安倍晋三首相は大型連休中の外遊先の米国で慰安婦問題への「謝罪」を行い、支持層の一部に失望感を与えた。憲法改正問題をめぐっても、外遊中の記者会見で自民党新憲法草案の見直しを考えていないことを表明した。これが改憲派の中で微妙な波紋を広げそうだ。

改訂版求める声

 安倍首相は2日、外遊最後の行事としてエジプト・カイロで記者会見し、「自民党の新憲法草案を基本に与党、全党で国民的な議論をしていきたい。第2次案の作成はまったく考えていない」と述べた。
 自民党が立党50年の2005年に公表した新憲法草案は、主要政党が条文の形でまとめた唯一の現憲法の改正案だ。
 この作成に当たった党新憲法起草委員会のトップは森喜朗元首相で、与謝野馨政調会長(当時)や舛添要一事務局次長(同)が作業の中心役だった。新憲法草案は、安全保障小委員会(委員長・福田康夫元官房長官)が提案した自衛軍創設や集団的自衛権の行使容認を盛り込むなど画期的な面がある。
 だが、保守色が強かったとはいえない小泉政権下の産物として「自民党らしさ」「保守らしさ」を抑えた面がある。とりまとめを急ぐあまり、安全保障や天皇、国会、国民の権利義務などの分野で議論が生煮えとなってもいる。
 安倍首相は当時、前文小委員会(委員長・中曽根康弘元首相)の委員長代理として、中曽根氏とともに日本の歴史、伝統、文化をうたった前文案をまとめた。しかし、小泉首相らが大幅修正し、新憲法草案の前文は無味乾燥な「法規集のようなもの」(中曽根氏)になった。
 これには、国会での憲法改正案の発議に必要な「3分の2以上」の勢力形成を目指し、「9条のほかは公明党、民主党が拒否反応を示す要素はなるべく抑えたい」(起草委幹部)との自公民協調重視の思惑があった。
 これに対し、中曽根康弘元首相や、自民党議員、民間の改憲団体の関係者の中には、バージョンアップ(=改訂版、2次草案の策定)を求める声がくすぶっていた。

改正内容が問題

 これらのいきさつや、安倍首相が新憲法草案全体の策定に深く関わったわけではないことから、安倍総裁の誕生で、新憲法草案が見直されるかどうか、注目されていた。だが、中川秀直幹事長や中川昭一政調会長が時折、見直しに言及するものの、自民党の論議は行われていない。昨秋、党憲法調査会が格上げされ党憲法審議会となったが、憲法審議会長は空席で開店休業状態だ。
 改憲派の民間憲法臨調の3日の集会では、ジャーナリストの櫻井よしこ氏や遠藤浩一拓大教授らが「憲法改正自体が目標ではなく、改正内容を注視、監視していきたい」(櫻井氏)、「改正の名に値する改正が肝心だ」(遠藤氏)と強調した。安倍自民党が「保守らしさ」を早々に放棄する道を歩むことを懸念しているかのようだ。
 また、首相に近い古屋圭司自民党衆院議員が座長となった超党派の保守系国会議員の「新憲法制定促進委員会準備会」は2日、前文で「歴史や伝統的価値観など国柄を明らかにする」とした新憲法大綱案をまとめた。準備会の自民党議員らが、新憲法草案よりも保守らしい案を志向していることは明らかだ。
 安倍首相は2日の会見で「これ(新憲法草案)こそが変えていく方向で、よく『どうしようとしているんだ』と聞かれるが、すでに私は示している」とも述べた。
 首相は憲法改正を争点の1つとする参院選を、今の新憲法草案を掲げて戦うつもりのようだ。2次案を作らないという2日の発言が本心なのか、参院選前の新憲法草案をめぐる党内論争を避ける選挙戦術なのか、知りたいところだ。
(政治部 榊原智)