「文官が自衛官を統制」がシビリアン・コントロール?


潮匡人(評論家・拓殖大学客員教授)

古舘、古賀の空虚な批判


 政府は3月6日、いわゆる文官統制の廃止を閣議決定した。“背広組”の文官(防衛官僚)と“制服組”の自衛官が、共に対等の立場で防衛大臣を補佐できるよう防衛省設置法を改正する。政府与党は「切れ目のない安全保障法制」についても協議を重ねているが、両者は別次元であり、閣議決定のプロセスも別途進んできた。だが、護憲派マスコミはお構いなし。今も十把一からげに報じている。このため論点が「文官統制の廃止」以外に拡散するが、予めご了承いただきたい。

 先月号の本誌「正論」で、ISIL(「イスラム国」)による邦人殺害を論じた(「敵はISより安倍政権!?」4月号)。先月に続き今回も「報道ステーション」(テレビ朝日系)にスタジオ生出演した古賀茂明(元経産官僚)には驚愕した(敬称略・以下同)。前回同様、中身はスカスカ。内容は幼稚、表現も拙い。期せずして同じ番組の、同一人物による、同趣旨のコメントを俎上に載せるが、目の敵にしているわけではない。彼に会ったこともないし、特段の興味もない。

 番組では、いわゆる文官統制の廃止が閣議決定された3月6日の夜、古舘伊知郎キャスターが「武力攻撃事態法」と大書された立て看板風のフリップを指さしながら「こういう局面にならないと、この『武力攻撃』はできないんだという縛りがある」と解説(?)した。ここからして間違い。

 法律の正式名称は「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。その名のとおり「この法律は(中略)我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする」(第1条)。善かれ悪しかれ「縛り」を定めた法律ではない(それは自衛隊法等)。「この『武力攻撃』はできないんだという縛り」云々も間違い。なぜならこの法律の「武力攻撃」とは「我が国に対する外部からの武力攻撃をいう」からである(第2条)。外部ではなく自衛隊のことが言いたいなら「武力行使」と表現せねばならない。

 古舘キャスターは続けて「周辺事態法」と大書されたフリップを指さし「これは朝鮮有事の際を見据えて、周辺であることが起きた場合に、ここまでは武力行使はできませんよという縛りがやはりあった。今後どう変わるのか。この2点に絞って今日は考えてみます」と番組を導いた。これも間違い。右同様、名実とも「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」であり「縛り」を定めたものではない。第2条で「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」と明記しており「ここまでは武力行使はできませんよ」という法律でもない。

 番組は「文官統制」廃止の閣議決定を取り上げ、古舘キャスターがこう導いた。

 「というように、これ以外も色々あるわけですけど、色々な項目や色々な文言がドンドン動いてきているわけですね。古賀さんは全体を見渡してらして、どんなご意見をお持ちですか」――以上のとおり、同日閣議決定された「文官統制廃止」と関係ない法律を取り上げ、事実と異なる解説を加えたあげく「全体を見渡して」いるらしい古賀茂明に論評を委ねたのである。案の定、古賀は「文官統制」に一言も触れることなく、こう安倍政権を揶揄した。

 「そうですね、安倍政権が始まってからですね。国家安全保障会議というのが出来ましたよね。それから特定秘密保護法っていうのが出来、それから武器輸出がほぼ全面解禁に近い形で解禁して、いまODAでも軍関係に使えるようにしようとかですね、ドンドンこう進んで、いま本丸の集団的自衛権の議論を細かく始めてるという感じなんですけど、なんか一個一個出てくるんですね。それぞれが非常に難しくて、言葉の定義の話になってきますね。常に。『なんかよく分かんないな』って思う人が多いと思うんですよ」

繰り返された「I am not Abe」


 よく分かっていないのは、古賀自身であろう。相変わらず、表現も拙い。

 「そこが、実はその、なんでしょう、もう変わっちゃってるんじゃないかっていう、日本っていう国が。そういう話があって、実はある総理経験者の奥様が(略)ある大使館の大使の奥様と話をしてて『日本はとってもいい国だったのにね』という会話があるらしいんですよ」と反証困難な「らしい話」を始め、前回同様こう「安倍責任論」を開陳した。


 アメリはテロに慣れている、日本は一番危ない国等々、看過できない暴言である。「そういう話をたくさん聞く」というが、事実なら友人関係や情報源を見直したほうがよい。ISIL対応を含め、安倍政権の外交・安全保障政策は世界中から支持ないし理解されている。例外はISILその他のテロ集団や一部の周辺諸国だけである。

 しかし、古賀は2月12日の施政方針演説を論拠(?)に、こう独断と偏見を続けた。

 「明治時代に富国強兵、殖産興業で欧米を見てですね(略)『あの時代は素晴らしかった。あの時代を思い出そうよ』というのが安倍さんの呼びかけなのかな、という風に理解したんです」「安倍さんは『そういう大国の中に日本も入れてくれ』ということをやりたいのかなっていうふうに見えちゃうんですね。でもそういう風に考えると、たしかに今やっていることは全部必要だよねと」――もはや妄想を通り越した病気である。

 「まあ、またこういうことを言うと、なんか官邸とか、そういうところから色々怒られちゃたりして、ご迷惑がかかったりすると思うんですけど、日本が目指すべき道は、安倍さんのように列強を目指す道なのか、それとも、いやそうじゃない、今までやってきた日本の平和大国としての(以下略)」

 「官邸とか、そういうところから色々怒られちゃたり」というのは、ISIL関連で「外務省は総理官邸に対し中東訪問自体を見直すよう進言していた」と報じた2月2日の放送のことを言っているのかもしれないが、政府は「怒った」のではなく、「事実無根」と抗議した。訂正も求めている。しかも、抗議したのは官邸ではなく外務省である(先月号拙稿)。なんであれ迷惑をかけた自覚があるなら、発言を慎むべきであろう。だが古賀は以下のとおり放言した。それも笑いながら。

 「ですから安倍さんの道がいいと言う人は『I am Abe』ですよ。だけど『全然違いますよ』と、『平和大国目指すんですよ』と言う人は、僕はこの間も言って、ものすごく怒られちゃったんですけど『I am not Abe』ということを世界に発信しないと。(略)もうちょっと手遅れに近いのかもしれないんですけど、(略)皆さんで議論してほしいと思います」

 ――等々、番組は7分40秒も古賀に独演させた。先月号と同じことを書く。「ご覧のとおり中身はスカスカ。表現も日本語として成立していない。(略)英語としても意味不明。あまりに幼稚すぎる」。ちなみに私は怒ってなどいない。ただただ呆れる。たぶんテレ朝も困っているのであろう。