高田亮(産業技術総合研究所)

はじめに


 1707年の宝永噴火後、300年静穏を続ける富士山について、富士山の活動履歴調査から何が語れるか。裾野を引く日本の美の象徴として多くの芸術家に愛されてきた富士山であるが、10万年の噴火史をひも解くと波瀾万丈の歴史が隠れている。ここでは、富士山の噴火の多様性を述べ、次に噴火史から噴火のリズムを解説する。そして、富士山の現在の状態をもとに、どのような噴火のシナリオを準備したらよいかについて考察する。 

多様な噴火をする富士山


「どれくらい噴火するのか」
富士山では噴出量が1立方キロメートルを超える大きい噴火が時々起こることもある。また、宝永の噴火以後の現在の状態のように、静穏な時期が続くこともある。富士山のマグマ溜まりとマグマの上昇路は、フィリピン海プレートが日本列島に衝突して東西に沈み込む、伸び縮みの変動が激しい場所に形成されている。このような富士山の特異なセッティングが、噴火規模・噴火間隔の多様性を生む原因と考えられている。
「どこで噴火するのか」
富士山は、山頂だけでなく山腹で多くの割れ目噴火を起こしている。噴火割れ目の卓越した方向は、統計的には、フィリピン海プレートが押す方向である北西-南東である。しかし実際は、富士山山頂を中心に弱い放射状といってもよく、時代ごとに山体内の力のかかり方が変化していることを意味している。割れ目噴火の分布をみると、山頂から13km強の距離までの範囲内で割れ噴火が発生している。
「どのような噴火をするのか」
富士山は爆発的噴火をする時期がある。いわゆる富士山型という円錐形で裾野を引く山形は溶岩流の噴火だけではできず、山頂での爆発的噴火の結果、急な斜面をもつ高い山が形成された。より粘り気の少ない玄武岩質の火山は、一般にハワイの火山のように、溶岩流を流しながら盾状の平べったい火山に成長するが、富士山はほかの玄武岩質火山と比べて、なぜ爆発噴火をするのか解決できていない。また、爆発的噴火をする時期としない時期がある。 爆発的噴火をすると、噴煙柱が高くあがり、火山灰は偏西風にのり、横浜、東京、千葉などの遠方にまで降下し災害の及ぶ範囲も拡大する。場合によっては斜面を火砕流が流れ下る。裾野では、火山性の泥流などの多様な災害が起こる危険性がある。 頻度は低いのですが、山の斜面が崩れる山体崩壊ということ現象もありうる。

噴火のリズムはあるのか


 富士山の噴火史の流れを振り返ってみよう。富士山は、約10万年間、単調に大きく成長したわけではなく、成長しては山体が崩壊するということを繰り返していた。最後の大きな山体崩壊は、山体の西側が約2万年前に崩壊した田貫湖岩屑なだれと呼ばれている。この時期の富士山は爆発的噴火を繰り返し、おもに東山麓から関東地方に厚い降下火山灰を堆積させていた。山麓には、噴火で氷雪が溶けた火山性の泥流堆積物が広がり、富士山の裾野が形成された。約2万年前の「田貫湖岩屑なだれ」のあと、富士山は再成長を始め。山頂からは爆発的噴火を、裾野からは長大な溶岩流を流した。駿河湾に流れ込んだもの、三島市付近まで流れてきたもの、中央線の猿橋まで流れてきたものがある。火山活動は徐々に静穏になり、山麓では火山灰の再堆積による富士黒土層とよばれる風化火山灰が堆積した。

 約5600年前以後、富士山では火山活動が再び活発になり、山体は成長し今より高くなっていたかもしれない。約3500年-2300年前の期間に、激動の時代を迎える。山頂では遠方に火山灰を飛ばす爆発的噴火が多く起こった。結果として山頂には直径500mの大きな火口が形成された。約2900年前には、東斜面で古い山体が崩壊する「御殿場岩屑なだれ」とよばれる事件が起きた。

富士山の南東斜面には宝永大噴火による噴火口が大きく口を開けている
 約2300年前以降、山頂での爆発的噴火は終了し、山頂火口からは噴煙が上がっていた。多くの古文書に山頂から噴煙が上がっていることが記述されている。山腹では多くの割れ目噴火が起った。特に、奈良時代から平安時代には富士山の活動が活発であった。西暦864年から始まる貞観噴火では、北西山麓で青木ヶ原溶岩流が多量に噴出した。 鎌倉時代以後は、火山活動は静穏になっていった。

 宝永1707年噴火は、南東山腹で溶岩流をださない爆発的噴火であった。宝永噴火の49日前の10月28日には、フィリピン海プレート境界部での宝永東海地震(M=8.4)が発生していた。宝永噴火では多くの災害が、しかも長期間にわたり発生した。御殿場では火山礫が1m以上積もり、人家が焼失したり倒壊したりした。酒匂川では、宝永噴火の噴出物からなる土砂が流れ込み、約100年にわたり大雨ごとに洪水氾濫が続いた。さらに遠方では、厚木で30cm、横浜で20cm、東京で数cmの火山灰が積もった。 宝永噴火後、300年間、富士山は静穏な時期を迎えることになる。

300年静穏な現在の富士山の状態


 防災科学技術研究所のHPによれば、富士山の下15kmには、低周波地震が発生している。この深さだと地殻変動の変化が小さく、その変化をとらえるのは難しいかもしれない。もし、これがマグマの蓄積に関係しているとしたら、この下約20km程度の深さでマグマは蓄積されている可能性がある。しかし、約1000年以上前には20-40年おきに噴火をしていたと考えられるのに、現在はそこからマグマは上昇できない。火山ガスも山頂からは検知されていない。地下の熱性系に吸い込まれている可能性もあるが、富士山の下には箱根のような温泉はまだ発達していないと考えられる。