月刊正論2015年6月号「マスコミ走査線」より
石川水穂(産経新聞客員論説委員)

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加国が、申請期限の3月31日までに46カ国に達した。先進7カ国(G7)の英国が参加表明したのを機に、欧州やオーストラリア、韓国などが雪崩を打って参加した。日本と米国は参加を見送った。

 日本の判断をめぐって、各紙社説での評価が大きく割れた。

 毎日は「結局、主要国で当初から参加しないのは、日本と米国になった。とはいえ、政府は参加を全面否定しておらず、将来的な加盟の余地を残している。それなら、組織の枠組み作りから関与し、自国の提案が反映されるよう、内から発言する作戦の方が賢明だったのではないだろうか」と政府の判断に疑問を投げかけた。(4月1日付「関与へ作戦立て直しを」)

 毎日はこれに先立つ3月24日付でも「アジアの主要国である日本を含まない始動は、新銀行にとっても日本にとっても良いことではない」と積極関与の検討を求めた。(「積極関与を考える時だ」)

 朝日も「透明で公正な運営が担保されるなら、日本がAIIBに出資することも選択肢の一つになる。日本が最大出資国である総裁も出しているADB(アジア開発銀行)が、協調融資などでAIIBと協力することも検討に値する」と関与を求めた。(4月1日付「関与は十分だったのか」)

 東京は「米国内では外交上の判断ミスとの声が上がり、日本もアジアでの存在感低下の懸念がある」「米国偏重で『アジアで孤立化』した日本が、アジアのリーダー的な地位を中国に奪われつつあることは明らかである」「対中国の緊張関係にとらわれ、世界の動きが見えていなかったのではないか。米国とともに行動すれば大丈夫という時代ではなくなったことを理解すべきである」と政府の判断を強く批判した。(3月31日付「国際金融秩序の転換か」)

 日経は申請期限前の3月20日付社説で「欧州の先進国が加わり、広がりのある国際金融機関がアジアに誕生する以上、目をそむけ続けるわけにはいかない」「流れが変わった以上、現実的な目線で中国の構想と向き合うべきではないか」「日本が資金を拠出して構想に参加する選択肢も排除すべきではない」と積極関与を説いた。(「中国が主導するインフラ銀に積極関与を」)

 いずれも温度差はあるが、中国主導の新銀行へのバスに乗り遅れるなという論調である。

 これに対し、読売は「参加国が増えたからといって、中国がAIIBの運営で圧倒的な支配力を握り、自国の国益に沿った事業に利用する懸念が消えたわけではない」「外交や安全保障上の不安も大きい。開発支援先への影響力を強める意図はないか。海洋進出を急ぐ中国海軍の寄港地を拡大するための港湾整備に、AIIBが融資する可能性も否定できない」などと問題点を指摘した。その上で「一部に『外交の失敗で日米が孤立した』といった批判も出ているが、国際金融秩序に責任を持つ日米が現時点で参加を見送ったのは、適切な判断である」と政府の判断を支持した。(4月3日付「『日米孤立』の批判は的外れだ」)

 産経も3月18日付で「問題は、中国による恣意的な組織運営への懸念が依然、払拭されていないことだ。中国が経済・外交的な影響力を高めようと、投資銀を使って甘い審査で資金をばらまくなら、途上国の健全で持続的な発展は望めない」「公正な統治の確立や融資方法に不安が残るとの判断から、日本が現段階で参加を見送る方針をとっているのは妥当だ」と政府の方針を支持した。(「恣意的運営を防げるのか」)

 AIIBへの参加を見送った日本政府の判断を批判ないしは疑問視する朝毎・日経・東京と、政府判断を支持する産読の論調が対立している。

 日本は懸念払拭のため、中国側に融資審査能力やガバナンス(統治)、既存の国際機関との関係などの説明を求めてきたが、明確な説明がない以上、3月末時点での参加見送りは当然といえる。一方、産業界には、「インフラビジネスで不利にならないようにしてもらいたい」との懸念の声もあり、先行きは流動的だ。

 中国が環境などに配慮しない強引な手法で開発を進め、それに対して日本が何も言えず、ただ金づるになるだけの参加は避けたい。安全保障の観点からも、日米の緊密な連携が必要である。

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