テロなど重大な組織犯罪を防ぐのに欠かせない「共謀罪」(テロ等謀議罪)を創設する組織犯罪処罰法改正案の今国会成立が危ぶまれている。「共謀罪」の関係法案は2003年以来、廃案や継続審議を繰り返してきた懸案だが、与党内では「野党や世論の反発が強い。参院選に響くから今国会もやめた方がいい」(自民党幹部)とささやかれている。残念ながらこれが、オウム真理教事件での化学兵器使用、イスラム過激派による米中枢同時テロで同胞が犠牲になった国の議会のありさまだ。国民の安全、平和を守ることが、政権や政党の最優先の責務ではないのか。

日本も攻撃対象国

 英国が昨年8月、複数の航空機の爆破をねらったテロリストたちを逮捕したように、各国は相次いでテロリストを摘発し、テロを未然に防いでいる。その多くが、犯罪の実行行為がない段階で摘発できる「共謀罪」を利用したものだ。今後の捜査のため摘発公表を控えた事件も相当数あるといわれる。
 よそ事ではない。日本も油断は禁物だ。警察庁は昨年8月にまとめた「治安再生に向けた7つの重点」で「国際テロの無差別化の傾向は一層顕著」になっていると分析。アルカーイダなどのイスラム過激派が「日本を攻撃対象国の1つと位置付け、日本は深刻な大規模・無差別テロ等の脅威に直面している」と警鐘を鳴らした。08年夏に日本で開催される主要国首脳会議(サミット)についても「テロリストの格好の攻撃対象」と危機感を示した。
 「過去に『アルカーイダ』関係者が不法に入出国を繰り返し、国内に潜伏していた」(06年版警察白書)ことが判明している。テロは対岸の火事ではない。日本は対策を急ぐべきで、現在、イスラム過激派の関心がイラクに集中している貴重な時間を浪費してはいけない。

テロが起きる前に

 「共謀罪」創設は条約上の義務のため、法案が成立しないと日本は、(日本を除く)G8を含む130カ国が結んだ国連の「国際組織犯罪防止条約」を締結できず、他国との情報協力も支障が生じている。他国より備えが不十分だと日本でのテロ誘発の恐れもある。
 「共謀罪」で国民の人権が侵害されると懸念する野党議員や有識者がいるが、テロリストら犯罪者こそ国民の人権を無視し、生命を奪い、社会秩序を乱す。民主国家の治安当局は基本的にそれを防ぐ側のはずだ。過度の懸念でいたずらに備えを遅らせれば、テロリストや犯罪集団はほくそ笑むだけだ。
 自民党がまとめている修正案は、政府案への批判に配慮したものだ。組織的な犯罪集団に属し、具体的な謀議を行い、さらに実行に必要な準備行為を遂行する-などの要件をすべて満たさなければ「共謀罪」によって逮捕も処罰もできない。対象犯罪は(1)テロ(2)薬物(3)銃器(4)密入国・人身売買(5)その他資金犯罪-の5分野で、政府案の600以上から4分の1程度へ絞り込んだ。国内犯罪にも適用する。
 一方、民主党修正案は「国際組織犯罪防止条約」を意識し、対象を「性質上国際的な犯罪」に限った。
 ここが政府与党との大きな対立点だが、被害者の立場から考えても民主党案はテロ対策として消極的すぎないか。
 安倍晋三首相は1月26日、国会の施政方針演説で「(国の)基本的枠組みの多くが、時代の大きな変化についていけなくなっている」と語ったが、治安態勢はその典型だ。安倍首相はじめ政府、与野党は協力して法案を早期に成立させるべきだ。テロが起きてからでは遅すぎる。
(政治部 榊原智)