大阪にはまったく縁がない。住んだこともないし、あまり知人もいない。わずかに先祖の誰かがいたぐらいだ。いや、正確にいえばここ数年、しばしば縁をもらっているといえるかもしれない。例えばTwitterやブログで橋下徹大阪市長の発言をとりあげるたびに、匿名の人を中心に猛烈な批判を僕自身が浴びることがある。橋下市長のそれこそ箸の上げ下げにも文句をいうレベルでだ。先日もtwitterで特別区構想にともなう各特別区の長期財政推計(粗い試算)について触れたら、まったく関係ない文脈で長々と「批判」をうけた。客観的な分析よりもどうも感情的な嫌悪感や、イメージだけの「新自由主義批判」や「民主主義を否定する独裁者」みたいなものが、いままで僕個人レベルがうけてきた「批判」だった。似たような反応は安倍晋三首相に対してもあり、このふたりは何かネットの匿名子を中心に感情的反発を招くアイコンだといえよう。

大阪市役所の掲示板に貼り出された「大阪都構想」住民投票の日程を記した告示文書=4月27日(寺口純平撮影)

「政策の割り当て」


 さて大阪市の「特別区設置住民投票」について簡単に私見を述べたい。この住民投票は、政令指定都市である大阪市を5つの特別区に再編成することを認めるか否かを問うものである。経済学ではしばしば「政策の割り当て」という観点が重要である。政策の目的がきちんと定義され、その目的に適合した政策手段が採用されているかどうか、それが経済政策を考えるうえでは基本中の基本といえるものだ。

 今回の住民投票を考えるときもまずこの「政策の割り当て」の観点を採用することが必要だろう。「特別区設置協定書」やその解説パンフレットをみると、特に経済的な側面では、政策目的は「二重行政の解消」に絞られる。そしてその目的を実現する手段が特別区の設置(同時に大阪市の解体)ということになる。

 「二重行政」の弊害は、成長分野の産業政策、港湾、モノレール、地下鉄・バス、病院、卸売市場等の分野で、市と府との行政が重なってしまうことの経済的な損失として評価されている。確かに広域に及ぶ行政サービスは府に移管し、そしてより身近なサービスは特別区が割り当てて行うことは経済的な効率性に資する。しばしば「効率性」を単なるムダの削減や、サービスの低下のように誤解するむきが多い。しかし経済的な効率性とは、消費者(ここでは市民)の厚生を増すことで実現される。先の政策の割り当ての観点からいっても、府と特別区の職務の割り当ては経済的効率性(市民の厚生増加)にかなっている。

 例えば仮に、この府と特別区による「二重行政」の解消で、大阪市民(特別区が実施される段階では旧市民になるが)が従来よりも行政サービスが劣ると考えるならば、そのときの特別区の区長または大阪府知事に選挙でノーをつきつければいい。ちなみに現在の大阪市は特別区になっても従来のサービスの低下はない、と保証している。もちろん橋下批判の定番では、全般的な行政サービスの低下が起きるのはほとんど確定しているらしい。でも、それはあまりに一方的すぎるように思える。

「改革手法」


 政策割り当てに続く二つ目のポイントは、改革をビックバン型ですすめるか、それとも漸進的改革ですすめるかである。今回の住民投票は明らかに前者のビックバン型改革だろう。旧来の既得権益を一気に変更しようという政策だ。当然に抵抗も多いだろう。他方で、漸進的改革というのは、旧来の既得権益と妥協しながら、全体のパイを拡大する中で次第にその既得権益の変更を行うことである。例えば大阪市の経済的状況が改善する中で、職員の削減や地下鉄の民営化などを行う。職員は削減されても経済状況が良くなっていれば再就職もスムーズにいく可能性が大きい。地下鉄の民営化も運営が楽になるかもしれない。もちろん他方で漸進的改革は、既存の既得権益が維持されやすいので、改革そのものが途中でとん挫しやすい。ただ従来の体制からの連続性があるので、市民の多くは改革の過程やその帰結をイメージしやすいだろう。ちなみにいまの大阪市の経済状況、例えば雇用状況をみてみると、有効求人倍率などここ2年ほどで大幅に改善している。ただしこれは大阪市の力というよりも、アベノミクスの成果を反映してのものである。

 他方でビックバン型改革は、改革初期において鋭く従来の既得権益と対立する。そのため改革する側は、さまざまな過激な抵抗をうけやすい。また旧来の体制がまったく変化することで、市民にとっては改革過程やその結果を予測することが難しいという問題もあるだろう。ただし改革に要する時間の節約という最大の成果を得ることができるのがこの種の改革手法のよさだ。漸進的改革もビックバン型改革もいいところも悪いところもある。いずれの改革手法を選ぶかは、市民の側の「選好」(政治的好み)に大きく依存してしまう。

 政策の割り当て的には、府と特別区が「二重行政」を解消することは経済的効率性の観点から肯定できる。ただ手法がビックバン型改革であるため、住民の改革イメージに歪みが生じたり、または手厳しい反対をうける可能性がある。それが投票の賛否に大きな影響を及ぼすのではないだろうか。