西修(駒沢大学名誉教授)

国会上に「女神像」の構図


 昭和21年11月3日、東京都交通局が「日本国憲法公布記念」として発行した電車往復乗車券(金80銭)には、国会議事堂の屋上に「自由の女神像」が据えられている。また翌年5月3日に逓信局が発行した「日本国憲法施行記念」の切手シートには、1円と50銭切手の下に、憲法前文の抜粋が英文と日本文で掲示されているが、英文に全体のスペースの約3分の2が割かれている。

昭和22年5月3日に発行された「日本国憲法施行記念」切手
 いったい、どこの国の憲法を「記念」したのだろうか。これらの記念発行物に対しても、連合国軍総司令部(GHQ)の関与があったのだろうか。押しつけがましく、侮辱感すら抱かせる構図になっている。

 本日は、日本国憲法公布から68年の記念日を迎える。日本国民の手からなる日本国憲法を作り直そうという声が上がってから、何十年も経過している。内閣に創設された憲法調査会が『報告書』を発表したのは、昭和39年7月のことである。衆参両議院に設けられた憲法調査会がそれぞれの『報告書』を公にしたのは、平成17年4月のことだ。その後、19年8月には衆参両院に憲法審査会が設置され、すでに7年以上がたっている。そして今年6月20日、改正国民投票法が施行された。憲法改正の手続きは整ったのである。

 本来ならば、各党から憲法改正に付すべき項目が提出され、審議されていなければならない時期である。しかしながら、そのような動きはいっこうに見られない。

 衆院憲法審査会では、今月17日に岩手県盛岡市で公聴会が予定されている。公聴会で広く意見を聴取すること自体は否定されるべきでないが、憲法調査会時代から、何度行われてきたことか。参院憲法審査会でも議論が行われているが、堂々めぐりを繰り返しているだけで、具体的な進展は全く見られない。荏苒(じんぜん)、時を過ごしているように感じられてならない。

 憲法審査会は、日本国憲法について調査し、憲法原案を審査する機関と位置づけられている。改正国民投票法が施行された時点で、調査から、憲法原案の審査に移行しなければならないはずだ。

まずカード並べなくては


 各党は、できる限り早い時期に、それぞれ国民投票に付すべき原案を提示することが求められる。一部に、環境権、国家緊急事態、財政の健全化に絞るという見解があるようだが、まずは各党から、これぞと思う原案を提示すべきである。

 最初からカードを限定するのではなく、テーブルの上に並べられた多くのカードからいくつかに絞り込むというのが踏まれるべき手続きであろう。

 自民党は、すでに『日本国憲法改正草案』を決定している(平成24年4月27日)。民主党は、17年10月31日に『憲法提言』を発表、環境権や生命倫理などの「新しい権利」の確立、国家緊急権の明示などを盛り込んでいる。

 公明党は、自衛のための実力組織や新しい権利などを加える加憲を唱えている。維新の党は、憲法改正要件の緩和、道州制の導入などをうたっている。みんなの党と次世代の党は、現在、共同で憲法改正案を作成中であると聞く。これらの党で優に両院の3分の2を超える。

 まずは第1弾として、具体的にどの条項をどう改めようとしているのか、あるいはいかなる条項を加えようとしているのか、衆議を尽くし、国民に提案するという作業にとりかかるべきである。

 現行の憲法改正国民投票法は、改正案ごとに個別に賛否を問う形式になっている。それゆえ、1問ごとにブースを設置しなければならず、あまり多くを問えない。この方式では、憲法を全面的に改正することは不可能である。全面的な改正を可能にするには、現行法を改正して、一括方式が導入される必要がある。

国民の手でつくる責務


 現行憲法の最大の問題点は、日本国民自身の手で作られていないことである。マッカーサーは、日本での連合国軍最高司令官の地位を離任後、1951年5月5日の米上院軍事外交委員会で、「近代文明の成熟度の基準にてらして、われわれが45歳の壮年であるのに対し、日本はまだ12歳の少年のごときである」と証言した。

 憲法については、未熟な日本人に対して、教え諭すという態度だった。その後、68年間で随分と成長したはずだ。成人になった証しとして新憲法を作成すること-それが現代に生きるわれわれ日本国民の責務であるといえよう。

 憲法全体を改めてこそ、日本国民は、真の意味の「日本国憲法」を獲得したといえる。そのためには、改憲勢力が合同して知恵を出し合い、新憲法草案を作成するのが最も望ましい。

 国民投票に付し、一括して「賛成」票を得られるような新憲法の制定作業に入るのが、本来のとるべき方策といえよう。純粋の「日本」を示す「新日本国憲法公布記念」の切手シートの発行を期待したいものだ。

にし・おさむ 早稲田大学大学院博士課程修了。政治学博士、法学博士。現在、駒沢大学名誉教授。専攻は憲法学、比較憲法学。産経新聞「国民の憲法」起草委員。著書に『図説日本国憲法の誕生』(河出書房新社)『現代世界の憲法動向』(成文堂)『憲法改正の論点』(文春新書)など多数。