勝村久司(元中央社会保険医療協議会委員)

 阪神・淡路大震災から20年の今年2015年は、地震予知計画開始から半世紀の節目でもある。

「できもしない地震予知」


 「日本の地震予知計画は1965年から始まった。これまでの予算は1000億円を超えた。現在約500人のスタッフがいる」しかし、「成果はなかった」。にもかかわらず、「予知推進派は、予算獲得の方便として利用し、特定の研究者による談合で研究費を配分し、従来通りの研究を続けようとしている」「できもしない地震予知に取り組むよりも基礎研究と防災対策を充実させた方がよい」「国民に非現実的な期待を抱かせるのは許されない」。

 以上は、阪神・淡路大震災が起こる約3ヶ月前の1994年10月23日付け毎日新聞の1ページ分を使った「日曜論争」という大きな記事で、当時、東京大学理学部助教授だったロバート・ゲラ-氏が主張していた内容の抜粋だ。

 この記事は、1994年10月4日に、釧路市などを中心に大きな被害をもたらした北海道東方沖地震を受けたものだった。この論争のもう一方の、地震予知研究の推進側の研究者は、「まずは、最も喫緊の課題である東海地震の予知に取り組むことが重要」という旨の主張を展開し譲らなかった。

 そして、その翌年の1月17日に、震度7を記録した兵庫県南部地震が起こったのである。

 その後も2004年の新潟県中越地震、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、と震度7の地震は続き、大きな被害が繰り返されている。

 阪神・淡路大震災によって、地震予知計画の意味が疑問視され、見直しを迫られた政府は、「地震予知のための新たな観測研究計画」と名称を変えて、さらに予算を増やしてきた。

 そして、現在では、文部科学大臣のもとに「地震調査研究推進本部」を設置し、「予知」ではなく「予測」という言葉を多用し、短期の「予知」ではなく、中長期の「30年以内に震度6弱以上の地震が起こる確率が何%」という「全国地震動予測地図」を毎年公開している。そして、その都度、その確率の数値をマスメディアが大きく取り上げ続けている。

 防災や減災に役立つことに多くの予算をつぎ込むのはよいだろう。しかし、このような予測地図の公表の繰り返しが、本当に防災・減災に役立ち、国民の命を救うことにつながるのだろうか?

地震予知への期待が防災教育を歪ませる


 兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災から20年。当時、私が勤務していた大阪府内の高等学校でも、時計は5時46分頃で止まり、校舎の壁の外壁が剥がれ、廊下も校舎のつなぎ目で大きな段差ができた。

 この大震災の全貌がほぼ明らかになった頃、高校生たちにアンケートを実施したところ、震災の悲惨さに心痛めた多くの生徒が「早く、地震予知ができるようになってほしい」「地震予知の研究を進めてほしい」という主旨の感想を書いた。これまでいかに、国や研究者やメディアが国民に地震予知に期待を抱かせていたかがわかる。

 私は、その生徒たちに、冒頭の毎日新聞の「日曜討論」の新聞記事のコピーを配布すると共に、何が最も大切なのかを考えさせた。

 阪神・淡路大震災では、その後の調査等によって、死者の8割が家屋等の倒壊による圧死。家具の転倒による圧死を含めると9割以上ではないかと推定されている。

 大震災による死亡の大きな原因は、地震で死亡しているのではなく、「家屋の倒壊・家具の転倒」や「火災」、「津波」などで引き起こされている。

 徐々に地震のメカニズムが明らかになる中でわかったことは、日本中、いつどこで大きな地震が起こってもおかしくないということだ。

 そのような日本で、防災・減災のために大切なことは、阪神淡路大震災のような直下型地震であれば、「耐震設計・耐震工事」「家具の固定」「防火設備・体制の充実やそのための都市計画」、さらに、東日本大震災のような海溝型の地震であれば、「津波から避難できる設備・体制の確保」だ。

 海溝型の地震であれば、少し地震動が来るまでに時間があるから、交通網への警報措置や、緊急地震速報なども一定、減災に役立つだろう。これらの研究・開発が進むことはのぞましい。しかし、これらは「予知」ではなく、地震が起こってからの対策である。

 したがって、国が予算をつぎ込むべきことは、地震の予知でも予測でもない。いつどこで地震が起こっても、災害を少しでも減らすための対策であることは明らかだ。

 国が、研究者たちとともに、地震の予知や予測に興味関心を持ち過ぎていると、国民もそれに期待をしてしまい、本当の防災・減災の施策や教育が疎かになってしまう。

 国民に知らしめるべきは、「日本国内はいつでも、どこでも、大きな地震が起こる可能性がある」という知識と実感だ。そのことは、「防災の日に思う-地学教育を空洞化させた文科省と教育委員会の責任は重い」にも書いた通り、文部科学省が国民全体に地学教育をきちんと受けることができるような施策をとることで実現する。