阿比留瑠比(産経新聞政治部編集委員)

 政府が北朝鮮制裁措置の2年間延長を閣議決定した3月31日、先週に拉致問題に関する働きかけのため訪米した古屋圭司前拉致問題担当相に、議員外交の成果について聞いた。今回は安倍晋三首相にも事前に相談して賛同を得た上での訪米だったとのことで、十分な手応えを感じたという。

多角度から対策


 「米議員らは『ナイス・アイデア』と言っていた」

 こう語る古屋氏は、マイク・リー上院議員ら4人の上下両院議員に会い、協力を要請した。内容は中国で北朝鮮に拉致された可能性が高いスネドン氏について、米議会で調査徹底や問題解決を求める決議を採択することが1点目だ。その際、決議文で日本の拉致被害者に関しても言及してもらう。古屋氏は指摘した。

 「米国は、自国民が拉致されたとなれば、世論がどっと動く。自国民救出のためなら、軍隊の使用も辞さない国だ」

 次に、2008年のブッシュ大統領時代に米国が解除した北朝鮮へのテロ支援国家指定の再指定である。指定解除は、これを主導した当時のヒル国務次官補も後に「失敗だった」と認めている愚策であり、議会側から米政府に強く働きかけるよう求めたのだ。

 この2点が実現すれば、北朝鮮に対する大きな圧力となり、日本の拉致問題が動くきっかけにもテコにもなり得るだろう。

北朝鮮からマツタケを不正輸入した疑いで、家宅捜索のため朝鮮総連の許宗萬議長の自宅に向かう捜査員=3月26日
 折しも安倍政権は先月、警察当局が1年以上前から内偵していた密輸事件をめぐり、朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長、南昇祐(ナム・スンウ)副議長の自宅などの家宅捜索にゴーサインを出した。こうしたさまざまな角度からのアプローチが、拉致問題解決につながることを期待する。

レッテル覚悟で


 思えば日本政府もメディアも、平成14年9月の小泉純一郎首相(当時)による初訪朝以前は北朝鮮に対して過剰に配慮し、腰が引けていた。最近メディアにたびたび登場する表現を使えば「萎縮」していた。

 朝日新聞に至っては、小泉氏の初訪朝当日である9月17日付朝刊の1面でも、写真説明に「拉致問題解決を訴える行方不明者の家族たち」と書いた。「拉致被害者」とストレートに記さずに、わざわざ北朝鮮が好む「行方不明者」という言葉を用いる萎縮ぶりだ。

 もっとも、報道が萎縮するという懸念については、数年前にも聞いたことがある。20年1月に民間シンクタンク、国家基本問題研究所が初記者会見を開いた際のことだ。フリージャーナリストの男性が、こんな質問をした。

 「小泉訪朝は日本の空気を大きく変えた。北朝鮮に融和的なことを言うと『反日』とレッテルを貼られるリスクも出てきた。私の知人にも萎縮して本心が言えないという人がいる」

 これに対し、研究所企画委員の西岡力・拉致被害者を救う会会長はこう言い切った。

 「小泉訪朝前は、拉致問題について書くと身の危険があった。私は脅迫状も脅迫電話ももらった。しかし、言論活動をしていればレッテルを貼られるぐらい当然だ。それぐらいの覚悟がなければ、言論活動をしなければいい」

 自身にその覚悟があるだろうかと自問しながらメモを取ったのを覚えている。被害者家族や西岡氏らが萎縮せずに活動を続けたからこそ、拉致問題が日本社会で重視されるようになったのである。今萎縮しなければならないとすれば、報道関係者ではなく北朝鮮だろう。