競売された在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の中央本部ビルが、落札した不動産業者から別の業者に転売されたことで、朝鮮総連はそのまま入居し続ける見通しとなった。

 日本政府は表向き、競売や転売への関与を完全に否定して無関心を装っているが、実は拉致被害者らの救出を目指す日朝協議を通じて北朝鮮から継続使用を強く要求され、対処に困っていた。朝鮮総連が中央本部ビルを継続使用できるようになることで、拉致問題交渉のカードに使えるという期待が出てくる。ただ、税金を投じた不良債権問題で競売が行われた本部ビルに朝鮮総連が入居し続けることに、国民の理解は得られそうもない。政府が無関心を装うのは、こうした事情があるのだ。

完全否定で国民批判回避


東京都千代田区にある在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビル(蔵賢斗撮影)
 本部ビルは平成26年3月、約22億円で高松市の不動産業「マルナカホールディングス」が落札した。それが今年に入り、山形県酒田市の不動産会社「グリーンフォーリスト」に約44億円で転売する契約が1月28日付で結ばれた。今回の契約には、四国で不動産業を営み、マルナカの前社長とも親しい山内俊夫元参院議員が仲介した。自民党に所属していた元政治家が介在したことから、政府関与の見方が浮上した。

 菅義偉官房長官は、転売の話が明らかになった1月23日の記者会見で、こうした見方を払拭するかのように、本部ビルをめぐる動きについて「裁判所による競売手続きを経て、マルナカホールディングスに移転した。後は民間のことだから、それ以降について政府として承知していない」と関与を否定した。外務省や情報機関関係者も異口同音に否定している。

 政府が否定に躍起になるのには理由がある。

 競売問題は、破綻処理で多額の公的資金が投じられた在日朝鮮人系信用組合の不良債権問題が根底にある。競売は朝鮮総連に対する約627億円の債権を引き継いだ整理回収機構が申し立てたもので、政府が朝鮮総連の継続使用に少しでも手助けしたことが発覚すれば国民の反発を招くのは避けられない。

 競売問題は、野田佳彦政権が拉致問題解決に向けた日朝協議を進めるため、競売回避をめぐり朝鮮総連と秘密裏に協議したことがある。しかし、24年12月の衆院選で民主党は敗北、政権は安倍晋三政権になったことで白紙に戻っていた。

継続使用の賛否交錯


 結局、日本政府の関与の有無とは無関係に朝鮮総連が本部ビルを継続使用することで、北朝鮮が訴え続けてきた要求は実現したことになる。

 日朝協議は、「夏の終わりから秋の初め」で合意していた昨年の初回報告がほごにされ、遅々として進展せず、北朝鮮が交渉を打ち切る可能性も否定できない状況に陥っていた。日本政府は、あくまで「民間の取り引き」によってでも朝鮮総連が本部ビルを継続使用できることで新たな交渉の糸口を探ることもできると踏んでいる。

 一方、日本政府内には継続使用について「朝鮮総連の既得権益が単に維持されただけで、北朝鮮が新たな利益を得ることにはならない」(関係者)として、拉致問題にプラス材料にはならないとする分析もある。

 また、債務者や、債務者をバックにした業者が競売物件を買い戻す行為は「その資力があれば弁済に充てるべきだ」として民事執行法で禁じられている。しかし、落札後に転売された同一物件を継続して使用することを想定した規定はなく、継続使用は、いわば法律の抜け穴をつく「脱法ケース」だったといえる。

 政府内には「血税を使った不良債権問題で、債務者が立ち退かずに入居し続けることに国民の理解が得られるはずもない」(政府高官)との意見もある。

 いずれにせよ、朝鮮総連が本部ビルに居座ることができることになったことで、日本政府は拉致問題を前進させるしかない。(政治部 比護義則)