川村二郎(元朝日新聞編集委員)

 朝日新聞社の社長、重役が代わり、新体制になった。新体制の評判はどうだろうと思っていると、親しい編集委員から、

 「最近、社内ではやっているナゾかけがあるんですけど、ご存知ですか」

と、メールがきた。

 こういうナゾかけだそうである。

 朝日の新体制とかけて、何と解く?

 ロシアの人形、マトリョーシカと解く。

 そのココロは?

 形が同じで、どんどん小粒になっていく。


 作者は不明らしいが、

 「作者に座ぶとん一枚」

と、返信した。

 別の編集委員からは、

「会社の社長が代わって再建、再生するときは、新しい社長が自分の方針をまず明らかにして、それから社員に意見を求めるのがふつうです。ところが朝日新聞は、そうではない。社長が自分の考えははっきりさせないまま、社員に意見を求めようとする。社員としては、社長の考えがわからないまま意見を言えと言われても、困るわけですよ」

 と、メールがきた。

 こういうところがいかにも朝日新聞社的だと、私は思う。

 自分の考えを言えば、その考え方が正しかったかどうか、結果はいずれ明らかになる。結果が出れば、責任を問われる恐れがある。朝日で偉くなる人は、責任を問われることを何よりもいやがる。責任を問われれば、出世に響くからだろう。自分の考えを言うことは、いわば“地雷原”に足を踏み入れることになる。君子、危うきに近寄らずとばかり、口をつぐむわけである。

 その結果、編集の現場からカンカンガクガクの議論が消えて活気がなくなり、紙面が面白くなくなったことは、すでに本誌に繰り返し書いた通りである。朝日で出世したければ、沈黙こそが金なのである。

 そういえば、渡辺雅隆新社長は就任直後の記者会見ではほとんどの質問に、

 「(批判は)重く受け止めます」

 と答えてすませたが、この答え方は判断を迫られた時の最も無難で重宝な、したがって見方によってはズルイ答えである。場合によっては、言論人としての資格を問われることである。

メルケル来社に大喜び…


 経済部の記者は、

 「社長が中堅記者を10人ずつ2回に分けて集めて、話を聞く会をするそうです。どうせ、『私は社員諸君の意見を聞いていますよ』という、アリバイ作りのセレモニーのような気がしますけどね」

と言ってきた。

 彼が「アリバイ作りのセレモニーではないか」というのは、無理もないことだった。新体制がスタートした昨年十二月から、販売店に社長や重役が出向き、読者の声を聞く集まりをした。新聞の業界紙はその模様を報じていたが、それを読むと、わざとらしい写真がついていて、「読者の声には真摯に耳を傾けますよ」という、アリバイ作りといって悪ければ、“お芝居”という感じが強かった。中堅記者の声を聞くというのも、その延長線にあるのだろうと、カンのいい記者なら誰しも思うことだろう。

 かと思うと、あるベテラン記者は、

 「朝日新聞丸という船に乗っている私たち乗組員は、氷山に衝突寸前のタイタニック号に乗っているようでビクビクしているのですが、朝日丸の船長以下高級船員は、デッキでパーティーをやってます。現実を見るのは怖いので、現実は見ないようにしているのでしょう」

と、メールをくれた。

 これには解説が必要かもしれない。

 デッキでパーティーとは、7年ぶりに訪日したドイツのメルケル首相が朝日新聞社を訪問したことを指すと思われる。高級船員たちは恐らく、

 「メルケル首相はうちには来ても、読売にはゆかない。ドイツの首相は、日本を代表する新聞は朝日だと思っているんだよ」

と自画自賛し、悦に入ったことだろう。ハシャグ姿が目に浮かぶようである。

 実際、メルケル首相の朝日訪問を取材した週刊誌の知り合いの記者は、

 「メルケル首相の案内役を務めた編集担当の西村陽一・取締役は得意満面、喜色満面でしたよ。西村さんは人前で笑顔を見せない人かと思っていましたけど、笑うこともあるんですね」

と言っていた。