憲法改正手続きのための国民投票法案に、ようやく関心が集まっている。安倍晋三首相は11日、憲法記念日までの成立にはこだわらない方針へ軌道修正したが、今国会の会期(6月23日)内に成立させる決意は固い。これに対し、小沢一郎代表が率いる民主党は、責任政党として賛成するのか、護憲派に配慮して党内の意見集約を避けて反対するかの岐路に立っている。一方、民主党などの要求を容れた与党修正案は、憲法改正阻止の法案になりかねないとの指摘がある。この懸念に気づき、どこまで払拭(ふっしょく)できるか-自民党総裁である安倍首相の力量も試されている。

岐路に立つ民主党

 国民投票法案は、与党案と民主党案の2本が昨年5月、国会にそれぞれ提出され、衆院憲法調査特別委員会を舞台に一本化(共同修正)が試みられてきた。与党と民主党は昨年12月に歩み寄り、主な相違点は、国民投票の対象を憲法改正に限る(与党案)か、国政の重要案件も含む(=一般的国民投票。民主党案)かに絞られてはいる。
 一般的国民投票は「広く国政の重要案件について法整備の大きな方向性を(法律制定の)事前に、国民の意思を問う」(園田康博民主党理事)もので、諮問的性格を持つとされる。
 しかし、郵政民営化の是非を問う国民投票の様相を呈した一昨年の衆院解散の結果に、郵政民営化法案を否決した参議院が「屈服」したように、一般的国民投票は事実上の拘束力を持ち、立法過程を決定的に左右するだろう。
 一般的国民投票は、国会を「国の唯一の立法機関」と定める憲法41条に反し、衆院解散によって国民に信を問う内閣の解散権(憲法7条など)を損なうものだ。現憲法が採用する間接民主制、代議政体を変質させる一般的国民投票は憲法改正で論議すればいい。もっとも、このような直接民主制的仕組みはよほど慎重に制度設計しなければ、衆愚政治に堕したり、独裁政治に道を開く危険がある。
 自民党には「民主党は政局(政争)の観点から与党が呑(の)めない要求をしている」との不満があるが、改憲派の民主党幹部からさえ「小沢代表に(どうするか)聞いてほしい。国民投票法案反対では党内はまとまらない。反対すれば、郵政民営化法案に反対して衆院選で負けた二の舞になる」との声が出ている。

改憲阻止法化の懸念

 一方、ここへきて、与党修正案にも問題点を指摘する声が有識者や自民党議員から出始めている。憲法改正陣営の有力な論客である日本大学の百地(ももち)章教授は8日付の産経新聞「正論」で「このままでは、この法案は『憲法改正阻止法』となりかねない」と指摘した。
 たとえば、政治的中立性が求められる公務員や教育者の地位利用による国民投票運動に罰則がない点が、自治労や日教組などが組織的反対運動を招く恐れがある。また、テレビ各社に「捏造(ねつぞう)」番組が相次いでいるが、キャンペーン的な偏向報道・番組を防ぐ歯止めがまるでないため「テレビについては『公平・中立な報道』に努めるよう一定の規制」の必要性を訴えた。同様の問題意識をもつ自民党などの有志国会議員は13日、会合を開いて検討に乗り出している。
 ただ、悲願の国民投票法制定に努力してきた与党関係者は修正案での成立を目指している。法案成立の見通しの中で、指摘される懸念にどう対応するか、安倍首相と自民党の政治的英知の発揮が望まれる。
(政治部 榊原智)