのは、ひとり親世帯かどうかにかかわらず、子供の貧困をなくすための施策を、速やかに実行に移すことである。

 2014年8月、政府は子どもの貧困対策の「大綱」を閣議決定した。子供の将来が、生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、「必要な環境整備と教育の機会均等を図る」とある。しかし、具体的な数値目標は盛り込まれていない。子供の貧困率を、せめて30年前の10%程度まで下げるとか、2年以内に、貧困世帯を対象とした貸与型の奨学金制度を新設するなど、もう一歩踏み込んだ政策が必要ではないか。現状も奨学金制度は(利子付きがメインとはいえ)あるし、学生などのボランティアが、塾に通えない子供たちのために無料の学習塾を開くなどの試みもある。が、「機会の均等」を目指す試みに必要な資源は膨大で、民間だけでは限界がある。

 政府は「女性の活躍推進」を成長戦略の柱として位置づけ、2020年までに「女性管理職比率を30%に引き上げる」との目標を掲げる。実現可能性はともかく、数値目標があることは心強い。たとえスローガンでも、繰り返しているうちに、現場の意識は徐々に変わっていくからだ。それなのになぜ、子供の貧困については、同じような目標を設定できないのだろう。子供は親を選べない。であれば、貧困層であろうとなかろうと、基本的な教育を受け、きちんとした職業訓練を経て自立できる仕組みを整えることが、国家としての「理想的なあり方」ではないだろうか。

(注1)「女性の貧困と社会的排除」国立社会保障・人口問題研究所
(注2)2015年に『最貧困シングルマザー』として文庫化
(注3)父子世帯の生活保護受給率は8%
(注4)「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」
(注5)岩手大学准教授、現在は法政大学大原社会問題研究所准教授