WEDDGE REPORT
福島、三陸から考える 町づくりの「選択と集中」(下)


Wedge編集部

復興遅れる福島は「選択と集中」のチャンス


*福島、三陸から考える 町づくりの「選択と集中」(上)はこちら

福島第一原発事故による避難指示区域の復興は、三陸に比べさらに2~3年は遅れている印象だ。とくに、住民ですら自宅に帰るのに許可を取らなければいけない帰宅困難区域が町の大半を占める双葉町や大熊町では、がれき撤去も除染もこれからで、3.11のままの光景が残されている。居住制限地域は、除染やインフラ工事が動き始めたため、富岡町や浪江町ではようやく少し変化が起きたというところだ。
3.11
3.11から時が止まったままの帰宅困難区域(福島県双葉町の中心部)
 図のように、浪江、双葉、大熊、富岡の福島第一原子力発電所近傍4町は、住民意向調査で帰還希望が全体の2割未満と、他の市町村に比べ圧倒的に低い。4年間、ほとんど復興の動きなく放置されてきたため、現役世代を中心に避難先での暮らしに根が生え、新たな地で住居を購入するなど踏ん切りをつける人が増えているからだ。大きいのは子どもの存在だ。
福島県の避難指示区域ーー各市町村の人口と住民帰還希望割合。
(注)人口は各市町村発表。一部を除き2015年3月1日現在。住民票の異動を伴わない避難はカウントされていない。帰還希望割合は避難区域の世帯主に対して14年度に実施されたアンケート調査の結果。

 「東京に避難しているうちに標準語を話すようになり、郡山に移ればその方言を使いこなすようになる」(浪江町出身の男性)と言うように、子どもは適応が早いがその分苦労も多く、親は落ち着いた生活をさせてやりたいと願うもの。中学校入学といった節目で転居を決断する例は多い。このまままず除染、その後帰還という政策を一律に進めれば、どの町も人口が大幅に減り、かつ一気に高齢化が進むということになりかねない。各町の人口に帰還希望者の割合をかけ算すれば、1000~3000人規模の町が分散していくつも生まれてしまう。

 合理的に考えれば、広野町、楢葉町に投資を集中させるべきだろう。震災の半年後というもっとも早いタイミングで避難指示が完全に解除された広野町でも、人口の約4割、2000人強しか戻っていない。楢葉町は除染もインフラ整備も終わったが、昨年前半には行われるはずだった避難指示解除は、賠償金の打ち切りに直結することもあっていまだに実行されていない。帰還希望割合は45.7%だから、このままでは広野も楢葉も2000~3000人規模の町になってしまう。

 広野、楢葉は放射線量も低い。隣のいわき市が、避難者の大量流入で、日本全国の地価上昇ベスト10を全て独占するほどスペースがなくなっていることや、両町にまたがる広大なサッカー施設、Jヴィレッジが東京五輪前に返還されることを考えても、広野・楢葉に数万人規模のニュータウンを建設し、浪江~広野6町の帰還希望者に集住を促すことは、教育、医療、商店といった生活インフラを考えても、町の持続可能性を一気に高める。
未撤去のがれきや漁網と除染除去土が混在(浪江町請戸地区)
 帰還希望が2割程度というのは、実は先述の閖上などとそう変わらない。自主再建や転出者が増えているのも同じ。現実から目を逸らして分散投資を行うのではなく、自治体の枠を超えた集住という、これまでどこもできなかった決断をすることができれば、福島の復興は歴史的な一歩となるだろう。

 このような集住プランは、浪江、双葉、大熊、富岡の復興が後回しになることを意味する。昨年11月号でとりあげたが、賠償金の格差が住民間に深刻な軋轢をもたらしているし、双葉郡8町村に震災のずっと以前から合併の機運がありながら全く進まなかった歴史を考えれば、集住は簡単ではない。
建設中の仮説処理施設(浪江町)
 弊誌では4町出身の住民たちと座談会を行い、このようなプランに対してどう思うか率直な意見を聞いた。集まったのは30~40代の現役世代である。

 「バラバラに投資すれば無駄が多く、小さな町ばかりになって未来がない」

 「もうすでに自分たちは避難先で生活も仕事も頑張っている。故郷ではない広野・楢葉へと戻れと言うのなら、何らかのメリットが必要」

 「東電の事故で国に勝手に追い出されたのに、双葉や大熊を除染したから戻れと言われればふざけるな、となる。汚れた便所を掃除したから舐めろというようなもの。放射線量の健康影響については勉強して理解しているが、これは科学ではなく気持ちの問題。でも一方で、1%でも帰還の可能性があるなら帰りたいという気持ちもある」

 「国はこの4年間、主体的に何かを言ったことは一度もない。それが許せない。もう故郷に戻って暮らすことはできないんだろうなと思っている人は多い。でも、まず国が、もう帰れません、申し訳ない、新たな町に住んでほしいと、はっきりと言うべきだ」

 「今戻れるならすぐにでも帰りたい。でも帰れないと言うのならせめて、墓参りくらいは自由にさせてほしい。自分たちの世代が子育てが終わったころには戻れるようにしてもらえないか」
がれきや除染廃棄物の処理が始まったかせう処理施設(富岡町)

それでも始まる
分散投資と誘致合戦


 しかし、そんな福島・浜通りでも分散投資がすでに始まろうとしている。

 復興に向けた目玉として掲げられている、新産業創出を目指す福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想。すでに廃炉モックアップ施設の建設が楢葉町で始まり、放射性物質分析施設が大熊町に決まった。さらに4月7日、高木陽介経済産業副大臣が同構想推進会議で「各町は苦労している。国が責任を持って拠点施設を持ってくる」と、浪江、双葉、大熊、富岡の4町に拠点施設を分散整備する考えを明らかにした。これでは、原発誘致をめぐって、各町が反目しあってきた時代に逆戻りである。
建設中の廃炉モックアップ施設(福島県楢葉町)
 双葉高校をはじめとする双葉郡内の県立高校5校は、2015年4月1日、県立ふたば未来学園高校の開校に伴い、休校となった。名門双葉高校野球部のOBたちは高校の存続を願って、署名運動を続けていたという。「休校の喪失感は大きい」(双高OB)。

 双葉高校の校歌はこんな歌詞で始まるという。

 「楢葉標葉のいにしえの 名も遠きかな大八洲(おおやしま) その東北ここにして天の恵みは満ち足れり」

 双葉の地が、楢葉・標葉(しねは)の2郡に分かれ、この日本を大八州と呼んだのは 思えば遠い昔のこと、という意味だ。平安、鎌倉時代の武将、楢葉氏、標葉氏に由来する2つの「葉」を合わせた造語「双葉」が開校から92年の歴史を経て、卒業生が熱烈な母校愛を抱くほどの一体感に至った。

 現段階では母校の喪失感は強くとも、5校を束ねる存在となったみらい学園はまた新たな母校愛を紡いでいくだろう。広域合併や広域連携に反対する地元感情は、地方に行けば行くほど根強い。しかし、ルーツや文化を残しながら、全体として新たな歴史を築いていくことは不可能ではないはずだ。
浪江町請戸
 自民党は5月に新たな復興プランをまとめ、それを受けて政権が次の5カ年の復興政策を示すと言われている。これまで国は、「地元の意向を尊重」という逃げ口上で、大所高所の方針を示すことを避けてきた。イノベーション・コースト構想に見られるように、利権誘導で個別最適に陥りやすい個々の市町村に寄り添うだけでは、人口減少時代の全体最適はない。一見住民感情に反することであっても踏み込んで道を提示するのが政治のリーダーシップだ。具体的には、賠償金の打ち切りと広域連携への誘導を示すことだ。

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