櫻井よしこ(ジャーナリスト)
 「20万人の強制連行」「性奴隷」「終戦間際の虐殺」など、日本国の濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)と不名誉を晴らしたいと本当に思えば、個人だってここまでできる。そう実感したのが、谷山雄二朗氏が全編、英語で語った作品『スコッツボロガールズ』だった。

 私はこれをDVDで観(み)たが、作品の題名を氏は1931年に米国アラバマ州スコッツボロで起きた事件からとっている。白人女性2人が黒人青年9人に強姦(ごうかん)されたと訴え、8人に死刑判決が下された。証拠は女性の証言のみ、物証はなかった。後に女性の1人が被害話を嘘と認め、被告人らは50年に釈放されたが、全員の無罪確定は事件からなんと七十余年後だった。

 谷山氏は黒人青年らの濡れ衣の苦しみと日本人の慰安婦問題の苦しみに共通性を見いだし映画の題名をつけた。氏は41歳、日本で生まれ豪州、タイで育ち、英語は極めて流暢(りゅうちょう)だ。言論の自由を尊び差別を憎む。氏は少年時代に受けた人種差別の記憶があるからこそ、「今になっても、偽善や、どうみても筋が通らないことに対し、黙っていられないのかも」と語っている。

28日、ワシントンの米連邦議会前で、安倍首相に従軍慰安婦問題での謝罪を要求する人々(共同)
 なぜ人は事実に目をつぶり偏見を抱くのか。氏はこうも訴える。

 「僕がチャレンジする慰安婦問題は(海外では)超アウェーの議論になるでしょう。だって国際社会では今や『慰安婦=セックス奴隷』ですから」。しかし、「もう傍観できない。日本人として反撃キックオフ、それしかない」

 氏は韓国人の言い分を聞くべく、まず、ソウル郊外にある元慰安婦のための施設、ナヌムの家を訪ねる。しかし、そこで摩訶(まか)不思議な体験をする。大阪の在日の人々に阻まれ、門前払いされたのだ。彼らは一体そこで何をし、何を隠そうとしているのか。

 日本大使館正面に設置された慰安婦像前の集会で歌や踊りに熱中する韓国の若者にも氏は問う。金学順氏の「貧しさゆえに14歳で母親に売られた」とのハンギョレ新聞の告白記事を読んだことがあるかと。彼らは読んでいない。金氏は女子挺身隊の名の下に連行されたとの「朝日」の記事を信じているのであろう。

 谷山氏は別の元慰安婦、文玉珠氏の残した貯金通帳の拡大コピーを示し、東条英機首相の月給が800円だったとき、彼女が2年間で2万6145円を貯金したことを明らかにする。ソウルでは1千円で家が買えた時代に26軒分の資産を2年で蓄えた女性を奴隷と呼ぶのは無理だと、これは誰でもわかる。

 こうした情報はすでに大半の日本人が共有する。問題は、しかし、当の韓国をはじめ諸外国の人々が恐らく、ほとんど知らないことだ。だからこそ全情報を英語で発信する谷山氏のように、国際社会にあらゆる面で事実を知らしめる具体策が急がれる。

 1944年10月1日の米軍による慰安婦の調査書や94年1月24日のオランダ政府の調査書は、日本が活用すべき一次資料である。

 ビルマで働いていた朝鮮人慰安婦20人を米軍が実態調査した結果、彼女らは強制連行の犠牲者でも、性奴隷でもなかったことが明確にされている。これも多くの日本人にとっては、いまや常識であっても、アメリカ議会の選良でさえ、知っているのは極めて少数である。

 94年1月24日のオランダ政府の調査報告書は日本人として気の重くなる内容も多いが、詳細な事実関係を踏まえている。

 報告書はインドネシアのスマランの慰安所を「最悪のケース」と断じ、同時に日本軍の上官が、現地の日本軍が女性たちを強制したことを知ると、同慰安所を直ちに閉鎖させたこと、さらに責任者が戦後死刑に処せられたことも明記している。同件は、女性たちへの強制が日本軍の方針ではなかったことを、オランダ政府が逆に証明する結果になっている。

 調査は全体の結論を、200~300人のオランダ系女性が働いていた、内65人は売春を強いられたが、大多数(majority)の女性は強制ではなかったとまとめた。

 スマランの事例は戦時の性犯罪であり、強制連行問題とは明確に分けて考えるべきものだ。ところが、両者を意図的に混同する議論や論点のすり替えがとまらない。

 朝日新聞は吉田清治氏の嘘を認めたうえで、慰安婦問題の「本質」は女性の人権問題だと強弁する。韓国も朝日の論調に同意する。

 ではなぜ、韓国政府は韓国当局が100万人もの女性が売春に身を落としていると発表した自国の現実を正そうとしないのか、なぜ、気の毒な女性たちに救いの手を差しのべないのか。谷山氏のこの問いかけに、私は同感である。

 もうひとつ、私たちが改めてしっかりと見据えるべきことは慰安婦問題をはじめとする歴史問題がおよそいつも日本人によって提起されている点である。どれも火元は日本であり、朝日はそのすべてに関わっている。

 挺身隊と慰安婦を同一の存在として報じた植村隆元記者、南京事件を捏造(ねつぞう)報道した本多勝一氏らの説明責任とともに、一連の問題に日本はなぜ筋立てて反論できなかったのかが、私たちが自問すべき最重要の点であろう。

 谷山氏はドキュメンタリーの最後で、日本にいわれなき非難を浴びせる韓国やアメリカにすさまじい憤りを爆発させている。その憤りこそ、大半の日本国民が、実は国内に向けて抱いている思いであることを、私は実感している。

 政権与党も外務省も含めて私たちの国は、一体どこで、なぜ、何を、間違えたのか。その失敗を認識して、初めて、有効な反撃作戦が可能になると思う。

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