内閣改造を終えた安倍晋三首相(52)は今後、テロ対策特別措置法延長、消費税、年金問題、2008年度予算案編成など、政権の命運とわが国の将来を左右する課題に直面する。首相はまず、9月10日召集予定の臨時国会で、テロ特措法延長に反対する小沢一郎民主党代表(65)と、日米関係、つまりは対米協調とわが国の“自主独立”の兼ね合いについて、国民の前で徹底した議論を行う必要がある。

日米関係の現実は

 安倍改造内閣は、小泉、安倍両政権の参院自民党国会対策委員長として長く汗をかき、多くの重要法案成立に貢献した矢野哲朗(やの・てつろう)参院議員(60)の入閣が見送られた点は腑に落ちないが、総じてベテランが並ぶ実務型の布陣となった。
 最初の関門はテロ特措法だが、民主党は反対を取り下げそうもない。小沢氏は21日の講演で、テロ特措法に基づくインド洋への海上自衛隊派遣と日米関係についてこう語った。
《今、(海自は)米国の戦争に物資を補給している。(政府与党は)「(湾岸戦争時と異なる解釈で)後方支援は(憲法が禁ずる海外での)武力行使と一体化していないからいい」と言う。基本原則を打ち立てずに、米国の要請に押され泥縄式に無茶苦茶(むちゃくちゃ)な屁理屈でやっている。
 米国と共同のオペレーションを集団的自衛権(の行使)を認めてやるなら、善しあしは別にして一つの行き方だが、(政府与党は)「戦争に行くわけではない。危ないことはしない。米国の機嫌をとるために多少、何かやらないといけない」という、世界の国々から軽蔑(けいべつ)されるだけの行為を繰り返している。
 日米同盟のために(海自派遣を)やると政府は言うが、米国は日本を同盟国だと思っているわけがない。子供の火遊びにもならない兵隊ごっこをやっているだけの話で、こんな日本を信用するわけがない》
 特措法延長反対という小沢氏の“回答”に疑問はあっても、この指摘を聞いて忸怩(じくじ)たる思いのしない政府・与党幹部がいるなら、「鈍感力」抜群だ。

プチ反米感情

 小沢氏は8日、民主党本部まで足を運ばせた米国のシーファー駐日大使に、特措法の延長反対を明言した。米政府高官に正面切ってノーを言う政治家は珍しい。延長賛成の国民にも一種の爽快感(そうかいかん)を感じた人がいたとみられ、小沢氏への批判は高まらなかった。
 だが、インド洋での海自の今の程度の活動すら認めないのは国益を損なうやり方と思われる。また、小沢氏や民主党の過度とも思える国連「決議」中心主義は、中国などの国連安全保障理事会常任理事国が、安保理決議(国連決議)をつぶせば、自衛隊が国際的行動に乗り出せなくなることを意味するのではないか。安全保障上の選択肢を狭める恐れがある。
 もっとも、安倍首相は小沢氏に拍手する「プチ反米感情」を軽視してはならない。戦後民主主義的感情からくる反米は侮れない。また、首相自身を権力の座へ押し上げた近年の保守的感情の流れにも、日米同盟重視と米国追従を嫌う気持ちが混在しているからだ。
 イラクやインド洋へ自衛隊を派遣し、在日米軍の再編に協力しても、米政府は北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議でわが国を軽視している。「慰安婦問題」など歴史をめぐる立場の相違に外交的思慮を働かすことのないのが今の米政府だ。これらが「プチ反米感情」を醸成している現実もある。
 テロ特措法延長は、単なる一法案の延長にとどまらない問題を提起していることを忘れてはならない。
(政治部 榊原智)