百地章(日本大学教授)

 憲法改正の発議とその賛否を問う国民投票の時期は来年夏の参院選後であり、安倍晋三首相も同意したとの報道が各紙で伝えられている。情報源は自民党憲法改正推進本部の船田元本部長だが、果たして安倍首相の真意だろうか。

船田発言が勝手に独り歩き


 報道によれば、船田本部長が「参院選後に」と述べ、首相は「それが常識だろう」と答えたとある(朝日、毎日新聞、2月5日付)。が、首相は国会で時期など明言していない旨答えており(2月19日衆院予算委員会)、船田発言が勝手に独り歩きをしている。

参院本会議=2013年12月6日(酒巻俊介撮影)
 船田氏の構想は、次の参院選で3分の2の改憲勢力を確保し、改憲の発議をというものだろう。「早ければ来年秋、遅くとも再来年の春には実現すべく全力を尽くしていきたい」ともいう(産経新聞、2月15日付)。現状では自公両党だけでは3分の2に及ばず、それも分からないことはない。

 しかし昨年秋、船田議員は「次の参院選までに1回目の憲法改正の発議まではやりたいと思います」と述べており(産経新聞、平成26年9月1日付)、明らかに後退である。果たして参院選後で大丈夫だろうか。

 また、次の参院選で3分の2の改憲勢力を確保できる保証は本当にあるのか。それに再来年春には消費増税が控えている。そんな時に国民投票など無謀過ぎないか。

 前回の選挙後、参議院では与野党を合わせて改憲派議員が75%を占めているが(朝日デジタル、25年7月23日)、3分の2を超えたのは憲法制定以来初めてである。決して容易ではなかろうが、自公にこだわらず今与えられているこの最大のチャンスを生かせずして次の展望も開かれまい。安易な先送りは避けるべきだ。

 昨年暮れの総選挙後、安倍首相の積極的な改憲発言が目を引く。首相も改憲論議が盛り上がりを欠いていることは認識しており、もどかしいのではないか。だから2月12日の施政方針演説では「憲法改正に向けた国民的な議論を深めていこうではありませんか」と訴え、「全国に議員が出て行って国民に直接訴えていくことも大切」(2月20日衆院予算委員会)とまで述べているのであろう。

国民投票は参院選に併せて


 筆者は、予(かね)て国政選挙に併せる形で国民投票を行わなければ勝ち目はなかろうと、繰り返してきた。その理由は簡単である。

 護憲派はいかなる改憲にも反対であり、もし国民投票ということになれば、必死に投票に向かうであろう。他方、改憲派の中にはムード的に憲法改正を支持しているだけの国民も少なくないし、いざ国民投票となった場合にどれだけの人々が投票所に足を運んでくれるのか、いささか悲観的である。

 しかし、国政選挙と同時であればその懸念は薄れる。少なくとも国民投票だけ実施した場合と比べて、より多くの改憲派を投票所に向かわせることができよう。逆に単独で国民投票を行った場合、改憲支持の議員とその後援会組織が、果たして全力をあげて憲法改正を訴えてくれるだろうか。

 しかも、テーマ次第では投票率が懸念される。これは住民投票でも同じで、所沢市の「小中学校へのエアコン設置の是非」をめぐる投票では、比較的身近な問題であったにもかかわらず、投票率はわずか32%にとどまっていた。

 とすれば、わが国の平和と安全を守るための9条2項の改正や、国家的な緊急事態対処規定などであればともかく、環境権や財政均衡条項のために改憲支持の国民がどれだけ投票に向かうだろうか。なぜなら、こんなテーマでは、是が非でも憲法改正を、との意欲も情熱も湧いてこないからである。

 また、国民投票には約850億円の経費がかかるというが、国政選挙と一緒となれば無駄が省ける。事務の煩雑さも衆参同日選挙や首長選挙と同時のケースなどを考えれば、心配には及ぶまい。

沖縄の人々に改正権の行使を


 もう一つ、改憲を急ぐ理由は沖縄県の人々のことである。

 2月11日、那覇市で行われた建国記念の日の講演に招かれ、地元選出の衆院議員、宮崎政久氏とお話をする機会があった。その時、言われたのは「沖縄県民は、現行憲法の制定に関わっていない」ということであった。

 確かに憲法制定当時、沖縄県はアメリカの施政権下にあり、「この憲法を確定」したはずの「国民」の中に、沖縄県民は含まれていない。とすれば護憲派も言うように「憲法は国民のもの」であり、このままで良いはずがない。

 にもかかわらず、国会が改憲の発議をしなければ、沖縄ばかりか奄美や小笠原の人々は憲法制定に参加できなかっただけでなく、改正権も行使しえないことになる。

 衆参両院憲法審査会の重要な役割の一つが「憲法改正原案」の提出である。衆院審査会ではすでに憲法前文から最高法規まで、参院審査会でも緊急事態、二院制、環境権などの審査を終えており、もはや堂々巡りは許されまい。一日も早い憲法改正原案の国会提出を切望している。

ももち・あきら 京都大学大学院法学研究科修士課程修了。愛媛大学教授を経て現在、日本大学法学部教授。国士舘大学大学院客員教授。専門は憲法学。法学博士。比較憲法学会理事長。産経新聞「国民の憲法」起草委員。著書に『憲法の常識 常識の憲法』『憲法と日本の再生』『外国人の参政権問題Q&A』など。