金融政策の目的を勘違いした日銀批判は論外だ

高橋洋一(嘉悦大学教授)

金融政策の究極の目的は雇用にある


 今年4月10日、テレビ朝日の『報道ステーション』(2014年11月24日放送)が「アベノミクスの効果が大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく断定する内容」として、「公平中立」な番組作成を自民党に要請されたと報じられた。公平中立な番組作成が可能かどうかはともかく、アベノミクスや日銀の金融政策をめぐる報道には首をかしげることが多い。

 たとえば2015年4月8日、黒田東彦・日銀総裁は金融政策決定会合の場で金融政策の現状維持を決定し、記者会見を開いた。企業については「前向きな投資スタンスを維持している」、個人消費は「全体として底堅く推移」と述べた。景気は「緩やかな回復基調を続けている」。輸出は「先行きも緩やかに増加」と語った。

 加えて、日本では雇用が改善している。就業者数の推移(図1)を見ると、黒田日銀による「異次元緩和」を境に、就業者数が明らかに増加している。直近の2015年2月の就業者数は6322万人であり、対前年同月比で39万人増。3カ月連続の増加である(総務省統計局調べ)。雇用は、日本では金融政策の目標になっていないが、それを改善させたのは実質的には日銀である。なお、マネーストックと失業率は逆相関関係にあり、マネーストックが上がれば失業率が下がる。1970年以降のデータを見ると、マネーストックと失業率のあいだには高い逆相関が見られる(図2)。そして雇用が回復すれば、人手不足になっていずれ賃金が上がりだし、本格的な景気になる。

 リーマン・ショックの翌年、2009年7月で5.7%にまで上昇していた日本の失業率は、直近の2015年2月には3.5%まで回復した。

 雇用の改善は右派であろうと左派であろうと、等しく歓迎すべきことである。失業のない社会を望むのは経済学の目標だ。したがって、黒田総裁が「2年程度を念頭に、できるだけ早期に物価安定目標を実現する方針に変化はない」と述べたのも当然である。

 ところが、左派マスコミは金融政策にともなう雇用の改善についていっさい報じなかった。4月4日付の『朝日新聞』『毎日新聞』『東京新聞』は軒並み、日銀が2年きっかりで2%のインフレ目標を達成しなかったことを批判した。『朝日』は「遠い 物価上昇2%」という見出しで次のように書いている。

 消費者物価の上昇率は14年春、1%台前半まで上がったが、夏場以降、原油価格が落ち込んだあおりで、直近2月には0%まで鈍っている。2%の達成時期は見通せない状況だ。それでも日銀は「2年程度」や「2%」という目標を変えようとしない。期限を緩めることで、人々が日銀の宣言を信じなくなるのが怖いのだ(『朝日新聞』2015年4月4日付)。

 まず「原油価格が落ち込んだあおりで」と未達成の理由を書いているのに、2%の目標未達は日銀のせいだ、というのが矛盾である。原油価格の低落はべつに日銀の責任ではないからだ。またこの記者は、金融緩和による雇用の改善というプラス要素に触れていない。のみならず、2%未達の真の理由である「消費税増税」というマイナス要素にも触れていない。偏向報道と呼ばれても不思議ではないだろう。

『朝日新聞』はもともと財務省の掲げた消費増税10%に賛同した「御用新聞」の一つであり、8%増税のとき庶民の生活がいくら苦しくなろうと、「増税やむなし」とする記事を載せつづけた新聞である。財務省に迎合する報道を続けてきた手前、金融緩和の効果を認めてしまうと、「人々が朝日の報道を信じなくなるのが怖いのだ」。そして安倍首相を批判したい一心で、雇用の改善というプラス面を伏せた。しかし、結果として「何のために経済政策をするのか」という根本を見失っている。本末転倒である。

 金融政策の究極の目的は雇用にある。私が小泉内閣で竹中平蔵・経済財政政策担当大臣の補佐官や第一次安倍内閣で内閣参事官を務めたとき、まず注目したのが雇用関連の統計だった。就業者数が良好であれば、それだけで経済政策は60~70点、及第点を付けることができる。

 またヨーロッパの左派政党の政策を見ると、雇用が最も大きな柱であることがわかる。欧州社会党(Party of European Socialists、PES)や欧州左翼党(Party of the European Left、EUL)はいずれも雇用確保のための金融政策の重要性を訴え、欧州中央銀行(ECB)にインフレ目標政策を働きかけてきた。つまり、インフレ目標政策は左派の政策といってよい。ところが、日ごろ「格差の拡大」「弱肉強食」を批判する日本の左派マスコミだけが、日銀の金融政策にかみついているのはトンチンカンな光景である。